かつて中国海軍は「ハワイの西は中国に」と打診…トランプと習近平の接近が日米同盟にもたらす最悪のシナリオ

トランプ大統領と習近平国家主席の接近は、日本に何をもたらすのか。元外交官の佐藤陽一郎さんは「かつて中国海軍は、米国側にハワイを境とする太平洋の分割管理を打診したとされる。米中が互いの勢力圏を認め合えば、日米同盟の前提が揺らぎかねない」という。米中の取引の先にある、日本が警戒すべきシナリオを解説する――。

米国のトランプ大統領は現地時間9月23日、ワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地で中国の習近平国家主席を国賓として迎える。米側は晩餐会を用意し、中国側は企業代表団の同行を調整しているとされる。

24日に予定されている米中首脳会談では、貿易戦争の休戦延長、対イラン制裁などの懸案が議論される。急速に発展する人工知能についても立場の違いが目立つ。

11月に中間選挙を控えるトランプ大統領は、習近平主席が最重視する台湾問題をちらつかせながらディールを狙っている――筆者はそう見ている。

しかし、投資家はあまり期待を寄せていないようだ。香港英字紙のサウスチャイナ・モーニングポストによれば、中国本土の投資家の38%が米中関係の追加的な進展を予想したのに対し、海外投資家では26%にとどまった。

今年5月の北京会談と同じく、今回の会談は象徴的であり経済的成果はあまりないだろうと予想する。

しかし、安全保障の観点から見ると、昨年から進みつつある米中の戦略関係の変化こそ見逃してはならないと考える。

まずは会談の戦略的意味を考えるために、中国、米国の国家戦略を振り返りたい。

中国は、2012年に発足した習近平政権は2049年の建国100周年頃までに「中華民族の偉大な復興」を実現するという目標を掲げる。背景には19世紀のアヘン戦争以降、西欧列強や日本により半植民地化されたという被害者意識がある。

だからこそ中国は、「かつて失った領土領海の原状回復」を掲げて軍事力を強化し、南シナ海などへの進出を強めている。

中国海軍が持ちかけた「太平洋の分割管理」

2007年頃から、中国は太平洋を分割することを米側に提案してきた。報道によると、アメリカ太平洋軍の司令官が2007年の訪中時に中国海軍幹部から「ハワイを基点に、ハワイ以東を米国が、以西を中国が管理してはどうか」と打診されたと証言したという。

さらに習主席自身が歴代の米国大統領に同様の提案をした。国家主席に就任した直後の2013年、米カリフォルニア州を訪れ、オバマ大統領との会談で以下を述べた。

「広大な太平洋には、中国とアメリカという両大国を受け入れる十分な空間がある」「思考を新たにし、積極的に行動し、新型の大国関係の構築を共同で推し進めなければならない」

つまり、これらを総合すると中国側は、①「米中は新型の大国関係を構築すべき」、そして②「ハワイを境に東太平洋を米国が、西太平洋を中国が統治すべき」という考えを示したと筆者は解釈している。

いわゆる①「G2(Group of Two)(米中二極体制)」と、②「太平洋の東西二分割論」である。

もちろん、①と②は同義ではないが表裏一体だろう。①は政治的な関係を議論し、②は軍事的勢力圏を念頭に置いている。

G2を認めれば、自ずと太平洋の東西分割の議論が出て来る。そうすれば、中国は台湾統一がしやすくなり、太平洋の西半分を収めることができる。それが習近平の狙いだろう、と筆者は想像する。


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にもかかわらず、トランプ大統領のG2傾斜に拍車がかかる。

春に始まったイラン戦争が泥沼化した。11月には中間選挙を控える。中国とのディールを支持率回復につなげたいトランプ大統領は、交渉に前のめりになった。

北京での首脳会談では、イラン戦争で苦しむトランプ大統領の足元をみて、習主席は、台湾問題を適切に処理できなければ米中関係が極めて危険な状態に陥ると脅した。

米側が中国との安定的関係を望んでいると踏んだ習近平は、台湾問題を交渉のテーブルに載せることに成功した。

トランプ大統領は、まさか台湾問題が提起されるとは予想していなかったのだろうか。歴代の米国大統領は中国との交渉において台湾への支援を議論させなかったにもかかわらず、協議に応じる可能性を示唆してしまった。

朝日新聞によれば、トランプ大統領が会談後のインタビューで次のように述べたという。台湾の独立は望まない、現状維持が望ましい、対台湾政策についても何ら変更はないが、台湾への武器売却については「中国次第だ。我々にとって非常によい交渉材料だ」。台湾が交渉カードであることを明言した形だ。

