「え?化学反応じゃなかったの?」【メントスコーラ】が起きるわけ

メントスコーラ、あるいはその見た目からメントスガイザー(geyserは間欠泉という意味)と呼ばれるこの実験を一番最初に広めたと言われているのは、米国の教育者で科学者とされるスティーブ・スパングラー(Steve Spangler)氏とされています。

彼は日本で言うとでんじろう先生のような人で、子どもたちでも楽しめる科学の実験をいろいろ考案して番組で紹介している人物です。

多くの人はこれが、メントスがコーラの溶液に溶けて起こしている化学反応なのだと勘違いしているかもしれません。

しかし、この動画の中でスパングラー氏は、「私がこの実験にメントスを選んだ理由は、これがチョークのような構造を持っているためです」と話しています。

つまり彼は成分内容からメントスを選んだのではなく、物理的な構造を理由にこの実験でメントスを選んだと述べているのです。

これはメントスコーラの実験が、基本的には化学反応では無く、物理現象として起きていることを意味しています。

メントスコーラは化学反応ではなく物理現象

では化学反応ではなく物理現象というのは、どういうことなのでしょうか?

化学反応は、物質に含まれる分子同士が結びついて分子構造が変化することで起こります。もしメントスコーラが化学反応の場合、何らかの成分同士が結びついて大量の二酸化炭素を発生させ、それが勢いよく吹き出さなければなりません。

しかし実験してみるとわかりますが、コーラに入れたメントスはあまりコーラの中で溶けていません。

またメントスと似た成分のフリスクなどを使ってみても、メントスコーラのような激しい噴射はおこりません。

重要なのはメントスの成分ではなく、メントスが持つ表面構造なのです。そのためメントスの味などもこの現象には特に影響しません。

メントスの表面を顕微鏡で見ると、非常に細かい凸凹とした突起に覆われており、多孔質構造を持っています。

メントスの表面顕微鏡画像。画像中のスケールバーは20μm。 / Credit:Coffey, T. S., Am. J. Phys. 2008, 76, 551.

この微細な凸凹を持つメントスの荒い表面が、コーラに溶けた炭酸ガスを刺激して、大量に気泡を生成させているのです。

炭酸ガスの溶けた溶液では、傷や突起がある場所で気泡が生成されやすくなります。

シャンパングラスには気泡の柱がきれいに立ち上るように、わざとグラスの底に傷が付けられているという話を聞いたことはないでしょうか。

シャンパングラスの底にはわざと傷が付けてありそこから泡が立ち上る / Credit:canva

これはよく知られている事実で、凹凸のある表面では、炭酸飲料の二酸化炭素が離脱しやすくなるのです。

では、なぜ凸凹した荒い表面上で気泡が生まれやすくなるのでしょうか?

メントスコーラの秘密は表面張力の弱体化

コーラなどの炭酸飲料には、二酸化炭素(炭酸ガス)が圧力によって溶け込ませてあります。

そしてこの状態を支えているのが、液体の持つ表面張力です。

表面張力というのは水分子同士の引っ張り合う力のことです。水分子同士が強く引っ張り合っているので、そのエネルギーで二酸化炭素は溶液中に封じ込められています。

そのため炭酸飲料に溶け込んだ二酸化炭素が、ここから逃げ出すためには液体の表面張力を突破する必要があります。

別にメントスを入れなくても、炭酸飲料は開封前に振動が加わると勢いよく噴射してきます。これが起きる原因の1つは、溶液を揺らすことで水分子の配置が不規則になり、表面張力が弱まるためです。

Credit:canva

そして凸凹した表面の近くでも水分子の配列は不規則に乱れます。ここでも、水分子が引っ張り合う力は弱まっています。

そのため、メントスの表面の様な微細な突起が集中した場所では、次々と飲料に溶け込んだ二酸化炭素が離脱を始めるのです。

また凸凹の隙間に泡が入り込むことで、これを核にして気泡が成長しやすくなります。

こうしてメントスの表面では爆発的に気泡が発生していくのです。

なので、メントスの表面積をたくさん稼ぐほど気泡の発生は強化されます。メントスコーラの実験で大量にメントスを入れる理由がここにあります。

一方フリスクは、メントスに比べて表面がツルツルとしています。もちろん顕微鏡で見た場合には、フリスクにも凸凹があるので気泡を生む力はありますが、メントスほどではないので爆発的な気泡の発生は起こさないのです。

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