「あのみー」「おとろしい」奈良の女、高市早苗首相が愛する「大和弁」愛着度2%存亡危機
京都、大阪という個性的な2府に隣接し、控えめな古都のイメージがある奈良県。近畿で存在感が強いとはいいがたかったが、「奈良の女」と強調した高市早苗首相が誕生し、注目された。ただそのお国言葉「奈良弁(大和弁)」は存亡の危機にあり、県民の方言愛着度は全国最低に近いとする調査もある。「あのみー(あのね)」や「おとろしい(面倒くさい)」など独特の言葉が忘れられつつあり、専門家は伝承の大切さを訴える。
「聞いたことない」
奈良市の主要駅・近鉄大和西大寺駅前。奈良弁の「あのみー(ほんでみーなどともいう)」「おとろしい」「まわり(準備)」「せんど(何度も)」「いぬ(帰る)」という言葉について、奈良県民に聞くと、「聞いたことがない」や「使わない」などの答えが返ってきた。
同県平群(へぐり)町の女子大学生(21)は同町出身だが「おとろしい」や「まわり」、「せんど」、「いぬ」については「聞いたことがない」と打ち明けた。「みー」は「聞いたことはあるが全然使わない」と答えた。
4歳から県内に住んでいるという奈良市の男性会社員(52)は「みー」について「年配の人と話すと聞くが、自分は使わない」と回答。「おとろしい」は高校時代に使っていたが、現在は話さないという。
同県大和高田市出身で、関西弁を研究している同志社女子大の中井精一教授(63)=日本語学=は同市から大阪市内に通学していた高校時代、「『あのみー』は周りには通じなかった」と思い出し、「使うのはぼくらの世代くらいまで」と話す。
中井教授によると、「みー」はもとは「見て」で奈良県以外では使われないという。「おとろしい」「まわり」「せんど」「いぬ」も独特の表現。「おとろしい」は和歌山県や大阪府南部では「恐ろしい」の意味となる。せんどは「千度」、いぬは古語の「去(い)ぬ」から来ている。
愛着度は43、44位
リクルートが運営する「じゃらんリサーチセンター」の「ご当地調査」によると、奈良県に長く住むご当地県民の「方言・なまり」愛着度は令和7年、6年の調査でそれぞれ43位、44位だった。
調査はインターネットで47都道府県のご当地在住者計7千~8千人ほどに「方言・なまり」などさまざまな項目で愛着を感じているかを聞き、各都道府県の愛着の比率を比べた。
7年の「方言・なまり」トップは福岡県(29・2%)、2位が沖縄県(29・0%)、3位が高知県(26・1%)。近畿では大阪府(22・9%)が6位に入ったが、奈良県は43位でわずか2・7%。6年は大阪府が1位で35・3%、奈良県は44位で2・0%だった。
「奈良府民」の影響
中井教授は、富山大教授時代の平成26年、学生とともに、奈良弁約300語を集めた「奈良県方言番付」を作成した。複数の方言集から単語を選び、県内の高齢者約10人に「奈良らしい方言」を調査。結果を相撲のような番付にし、上段に「ほうせき(おやつ)」「きっしょ(しおどき)」などを置いた。自身が監修した18年の「富山県方言番付」が大きな反響を呼んだこともあり、期待したが、あまり注目されなかったという。
奈良県の方言を集めた「奈良県方言番付」(中井精一・同志社女子大教授提供)中井教授は「奈良は存在感が強い京都、大阪に囲まれ、自分たちの言葉に自信がない」と話す。
奈良弁はもともと京都や大阪の影響を受けてきたが、現在は隣接の大都市・大阪の影響が強くなっているとされる。令和2年国勢調査では、奈良県民の県外就業率は27・3%で全国3位の高さ。大阪府内に通勤する県民を「奈良府民」とも呼ぶ。日中は大阪、夜は奈良という生活を送ると、地元で奈良弁を聞き、話す機会は限られてくる。
中井教授は「標準語は教育で身につけられるが、方言は家族、地域の言葉。それを失うことは伝統を見失うこと」と指摘。「奈良の言葉を伝えていくことは郷土愛につながる。公民館などの生涯学習で学ぶ場をつくるべきだ」と提言する。(張英壽)