スポーツブランドは靴を片方でも売ってほしい、元陸上世界チャンピオンの夢と活動

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画像説明, 元パラアスリート世界チャンピオンのステフ・リードさん

ステフ・リードさんは、スポーツに夢中な子どもだった。世界の舞台に立つラグビー選手になることを夢見ていた。しかし、16歳の誕生日の前夜、人生が一変した。

ボートのプロペラに巻き込まれる悲惨な事故だった。医師団はリードさんの右足を切断するしかなかった。

リードさんは当初、ラグビーに挑戦し続けたが、敏捷(びんしょう)性とスピードは前と同じではなくなった。両足があった自分と今の自分を比較することに、くたびれるようになった。

「四肢切断者だからという理由で目標を諦めたくはなかったけれど、人生は常に変化しています。もはや存在しない現実に目標を無理に合わせるのではなく、目標を更新しなくてはならない」と、リードさんは言う。

そこでリードさんはラグビーから離れ、陸上競技に転向した。右脚に軽量で弾力性のあるカーボンファイバー製の義足ブレードを装着し、やがてカナダおよびイギリスの代表として、パラリンピックの走り幅跳びと短距離走で世界チャンピオンになった。メダルを獲得し、記録を更新し、大英帝国勲章メンバー(MBE、5等)を授与された。

今はプロスポーツから引退しているが、俳優業、モデル業、放送業といった新たなキャリアでも、「ダンシング・オン・アイス」への出演も含め、選手時代と同じような適応力と回復力を示している。

そしてリードさんは今、ナイキやアディダス、プーマなどの大手スポーツ用品ブランドに対し、靴をペアではなく片足ずつ販売するよう求めるキャンペーンを展開している。

この取り組みは、部分的には費用に関する問題に起因している。高性能のランニングシューズの値段は、約200ポンド(約4万円)だ。競技時代には左足の靴しか必要なかったにもかかわらず1足分を購入しなければならず、使わない靴に数百ポンドを無駄にしていたという。

しかし、リードさんにとって最大の動機は、理念そのものだという。多くの大手ブランドは、義足ブレードを装着したモデルを店舗のショーウィンドウに誇らしげに展示しているが、リードさんのようなアスリート向けに靴を片足ずつ販売してはいない。

「義足のマネキンはとても気に入っていたし、15歳の私がそれを見ていたらよかったのにと思う」とリードさんは語った。

「でも今は小売業者に対し、自分たちが掲げるインクルーシブ(包摂的)なイメージを、買い物客の実際の体験と一致させてほしいと思っている」

同じ考えの人は他にもいる。リードさんは、日常用の義足では両足に靴を履いているが、多くの四肢切断者はそうではない。

さらに、障害の有無を問わず、左右の足のサイズが異なる多くの人々も、同じサイズの靴をペアで購入しなければならないことによって、この事態の影響を受けているという。

画像提供, Stef Reid

画像説明, 世界的なスポーツブランドは、包括的なマーケティングと、片方の靴を必要とする人々向けの活動をまだマッチさせていないと、リードさんは指摘する

ナイキは昨年、片足の靴を半額で購入できる「シングル・シュー・プログラム」を一部店舗で開始した。しかし、この取り組みは明確に告知されておらず、利用にはカスタマーサポートチームへの連絡が必要で、オンラインでは利用できない。

リードさんがこの問題を提起した際、ナイキから同プログラムの案内は受けず、代わりに一度限りの15%割引が提示されたという。

「私はこれからもずっと片足なので、(一度限りの割引は)長期的にはあまり役に立たない」と、リードさんは言う。

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画像説明, スポーツ用品店は近年、ランニングブレードを身につけたマネキンを店舗に置くようになった

イギリスのパラリンピック代表チームに用具を提供しているアディダスも、オンラインでは片足の靴を販売していない。ただし同社によると、在庫状況に応じて、一部店舗では片足の靴を購入できるという。さらに、同社は包括的な方針の策定が「最終段階」にあると付け加えた。

一方、プーマは店舗でもオンラインでも片足の靴を販売しておらず、コメントの要請に応じなかった。デカスロンも同様だった。

ナイキとアディダスはこの問題への対応に向けて前向きな一歩を踏み出しているが、リードさんは、スポーツブランド各社がすべての店舗およびオンラインで片足の靴を標準的に販売すべきだと考えている。

一方、一部の中小企業や草の根団体は、靴の片足販売は可能だと、すでに証明している。

高級靴のシュー(Schuh)は、片足の靴を、ペアの半額で販売している。また、靴チェーン「オフィス」も、アウトレットサイトを通じてサイズの異なる靴のペアを購入できるようにしている。

さらに小規模な取り組みとして、「ジョーズ・オッド・シューズ」がある。これは、複合性局所疼痛症候群のため右脚を失ったジョー・オキャラハンさんが立ち上げた活動だ。

オキャラハンさんは、この疾患によって義足が装着できなくなり、多くの四肢切断者と同様に、片足の靴しか必要としなくなった。

オキャラハンさんは、余った靴を交換または寄付できるフェイスブックグループを立ち上げた。多くの小売業者も、この取り組みに靴を寄付している。

靴は会員に無料で提供される。送料と梱包費として少額の料金が必要となる。

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画像説明, ジョー・オキャラハンさんは、靴の片足分を交換・寄付できる仕組みを作った

このサービスの恩恵を受けている人物の一人が、エアスポーツ選手のジャック・ピンブレットさんだ。

ピンブレットさんは、右足と脚の成長を妨げる内反足という疾患をもって生まれた。幼少期には、両足に合う靴を見つけるのに苦労したという。

余ったスペースを埋めるために、靴の中に綿を詰めることも多かった。

成人後は、ジュニアサイズと大人サイズを組み合わせることで対応している。右足にはサイズ5(約23センチ)、左足にはサイズ7(約25センチ)の靴を購入している。

しかし、この方法には大きな経済的負担が伴う。ピンブレットさんは通常、2足分の靴に約150ポンドを費やしている。

「ぴったり合う靴を、2倍の金額を払わないでも買えるようになったら、それはうれしい」と、ピンブレットさんは語った。

リードさんは、自分が求める変化には時間と費用がかかることを認識しているが、企業に対して前進を促している。

「必要なのは、正しい方向への最初の一歩だけ」だと、リードさんは呼びかけた。

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