超黒塗料「ベンタブラック」を使用した人工衛星を2026年に打ち上げ、光害対策として
近年、SpaceXなどの民間企業による通信衛星ネットワークの急増が、天文学の世界に深刻な影響を及ぼしている。そのひとつが、衛星が太陽光を反射し夜空を明るくしてしまう「光害」だ。
この問題に対処するため、英国の研究チームは、光を99.965%も吸収する超黒塗料「ベンタブラック」でほぼ完全に塗装された小型衛星「ジョヴィアン-1」を2026年に打ち上げる予定だ。
この挑戦が成功すれば、未来の衛星設計に大きな変化をもたらすかもしれない。
2025年現在、地球の軌道にはすでに14,900基以上の人工衛星が存在しているが、今後50年では10万基を超えると予測されている。
とりわけ民間企業による通信衛星ネットワークの影響が大きく、スペースXの「スターリンク」は地球周回衛星の60%以上を占めている。
そうした人工衛星は、「制御不能な再突入」や「電波の干渉」など、私たちが知らぬ間にいくつかの問題を引き起こすようになった。
だが天文学者が今一番懸念しているのは「光害」だ。
金属で作られた衛星のボディは、太陽光をキラキラと反射する。そのせいで夜空が明るくなってしまい、地上から星空を観測し難くなっているのだ。
中国の衛星ネットワーク「千帆」のように、天文機関が推奨する明るさの基準を大きく超える機体も現れており、こうした状況は今後さらに悪化すると見られている。
この画像を大きなサイズで見るPhoto by:iStockこの問題に対応するために考案されたのが、世界一黒い衛星「ジョヴィアン-1(Jovian-1)」だ。
英サリー大学・ポーツマス大学・サウサンプトン大学による共同教育・研究プログラム「JUPITER」が中心となって開発が進められている靴箱サイズの小型衛星は、ボディを超黒素材「ベンタブラック」で塗装されている。
ベンタブラックは2014年に英国のナノテクノロジ―企業「サリー・ナノシステム」社が、カーボンナノチューブを利用して開発した光吸収素材で、光の99.965%を反射することなく吸収する。
今となってはもっと黒い素材が生み出されているが、それでも人工衛星による光問題を一気に解消できると期待されている。
この画像を大きなサイズで見る光の99.965% を吸収する超黒素材「ベンタブラック」/Image credit: Surrey NanoSystemsなおジョヴィアン-1に施されるのは、オリジナルのベンタブラックではなく、極端な温度変化や放射線といった宇宙の過酷な環境に耐えられるよう開発された「ベンタブラック310(Vantablack 310)」だ。
2026年の打ち上げの主な目的は、このベンタブラック310が本当に反射を抑制し、宇宙でも実用的なものかどうかを検証すること。
もしその有効性が確認されれば、今後の人工衛星設計において、光害を抑えるための標準技術となる可能性がある。
この画像を大きなサイズで見る英サリー大学・ポーツマス大学・サウサンプトン大学による共同教育・研究プログラム「JUPITER」のメンバー/Image credit: University of Surreyただし、光害を抑えたとしても、それだけで万事OKとなるわけではない。
たとえば、人工衛星は光を出さなくても電波を発しており、これが電波を利用した天体観測の妨げになっている。
専門家たちは、このままでは地上からの電波観測が不可能になるのではと懸念を募らせる。
また衛星の数が増えれば、その分衝突のリスクも高まる。
それによって撒き散らされるスペースデブリ(宇宙ごみ)は、宇宙の利用自体を不可能にする恐れがある危ういものだ。
さらに、寿命を終えて大気圏に再突入した衛星から撒き散らされる金属粒子が、地球の大気に与える影響はよくわかっていない。
人間が進出するところ環境問題がつきものだが、宇宙時代の幕開けは新たな環境問題の幕開けでもあるようだ。
References: Surrey.ac.uk / Satellite coated in ultra-dark 'Vantablack' paint will launch into space next year to help combat major issue
本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。