中国側の発表によれば、両首脳は「建設的な戦略的に安定した中米関係」の構築を米中関係の暫定的な位置づけとして合意したという。

同じ内容は、ホワイトハウスのファクトシートでも「米国と中国が公平と互恵の原則に基づき、戦略的安定のための建設的な関係を構築すべきであるとの認識で一致した」と述べられている。太平洋分割はもちろん合意されていないが、中国を米国の準ライバルと認め、安定した関係を追求するG2構想は概ね共有されたと言える。

米シンクタンクが提唱した「日米同盟解消」

一方、トランプ大統領の前のめり姿勢には、米上院の超党派議員が台湾を見捨てるものだとして強く反発している。

超党派の議員が今年5月、台湾への支持を再確認する決議案を提出した。台湾側の動揺を受け、支持が揺らいでいないことを示す狙いがあった。8月には共和党のジム・バンクス上院議員が台湾を訪問し、アメリカ議会による台湾重視と支持の姿勢を強調した。

2026年4月8日、台湾の頼清徳総統がジム・バンクス米国上院議員率いる代表団と会談した(公式写真)(写真=林燕婷/総統府/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

トランプ大統領が中国とのディールのためにG2を目指す傍ら、台湾を含む第一列島線は米国にとって重要ではないとの議論が生まれてきている。今月10日、米国のシンクタンク「Defense Priorities」は、米軍は日本などの「第一列島線」から後退し、グアムなどの「第二列島線」に戦力を移すべきだと主張した。

中国との紛争のリスクを減らすため、日本、韓国、フィリピン、オーストラリアとの同盟を解消し、台湾有事への不介入を主張する提言である。

このような議論は他のシンクタンクからも出ている。

アメリカン・エンタープライズ・インスティテュートの専門家は「第一列島線上の少数の国の防衛を重視するアメリカの戦略さえ、もはや維持できないかもしれない」と外交専門誌フォーリン・アフェアーズに2月に寄稿した

もちろん、このような議論は現段階では少数派だ。

政権や議会関係者の多くは、第一列島線での紛争を抑止することを重要な利益と見る。NSS2025も、台湾に関する政策は変更していないし、同盟国はもっと貢献すべきとする。

しかし、重要なのは、米国がG2構想を政治外交的に認めてしまったことで、今度は、米国は太平洋のどこまで軍事的に守れるかという論点が浮上してしまったことだ。

米国にとって台湾や日本の防衛は選択の問題だという議論が始まってしまったことは、戦後長らく日米安保・同盟を当然視してきた日本人には衝撃的だろう。


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中国の太平洋分割論は単なる政治アジェンダではない。着実にそのための軍事戦略を打ち立て、海軍力を築いてきた。中国海軍の父、劉華清は地政学のシーパワー論を取り入れ、1980年代のうちから海軍の長期戦略を提唱した。

日本安全保障戦略研究所の樋口譲次氏の分析によると、劉は次のように構想した。第一段階として、2000年までにフィリピン、台湾、沖縄・九州を含む日本を結ぶ「第一列島線」の制海権を確保する。第二段階として、2020年までに小笠原諸島、サイパン、グアム、パプアニューギニアを結ぶ「第二列島線」を突破する。第三段階として、2040年までに、太平洋とインド洋における米軍の支配に終止符を打つことであり、このような野心は現在まで維持されている。

第一列島線と第二列島線、および関連する国々を示した地図(写真=DoD/PD US Military/Wikimedia Commons

2025年に中国海軍は4隻目となる原子力空母を建造し始めた。2035年には空母9隻体制が予想されている。専門家はその目的は西太平洋を重点に米海軍に対抗し、外洋での軍事的展開にあると見る。

米国側はいかに中国に相対しようとしているのか。

結論からいうと、米国は既に中国が主張する「新型の大国関係」ないしG2に傾きつつある。背景のひとつは経済である。2025年に発足した第2期トランプ政権は当初、中国と闘う姿勢を打ち出し、デカップリング(中国経済からの切り離し)を訴えていた。

例えば、麻薬フェンタニルの米国への密輸阻止を理由に中国製品への追加関税を段階的に引き上げ、関税率は一時、合計145%に達した。

しかし、中国側が報復措置として希少資源であるレアアースの輸出規制を行った。これが効いた。レアアース供給が停止すれば、米国の武器やハイテク製品のほとんどを生産できなくなる。トランプ政権は中国との貿易戦争を緩めざるを得なくなった。

これが経済の文脈である。

トランプの「G2」発言が広げた波紋

次に安全保障である。

トランプ政権は昨年12月に国家安全保障戦略(NSS2025)を公表した。

NSS2025は歴代政権の対中戦略を明確に否定した。市場を開放し、対中投資を奨励し、製造業をアウトソーシングすれば中国は「ルールに基づく国際秩序」に組み込まれる――その前提が誤りだったと分析する。

