【韓国統一地方選】与党勝利も内部の主導権争いが激化か 李在明大統領が高支持率背景に断行する「司法改革」「実用外交」の行方

NEWSポストセブン

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 高市早苗首相と韓国の李在明大統領の「シャトル外交」により、良好な関係が続く日本と韓国。これまでの日韓関係といえば、対立する場面が目立ってきたが、なぜ変化したのか。国際政治学者の舛添要一氏は李大統領の「実用外交」が背景にあるという。舛添氏が韓国の最新選挙結果を分析しつつ、解説する。

【写真】地方選で野党候補者応援に繰り出した朴槿恵元大統領

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 韓国で李在明政権が誕生してから1年が経つ。その間の日韓関係は良好で、両国間に大きな軋轢もなく、マスメディアで韓国が批判的に取り上げられる機会も減っている。その韓国では6月3日に統一地方選が行われ、与党が勝利した。選挙結果を分析し、現在の韓国の政治状況を俯瞰してみたい。

全体では与党勝利も、注目選挙区では…

 地方選では、与党の左派「共に民主党」は、16の市長・道知事選挙のうち、釜山市、中部の大田市、北東部の江原道など12自治体で勝利した。また、統一選と同時に行われた国会議員の再選挙・補欠選挙では、全国14箇所のうち、与党は9議席を獲得した。投票率は61%で、前回(50.9%)より約10%上がった。

 注目選挙区の結果を見ていこう。首都ソウル市では、野党「国民の力」の現職、呉世勲(オ・セフン)候補(65歳)が、与党「共に民主党」の鄭愿伍(チョン・ウォノ)候補(57歳)を破り、再選を果たした。呉世勲は253万票(49.08%)、鄭愿伍は249万票(48.2%)という僅差であった。

 釜山市長選では、与党の田載秀(チョン・ジェス)候補(55)が50.52%を獲得し、「国民の力」の現職、朴亨ジュン(パク・ヒョンジュン)候補(66)に競り勝った。得票率の差は50.52%対47.90%であった。

 大邱市長選では、野党の秋慶鎬(チュ・ギョンホ)候補(65、元副首相兼企画財政相)が、与党の金富謙(キム・ブギョム)候補(68、元首相)に勝ち、保守の牙城を維持した。

 国会議員の補欠選挙はどうだったか。釜山市では、野党の朴敏植(パク・ミンシク)候補(60)、李在明大統領側近で元大統領府AI首席秘書官である与党の河丁友(ハ・ジョンウ)候補(48)が立候補したが、野党「国民の力」の元代表で今回は無所属で立候補した韓東勲(ハン・ドンフン)候補(53)が勝利した。

 京畿道では、「共に民主党」の金龍南(キム・ヨンナム)候補(56)、「国民の力」の兪義東(ユ・ウィドン)候補(54)、そして革新系野党「祖国革新党」のチョ・グク代表(61)が戦ったが、兪義東候補が三つ巴の戦いを制した。

与野党とも党内主導権争いが激化か

 首長選16戦12勝、国会議員補欠選挙14戦9勝という結果を見れば、与党勝利ということになるが、首都ソウルの市長選で敗北するなど、必ずしも喜べない結果である。

 与党「共に民主党」では、鄭清来(チョン・チョンレ)代表の責任を問う声も出ている。8月には党の代表選挙が予定されているが、李在明大統領は、自らの側近を立候補させる予定であり、党内での主導権争いが激化しそうである。

 一方、野党の「国民の力」は、ソウル市長選で勝つなどしたために意気軒昂であるが、求心力の低下は否めない。選挙前の今年1月下旬の韓国ギャラップによる世論調査では、党の支持率は25%にとどまっている。これまで圧勝してきた大邱市でも、接戦に持ち込まれてしまった。

 呉世勲ソウル市長や釜山市で勝った韓東勲が「国民の力」の次期大統領候補とされている。両者は、今の党代表、張東赫(チャン・ドンヒョク)には批判的であり、保守陣営でも主導権争いが展開されそうである。

 非常戒厳令を出した尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領に対して、呉世勲や韓東勲は批判的立場であり、そのために後者は党代表を辞任させられ、党から除名された。韓東勲が復党できるかどうかは不明である。

 ちなみに、選挙期間中は元大統領の朴槿恵や李明博が保守陣営の応援に繰り出したことも大きな話題となった。

良好な経済運営の裏で少子化、格差拡大は止まらず

 李在明政権は、発足以来、6月4日で1年を迎えた。支持率も60%前後を維持し、安定した政権運営を行っている。野党時代の2024年の総選挙、2025年の大統領選挙、今回の統一地方選・国会補選と、3連勝の成績である。

