男性性機能障害の新規治療法に光? オキシトシン経鼻投与による性的モチベーションと精子機能の二重改善効果

2025年10月17日

岡山大学 広島大学

◆発表のポイント

  • オキシトシン経鼻投与により、脳を活性化して性的モチベーションを促進させると同時に、精子機能も改善する革新的メカニズムを明らかにしました。

岡山大学大学院環境生命自然科学研究科博士前期課程の榎本千夏 大学院生(研究当時、理学部生物学科4年)、同学術研究院環境生命自然科学学域(理)の越智拓海 准教授、坂本浩隆 教授(神経内分泌学)は、広島大学大学院統合生命科学研究科の島田昌之 教授との共同研究により、「オキシトシン」の経鼻投与が雄ラットの性的モチベーションと精子機能を同時に改善する革新的な二重作用メカニズムを世界で初めて明らかにしました。これまでの男性性機能障害治療は、中枢性の性欲低下または末梢性の生殖機能のいずれか一方にのみ焦点を当てることが多く、包括的なアプローチが不足していました。本研究では、愛情ホルモンとして知られている「オキシトシン」を鼻から投与することで、脳の視床下部ニューロンを活性化し性的モチベーションを増強すると同時に、精巣上体機能や副性器活性を向上させ、精子運動率・前進運動率・精子数のすべてを有意に改善することを実証しました。特に注目すべきは、射精経験のない性的不活発な個体でも「オキシトシン」投与により自然な性行動が誘発された点で、従来治療では困難とされる重度の性欲低下と性機能障害の同時改善への新たな治療戦略の可能性を示しています。この研究成果は、2025年9月19日付で国際学術誌「The Journal of Sexual Medicine」電子版に掲載されました。

◆研究者からひとこと

これまでの男性性機能障害治療は、まるで「脳か下半身か」の二択を迫られているかのように、中枢性の性欲低下か末梢性の勃起障害のいずれか一方にのみ焦点を当てたものが主流でした。本研究で明らかにした「オキシトシン」の二重作用メカニズムは、中枢と末梢の両方を同時に改善する画期的な治療戦略の可能性を示しており、男性性機能医学に革新をもたらすと期待されます。 坂本教授 卒業研究という「最初の一歩」が、これほどまで良い結果が出るとは予想していませんでした!さらに国際学術論文として発表する機会まで得られたことは、もはや「ビギナーズラック」では説明がつかない幸運です。ここまで丁寧にご指導くださった先生方、そして日々切磋琢磨した研究室の仲間たちに、深く感謝いたします。 榎本大学院生

■論文情報 論文名: Dual-action intranasal oxytocin enhances both male sexual performance and fertility in rats「オキシトシン経鼻投与は雄ラットの性的モチベーションと精子機能を両方向上させる」 掲載誌: The Journal of Sexual Medicine 著 者: Chica Enomoto, Takumi Oti*, Takahiro Yamanaka, Masayuki Shimada, Hirotaka Sakamoto**責任著者) D O I: https://doi.org/10.1093/jsxmed/qdaf228 発表論文はこちらからご確認いただけます。

https://doi.org/10.1093/jsxmed/qdaf228

■研究資金 本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成事業(#22H02656; #22K19332; #23K14230)、岡山大学 次世代研究拠点形成支援事業(拠点代表者:坂本浩隆)、武田科学振興財団、内藤記念科学振興財団、両備てい園記念財団、ウエスコ学術振興財団、日本応用酵素協会、日本新薬株式会社からの支援を受けて実施されました。また、本論文は、「岡山大学 オープンアクセス推進に係る論文掲載料支援」を受けています。 <詳しい研究内容について>

男性性機能障害の新規治療法に光? オキシトシン経鼻投与による性的モチベーションと精子機能の二重改善効果

<お問い合わせ> 岡山大学 学術研究院環境生命自然科学学域(理) 神経行動研究室 教授  坂本 浩隆 准教授 越智 拓海 (電話番号)086-251-8656 広島大学 大学院統合生命科学研究科 教授  島田 昌之

(電話番号)082-424-7899

図1 オキシトシン経鼻投与上図は経鼻投与された薬物の移行経路を示しています。薬物は嗅上皮を通じて直接脳に到達する経路と、呼吸上皮から血管を介して全身循環に入る経路があります。

下部写真は雄ラットへのオキシトシン経鼻投与実験の様子です。ラットは頭部を10°下向きに傾けた状態で麻酔マスクを装着し、薬液を鼻腔内に投与しています。この方法により血液脳関門を回避して効率的に薬物を脳に送達できます。

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