NSS2025において中国は、「⽶国と完全に同格ではないが、能⼒と影響⼒において接近した存在とみなされている。中国は戦略的競争相⼿であると同時に、両国間の対⽴激化を回避すべき相⼿」として描かれていると専門家は分析する

その上で、製造業の回復・雇用創出・経済的利益の最大化を安全保障の中核に据える。中国に対する経済的・技術的な優位を保ち、台湾をはじめとする地域紛争を抑止すべき、とNSS2025は論じる。

中国を米国とほぼ対等と捉えるような認識は、NSS2025を公表する2カ月前の昨年10月に、韓国で行われたAPEC首脳会議の場で大統領自身の言葉として発信されていた。

米中首脳会談後にトランプ大統領は「習近平国家主席とのG2会談は両国にとって素晴らしいものだった」「この会談は永続的な平和と成功につながる」と発信したという。

会談で中国がレアアース輸出規制の強化を1年間停止し、米国が追加関税を引き下げることで合意したことが、よほど満足のいく結果だったのだろう。しかし、この発言は波紋を呼んだ。G2という言葉が米中の両国が国際秩序を共同管理する印象を与え、同盟各国の不安を招いたからだ。


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  • 公共政策コンサルタント、元外交官

太平洋を米国と中国が東西に分割するというのは、日本にとっていかなる意味を持つのか。非常に厳しいことは言うまでもない。

第一に、台湾有事のリスクが高まると同時に、統一が現実化するリスクも増す。米国が西太平洋は中国の勢力圏と認めることが仮にあれば、中国はもっと強引な形で統一を試みるだろう。

現在ですら、米国がイラン戦争のために航空母艦を中東地域に派遣しているため、太平洋に力の空白が生まれているとの懸念もある。まして、勢力圏の存在を公に認めれば、中国の拡張主義が加速することは当然だ。

台湾が落ちれば、シーレーンに頼る日本は海上封鎖のリスクや輸送コスト上昇に直面する。影響はホルムズ海峡封鎖の比ではない。さらに軍事的にも中国からのさらなる圧力や脅しに直面するだろう。

写真提供=新華社/共同通信イメージズ

中国海軍の空母「遼寧」(左)と「山東」の艦隊

西太平洋は「中国の海」になってしまうのか

第二に、太平洋が米中で分割されれば、ハワイ以西の国々は軍事的圧力の下、中国に支配されるリスクが高まる。

中国モンゴル専門家の楊海英氏は、2017年にニューズウィーク日本版で以下のように指摘した。

「ハワイ沖に米中中間線が引かれ西太平洋が『中国の海』となれば、没落する『帝国』アメリカと新興の『中華帝国』による世界分割となる。台湾は『祖国の懐に復帰』し、日本は『中華人民共和国ヤマト自治区』になるかもしれない」

自治区に組み込まれ、弾圧されているウイグルや内モンゴルの実態は言語に絶する。太平洋西半分が中国の勢力圏と認められるようなことがあれば、ウイグルなどで起きていることが、日本でも起こりうると筆者は考える。

中国は、米国が24日の首脳会談までに台湾への新たな武器供与を承認した場合、トランプ大統領との会談を中止する可能性があるとの立場を米側に伝えたと報じられている。今後、米中首脳会談で常に台湾問題を協議することを約束させようとしている。

G2の枠組みの下で太平洋の東西分割を提案しつづけ、協議の末に勝ち取る。それが中国の長期的な狙いなのだろう。

両首脳は台湾問題をどう扱い、両国の関係をどう描くのか。米国はディールのために西太平洋へのコミットメントを弱めないか。戦略的な視点から見る米中関係の推移と日本を取り巻く安全保障環境は厳しい。

日本としては米中関係がどのように変化しているかを見極めつつ、中国の拡張主義を抑止するために自国の防衛力を一層強化し、同盟国と更に協力しながら太平洋分割を阻止する努力を尽くすべきと筆者は考える。

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  • ウィステリアハウス東京代表。早稲田大学法学部卒業、東京大学法学部卒業、コロンビア大学国際公共政策大学院修士(国際関係)。外務省入省後、WTO(世界貿易機関)貿易交渉、EUとの経済貿易交渉、パキスタン駐在、日本企業の海外展開支援に携わる。第2次安倍政権の総理官邸で内閣総理大臣秘書官付として国家安全保障局(NSS)設置や平和安全法制の準備に従事。ゴールドマン・サックス証券社長室、英ブランズウィック経営役員を経て現職。企業向けの国際情勢ブリーフィングや官民連携を支援する。台湾・中国情勢のリスクを査定する月刊レポート「東京ストラテジック・ブリーフィング台湾中国編」を発行。

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