学会が再注意喚起!マクロライド耐性百日咳菌の出現
日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会(以下、同委員会)は、3月29日に注意喚起を行った生後2カ月未満の新生児および乳児における重症百日咳発症および治療薬の選択について、6月22日にあらためて注意喚起を促した。生後2カ月未満児での重症百日咳症例が相次いでおり、百日咳含有ワクチン接種前の乳児で死亡例が確認されたのを受けてのこと。
ST合剤併用を検討、ただし注意点も
生後2カ月未満で百日咳菌に感染した場合、急速な呼吸不全、無呼吸、 脳症、肺高血圧症などを来し、致死的な経過をたどるケースがある。通常、百日咳の治療にはマクロライド系抗菌薬(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)が用いられる。
しかし近年、マクロライド耐性百日咳菌の出現が世界中で問題となっており、日本でも耐性菌の検出頻度上昇が報告されている。全例が耐性菌による発症とは限らないものの、乳児の重症例ではマクロライド単独治療が奏効しない可能性を念頭に置いた対応が求められるという。
こうした状況を受け同委員会は、重症百日咳が疑われる症例に対しマクロライド系抗菌薬に加えてST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)の併用投与も検討する必要があるとし、次のような注意を求めた。
●ST合剤を併用投与する場合、黄疸を呈する新生児ではアルブミンとビリルビン結合のDisplace作用によるビリルビン脳症の発症リスクに注意する
●検査診断された百日咳患児にST合剤の予防投与を検討する場合、家族に十分な説明を行い同意を得た上で投与を考慮することが望まれる
●ST合剤の供給不足を回避する上で、家族内に高リスク乳児がいない場合は必ずしも同薬投与が必要でない
なおST合剤は、電子化された添付文書では、ST合剤の成分/サルファ剤への過敏症の既往歴を有する患者、妊婦または妊娠している可能性のある女性、低出生体重児、新生児、G6PD欠損症患者には禁忌とされており、注意を要する。
また、最小発育阻止濃度が良好な抗菌薬を含有する製剤(ピペラシリン、ピペ ラシリン・タゾバクタム、セフォペラゾン・スルバクタム)での14日間の治療が有効とするin vitroでの報告がある。しかし現時点では臨床データが限られている。
ワクチン未接種で生後6カ月以内の重症例では、免疫グロブリン製剤の投与も選択肢として考えられるが、十分な説明による同意を得た上で投与を検討する。
生後2カ月を迎えた児には直ちに5種混合ワクチン接種を行うことを推奨
重症百日咳の早期診断においては、臨床症状に加え核酸増幅法による病原体遺伝子検出の活用、百日咳菌の分離・培養も重要である。
マクロライド耐性の有無にかかわらず、百日咳含有ワクチン接種は百日咳の感染予防に有効なため、同委員会は生後2カ月を迎えた児には直ちに5種混合ワクチン接種を行うことを推奨するとしている。また医療機関においては、生後2カ月未満の百日咳罹患児に対するマクロライド耐性菌の存在を想定した治療方針、さらにワクチン未接種児への感染防御の観点から飛沫・接触感染対策の徹底の必要性を強調した。
(編集部・田上玲子)