 高支持率の背景は、良好な経済である。OECDが6月3日に公表したデータによると、今年の韓国の名目成長率は10.4%と予測されている。達成すれば、24年ぶりの10%台となる。半導体の輸出が好調で、これが好景気の動力となっている。GDPに対する国家債務比率も、48.2%に下方修正された。

 しかし、問題もある。それは、不動産価格の高騰であり、ソウルも東京と同じような状況になっている。

 シリーズ前回記事では、人口問題を論じたが、合計特殊出生率は、東アジアでは極めて低い。とくに深刻なのが韓国である。2024年は0.75で、2025年は少し増えて0.80(暫定値)であるが、深刻な状況は変わっていない。

 ソウル市内で平均1億円を超えるマンションは高嶺の花であり、それが、結婚、そして2人以上の子どもを持つことを妨げている。また、日本や中国と同様に、子弟の教育のために多額の出費を強いられるため、その点からも一人の子どもを育て上げるのに精一杯なのである。李在明政権は、マンション供給を増やす方針を打ち出しているが、それが住宅価格の低減につながるかどうかは分からない。

 貧富の格差も拡大している。相対的貧困率(所得が中間の人の半分未満の割合)は15.3%(2024年)で、OECD加盟国37ヵ国の中でも高い。とくに高齢者の貧困率は39.8%で、OECD平均(14.8%)の2倍以上である。

 さらに、大企業と中小企業の間で、また正規労働者と非正規労働者との間で、賃金格差が広がっている。そのため、若者は雇用不安を抱き、学歴や資格などを競い合う受験競争(スペック競争)が激化している。

現大統領は自己保身のために司法改革を断行?

 李在明は就任後、検察庁の廃止を決めたほか、判事・検事に罰則を科す「法歪曲罪」の導入などを断行し、権力の乱用防止を喧伝している。しかし、これは、三権分立の原理に背反し、大統領に権力を集中するおそれがあり、批判の声が高まっている。

 李在明が多くの訴訟を抱えているので、自己保身のためだという厳しい声も寄せられている。大統領就任とともに、刑事裁判は審理が停止されたが、退任後には再開されるので、そのための対策だという批判である。

 このような無理な制度改革は、トランプ大統領の手法に一脈通じるものがある。

李在明の「実用外交」は今後も通用するか

 李在明政権の外交は上手くいっている。とくに日韓関係がそうである。保守の高市早苗首相と左派の李在明大統領が、お互いの出身地を訪問するなど、極めて良好な関係である。これまでの日韓関係では、日本の右派首相と韓国の左派大統領とでは、激突し、抜き差しならぬ対立関係が生じたものである。

 アメリカとの関係は、対北朝鮮政策を巡って必ずしも一致していない。李在明政権内には、北朝鮮との融和路線を探る動きもあるからである。しかしながら、今のところ、韓国が北朝鮮と協議をするような予定はない。

 習近平政権は、日米韓の結束にヒビを入れるべく、様々な働きかけを李政権に対して展開している。今年の1月には、李在明が北京を訪問し、習近平と首脳会談を行い、経済分野での協力強化などで合意した。また、外交・安全保障では、戦略対話の再開で一致した。

 習近平は、6月8、9日に北朝鮮を訪問し、金正恩と首脳会談を行う。ロシアに接近する金正恩を引き留めるためである。習近平は、米中首脳会談の内容を金正恩に伝えるであろう。しかし、金正恩に対して、従来のように非核化を求めることは、あまり期待できそうもない。

 李在明の実用外交が今後とも順調に進むのかどうか。アメリカの東アジアへの関与が弱まっている現状では、北朝鮮、そして中国やロシアの動き次第で、韓国に大きな重圧がかかる可能性も否定できない。そのときに、日本やアメリカとの強固な連携を維持できるのかどうか。

【プロフィール】舛添要一(ますぞえ・よういち)/1948年、福岡県北九州市生まれ。1971 年東京大学法学部政治学科卒業。パリ(フランス)、ジュネーブ(スイス)、ミュンヘン(ドイツ)でヨーロッパ外交史を研究。東京大学教養学部政治学助教授などを経て、政界へ。 2001年参議院議員(自民党)に初当選後、厚生労働大臣(安倍内閣、福田内閣、麻生内閣)、東京都知事を歴任。『都知事失格』、『ヒトラーの正体』、『ムッソリーニの正体』、『スターリンの正体』(いずれも小学館刊)など著書多数。

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