トランプ氏、中国・欧州との貿易交渉難航-新たな関税の脅しで複雑化

トランプ米大統領は英国との枠組み合意に続くさらなる貿易協定の締結に意欲を示している。だが、中国や欧州との交渉は、意思疎通の行き違いや新たな関税の脅しによって停滞が続いている。

  米国にとって最大の貿易相手である中国、欧州のいずれとも突破口が見える兆しはほとんどない。ここ数日、トランプ氏が再び貿易を巡る瀬戸際戦術に踏み込み、緊張を高める発言を繰り返しているため、事態は一層複雑化している。

  米中間の摩擦はさらに激化している。中国政府は関税を巡る休戦合意が米政府によって「著しく損なわれた」として、報復を示唆しながら自国の利益を守る構えを見せた。

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  一方、トランプ政権は、中国政府がレアアース(希土類)の輸出規制撤廃を先延ばしにしていると非難している。米側はレアアース問題を合意の要と見なしている。

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  ホワイトハウスは2日、緊張緩和に向けてトランプ氏と習近平国家主席の電話会談を模索していると明らかにした。ホワイトハウスのレビット大統領報道官は、今週中に両首脳が会談すると見込んでいると述べたが、中国側は今のところ関心を公に示していない。

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  一方で、欧州連合(EU)は、トランプ氏が関税の脅しを実行に移した場合、対抗措置を取ると新たに警告した。

  EUの行政執行機関、欧州委員会は、トランプ氏が打ち出した鉄鋼・アルミニウム関税の50%への引き上げについて、貿易障壁解消に向けた取り組みを損なうものだと強く批判。合意が成立しなければ、対抗措置を発動する準備があるとEU当局者は警告している。

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  トランプ氏の交渉スタイルは、関税を世界貿易の再構築に向けた経済的手段とし、その脅しによって最大限の成果を得るとの考えに基づいている。ただ、こうした戦略の効果は今のところ限られている。

  中国との間で一時休戦状態にあるのに加え、英国とは包括的な枠組みで合意したが、政権が数週間にわたって予告してきた他の主要貿易相手国・地域との合意は、いまだ実現していない。

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  こうした混乱にもかかわらず、トランプ政権は自らの手法に自信を見せている。

  レビット報道官は2日、トランプ氏の脅しがEUを交渉の場に引き出したと主張し、ホワイトハウスとして合意に達する「希望と楽観」を引き続き抱いていると語った。

  一方で、トランプ氏の関税政策は法的な危機にも直面している。米国際貿易裁判所は先週、トランプ氏の世界的な関税措置を巡り、その多くの部分について違法だと判断して差し止めを命じた。この判断は現在、連邦高裁で審理中であり、一時的に停止されている。

  関税差し止めが確定すれば、トランプ氏の経済政策と外交上の交渉力にとって大打撃となる。

グリア米通商代表部(USTR)代表(左)とベッセント米財務長官(5月12日)

  それでも米政府当局者は、前進の可能性に期待を示している。グリア米通商代表部(USTR)代表は今週、パリで欧州側と会談する予定だ。トランプ氏と習氏の電話会談が実現すれば、トランプ氏就任前の今年1月以来、初の公式な対話となる。

  投資家らは、こうした不安定な交渉の行方を慎重に見守っている。欧州の株式市場は2日、貿易を巡る世界的緊張の高まりを背景に下落した。米株式市場も不安定な動きを見せた。企業が関税を懸念して慎重姿勢を強める中、米国の製造業活動は縮小し、輸入指数は16年ぶりの低水準となっている。

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  ベッセント米財務長官は、米中協議の前進には首脳会談が不可欠だと指摘。1日にはCBSニュースの番組で「両首脳が対話することになれば、そこから全てが始まるだろう」と述べた。

原題:Trade Pacts With China, Europe Prove Elusive for Volatile Trump(抜粋)

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