ホルムズ海峡はなぜあんな地形なのか、いずれはふさがる運命

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世界で海上輸送される石油のおよそ4分の1が通過するホルムズ海峡。およそ50kmの幅でペルシャ湾とオマーン湾を結び、交通量が極めて多く、何かあれば世界経済に甚大な影響を及ぼす重要な「チョーク(窒息)ポイント」のひとつだ。そして、2026年2月下旬から始まった紛争で、危機は現実のものとなりつつある。

ホルムズ海峡は2つの大陸が衝突した場所でもあり、地質学的にもたいへん貴重な場所だと言うのは、英オックスフォード大学で地球科学を教えるマイク・サール教授だ。

その証拠は、イラン南部のザグロス山脈から、オマーンのムサンダム半島が北に突き出ている海峡のいちばん狭いところにかけての地質に現れている。

黒く険しい岩壁と複雑な海岸線は、海面上昇で谷が水没してできた地形だ。ムサンダム半島は、通常は海洋の地殻の深いところに埋もれている岩石(オフィオライト)を見られる珍しい場所のひとつだ。「実にすばらしい場所です。世界でも格段に大きくて、最高のオフィオライトを見られます」とサール氏は話す。

この地質学的プロセスのおかげで、ホルムズ海峡は世界でもたいへん貴重な場所になっている。そして同時に、ホルムズ海峡はとても弱い場所でもある。

海峡とは、2つの大きな水域を結ぶ狭い水域だ。通常は、大陸を大回りして外洋に出るよりも早いので、船乗りたちは昔から海峡を活用してきた。そのため海峡は世界中の海運の要衝となっている。

海峡は、地球の構造プレートの移動と氷床の融解による海面の上昇という自然の力によって何百万年もかけて形成された。

ホルムズ海峡では、南側のアラビアプレートと北側のユーラシアプレートが約3500万年前に衝突した。

そのころ、2つの大陸はテチス海(ギリシャ神話における巨神族の海の女神にちなんで名付けられた古代の海)によって隔てられていた。北に移動するアラビアプレートがユーラシアプレートの下に潜り込み始め(この現象は「沈み込み」と呼ばれる)、2つの大陸プレートの陸地がひとつになるとともにテチス海は消滅したと、英ダラム大学の地球科学学部長で、アラビアとユーラシアの衝突について研究しているマーク・アレン氏は説明する。

「大陸の衝突がおもしろいのは、一夜にして終わるものではないところです。プレートを動かしている地球深部の力は、大陸が衝突してから数千万年が経過した今もまだ働いています」

アレン氏によると、アラビアプレートがユーラシアの下に潜り込むにつれて、「まるで2台の車が衝突したときのように」両方のプレートが圧縮されて厚さが増した。それが現在のイランのザグロス山脈だ。

この動きによって、ホルムズ海峡が作られる条件が整った。アレン氏は、アラビアプレートをしなやかな定規だと思ってほしいと言う。定規の端に重いものを載せると下に曲がる。同じように、山脈のあるユーラシアプレートを載せたアラビアプレートも下に曲がった。そうしてできたへこみがペルシャ湾とホルムズ海峡だ。

そこに海面上昇が重なった。アレン氏によると、約2万年前、最終氷期極大期のペルシャ湾はとても浅く、歩いて渡れる場所もあるくらいだったという。しかし、氷床が解け始めると、1万5000年の間に世界の海面が100メートル近く大幅に上昇した(アレン氏は「地質学的には驚くべき速さです」と話す)。

やがて現在のイラク東岸にあたる地域が水没し始め、ペルシャ湾にも水が入ってきた。チグリス川とユーフラテス川がホルムズ海峡付近まで達していた時期もあった。

ホルムズ海峡の付近を眺めたり、どちらかの海岸近くを歩いたりすれば、大陸の衝突の痕跡をありありと見ることができる。

「北側では、地殻がプレートの力で圧縮され、せり上がったせいで、イラン南部のザグロス山脈の壮大な景色が生まれました」とアレン氏は言う。この山脈では、砂岩、頁岩(けつがん)、石灰岩などの堆積岩が層をなしている。アレン氏によると、石灰岩は硬く、浸食にも強いので、何キロにもわたって一枚の石灰岩の上を歩ける場所もあるという。

「岩が形成される過程や理由を解き明かしたい構造地質学者にとって、ザグロス山脈はまさに楽園です。巨大な構造の上を歩いたり、衛星画像で分析したりできるからです。ほかでは見ることができないような、すばらしい地質を目の当たりにできます」

この一帯は、岩塩氷河(流れる岩塩)や岩塩ドームでも有名だ。このような地形は、大陸が衝突して地層がゆがみ、地中深くから岩塩が押し上げられると生まれる。「岩石氷河(隙間に氷などがある舌状の岩屑堆積物)のように、実際に斜面を流れ落ちるような岩塩を見ることができる場所もあります」

ホルムズ海峡の南側にあるムサンダム半島は、オマーンの北東沿岸沿いに延びるハジャル山脈の端にある。サール氏によると、この山脈は主にオフィオライトでできている。

9500万年前から6000万年前、白亜紀後期に大陸が衝突したときに、テチス海の海洋地殻やマントルがアラビアに押し上げられたものだ。そして、ペルシャ湾を作りあげたのと同じプレートの力によって、ムサンダム半島は東に傾き、まるで海峡を閉じるような形になった。

地質学的なスケールにおいてではあるが、ムサンダム半島は現在も活発に活動している。サール氏は同僚とともに2014年に発表した論文で、ムサンダム半島が今もザグロス山脈に向かって北に移動し続けていることを示している。

注目に値するのは、大陸の衝突によって、この一帯に膨大な石油ができたことだ。

アレン氏によると、ユーラシアと衝突する前の数億年間、アラビアプレートの表面は浅い海面下にあったという。そのため、石油や天然ガスの形成に必要な岩が蓄積されていった。

やがてプレートが衝突すると、石油や天然ガスの貯留層がアラビアプレートの北側の地下に閉じこめられた。現在で言えば、イラン、イラク、そしてシリアの一部にあたる地域だ。

「中東のすごいところは、その圧倒的な埋蔵量です」とアレン氏は言う。「広大な地域のあらゆる場所で、長い間にわたってそれが起きたので、埋蔵量は膨大です。お金をかけて採掘しても、数年で枯渇してしまうようなことはなく、何十年も持続します」

しかし、そうして掘り出した石油や天然ガスを世界に運ぶには、まずムサンダム半島が突き出している場所、すなわちホルムズ海峡を通過しなければならない。

先に述べたように、ムサンダム半島は対岸のザグロス山脈に向かって移動し続けている。「ホルムズ海峡は徐々に閉じていくでしょう」とサール氏は言う。ただし、完全に閉じるのは、早くても今から1000万年後のことだ。

文=Amy McKeever/訳=鈴木和博(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2026年4月8日公開)

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