【中国ウオッチ】習政権、「日本軍国主義復活」断定◇日中関係の修復困難に:時事ドットコム

 中国の習近平政権は「日本軍国主義が復活しつつある」と断定する認識を明確にした。高市早苗首相の台湾有事発言だけではなく、日本が全体として過去の侵略をきちんと反省していないことが問題だとしており、日中関係の修復は長期的に難しいとみられる。(時事通信解説委員 西村哲也)

 「ドイツと異なり、日本は戦後80年たっても、いまだに侵略の歴史を徹底的に反省していない」。中国の王毅外相は12月8日、北京を訪れたワーデフール独外相との会談でこう述べて、日本を批判した。中国高官が歴史問題に関する日本の「反省」をここまではっきりと対外的に否定するのは異例だ。

 王氏は、高市氏の台湾有事発言を「中国に対する武力の脅し」だと決め付け、中国人民と世界中の平和を愛する人民には「軍国主義復活を企てる日本の野心」を阻止する義務があると訴えた。

 中国側が問題視する高市氏の発言は11月7日の国会答弁だったが、中国外務省はすぐに反応を示さず、同10日にようやく同省報道官が「断固たる反対」を表明。さらに13日、コメントを出し直す形で発言撤回を要求し、「軍国主義の失敗を繰り返そうとしているのか」と問い掛けた。

 報道官はその後の記者会見でも「われわれは日本軍国主義の復活を絶対に許さない」「軍国主義復活のいかなる企ても断固阻止する」と警戒感をあらわにした。

 習近平国家主席も11月24日、トランプ米大統領との電話会談で台湾問題に関する中国の原則的立場を説明。中国外務省の発表によると、「中米はかつて、肩を並べてファシズム・軍国主義に立ち向かった。今も第2次世界大戦勝利の成果を共にしっかりと守らねばならない」と呼び掛け、同じ戦勝国としての連帯をアピールした。

 習氏が外国指導者との会談で「軍国主義」に触れるのは珍しい。10月30日に韓国でトランプ氏とじかに会った時、台湾問題を持ち出さなかったこともあり、高市氏の発言を受けて、トランプ氏に対し、歴史的経緯を含めて中国側の言い分を詳しく説明したようだ。「敗戦国・日本を擁護するな」ということだろう。

 台湾有事で日本に「存立危機事態」が生じれば、集団的自衛権を行使する可能性があるとの見解がなぜ、日本軍国主義復活につながるのか。

 共産党機関紙・人民日報の論評(11月28日)は高市氏の発言について、戦後日本の指導者が(1)初めて「台湾有事は日本有事」論を公式の場で鼓吹し、集団的自衛権と関連付けた(2)初めて台湾問題に武力介入しようという野心をあらわにした(3)初めて武力で中国を脅した─と解説した。

 (2)と(3)はかなりの拡大解釈だが、中国側の日本軍国主義復活論はこれらの見方に基づいていると思われる。

公式メディアが大々的に非難

 中国側は「日本軍国主義」の現状を具体的にどう捉えているのか。共産党の指導下にある主要公式メディアは次のような見解を示している。原文は以下の通り。

 一、高市早苗は、日本の戦後経済・社会の発展が第2次世界大戦の歴史の教訓への反省に基づいて得られた事実を無視し、軍国主義を受け継ぎ、ポピュリズムの勢いを利用する歴史的に古い道を歩もうとしている。(人民日報=11月18日)

 一、高市は、完全に中国内政に属する台湾問題を日本の「存立危機事態」の枠組みに入れて、中国内政に粗暴に干渉し、中国の核心的利益に挑戦して、中国の主権を著しく侵犯している。軍国主義による侵略拡張というでたらめな理屈の継続である。(軍機関紙・解放軍報=11月20日)

 一、高市は再び(「存立危機」を口実に侵略戦争を行うという)この危険な考えを具現化しようとたくらんでおり、軍国主義を復活させようとする陰険な魂胆は誰の目にも明らかだ。(国営通信社・新華社=11月27日)

 以上の見解から、中国側は、日本軍国主義が復活のプロセスに入るのを警戒しているのではなく、高市氏の首相就任で軍国主義が既に復活のプロセスに入ったと判断していることが分かる。

「個人的言動ではない」

 中国側の批判対象は以下のように、高市氏だけではない。

 一、今日まで日本は一貫して戦争の犯罪行為を深く反省せず、軍国主義を徹底的に清算せず、その右翼勢力はさらに侵略を粉飾し、戦後体制からの離脱を妄想している。高市の台湾に関するでたらめな理屈は、つい口に出てしまった個人的言動ではなく、日本国内で軍国主義のあしき影響が消えず、勢いを取り戻している現実の表れである。(解放軍報=11月21日)

 一、高市早苗の頑固な立場は、日本右翼勢力が引き続き台頭し、軍国主義思想のあしき影響が消えていないことを暴露した。(人民日報=11月22日)

 一、日本学術界、文芸界、教育界、報道界などの分野には、大量の歴史修正主義の論調が存在し、侵略と植民の歴史をみだりに歪曲(わいきょく)、否定し、さらには美化する言論がよくあり、珍しくもない。一部の日本国民はその言論(高市首相の台湾有事発言)をよく考えもせずに支持しており、日本軍国主義の復活には相当な土壌があることを示している。これは、歴史修正主義が長年はびこってきたことのあしき結果である。(解放軍報=12月13日)

 情報機関である国家安全省のシンクタンク・中国現代国際関係研究院も11月25日、「高市の誤った言論の背後にある極右思想を暴く」と題する大論文を発表。「日本の戦後処理は不十分で、その戦争犯罪行為と軍国主義思想は完全に清算されなかった」と断定した。

 つまり、中国側にとって、日本軍国主義復活は高市氏個人の問題ではないということだ。日本という国の政治的土壌の問題なのであるから、仮に高市氏が台湾有事発言を撤回したり、退陣したりしても、根本的解決にはならない。

 日中国交正常化は日本の侵略戦争反省を前提としていた。日本軍国主義復活論は、その前提が崩れたと中国側が判断したことを意味する。

 台湾の民進党や香港民主派を独立派として敵視する宣伝攻勢からも分かるように、中国共産党が対立勢力に一度貼ったレッテルをすぐ剥がすことはない。日中関係は今の険悪な状態が相当長く続き、いずれそれが常態化する可能性もあると考えるべきだろう。

 中国側は、日本国内の高市氏批判や対中譲歩論を後押しするとともに、国際機関や米欧など関係各国に日本軍国主義復活論を吹聴し続けて、日本側を揺さぶってくるとみられる。

(2025年12月23日)

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