米中戦争の危険が高まる(古森 義久)

軍事・安全保障Wrecking balls textured with American and Chinese flags over dark stormy sky. Horizontal composition with copy space and selective focus. Dispute concept.

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顧問・麗澤大学特別教授 古森 義久

中国が台湾に武力攻撃をかける危険性はなお高まり、アメリカ側のその攻撃に対する抑止の能力が落ちている――こんな切迫した警告が米軍のアジア太平洋の第一線で最近まで勤務した陸海両軍の前司令官2人によって発せられた。

アメリカ議会の中国特別委員会が5月中旬に開いた公聴会での証言だった。超党派の議員からも中国の侵攻を防ぐには米側が中国側を圧倒する軍事優位を保つことだとの意見があいつぎ、とくに潜水艦やミサイルの対中戦力のさらなる増強の必要性が強調された。

この警告はアメリカ議会全体でも、いま最も集中的に中国に対する政策を研究している下院の中国特別委員会が5月15日に開いた公聴会で出た発言だった。この委員会は正式の名称は「アメリカと中国共産党との戦略的競争に関する下院特別委員会」である。2023年1月、下院で多数を制した共和党が主体となって創設した。だがその後、民主党側の中国に対する警戒も強く、共和党議員と一体になって、超党派の強固で現実的な中国論議を進めるようになった。

今回の公聴会は「高まる緊張への抑止・中国の台湾侵略の防止」と題されていた。主要な証人としてはまず昨年まで太平洋アメリカ陸軍の最高司令官だったチャールズ・フリン将軍が登場し、軍人の立場からだとして以下の骨子を述べた。

「中国人民解放軍による台湾侵攻の脅威はもはや遠い将来でも、理論的な展望でもなくなった。中国側はまちがいなくその侵攻の準備を進めている。実際のその侵攻を阻止するのはアメリカ軍が完全に優位に立つ戦力を保持することによる抑止だ」

「中国軍は台湾制圧ではアメリカ側の空軍や海軍よりも陸軍による反撃を恐れている。だから中国軍の侵攻の抑止にはアメリカ側の陸軍の戦闘能力を高め、中国の上陸部隊を地上で確実に撃破できる能力をつけることが欠かせない」

同公聴会ではさらにアメリカ海軍の太平洋司令部作戦部長などを歴任したマーク・マクガマリー提督が証言し、同様に中国軍の台湾攻略の危機が迫ったと、以下のように証言した。

「中国人民解放軍はミサイル攻撃や上陸作戦だけでなくサイバー攻撃や経済威嚇という方法でも台湾を制圧しようと意図している。アメリカが中国を圧する軍事力の保持で中国の侵略を抑止するという能力は着実に減少している」

「台湾が独力で中国の軍事侵攻に対処する能力は明らかに不十分であり、アメリカは台湾への兵器供与の速度と規模を増さねばならない。またその中国の侵攻が実際に起きれば、アメリカ軍は武カ介入するという構えを保つことこそ抑止となる」

この両軍人の証言はアメリカ側の準備すべき対応については重点の微妙な差があるが、中国軍が実際の台湾侵攻の能力や意図を保っているという認識は共通していた。そしてその侵攻を防ぐにはアメリカ側が実際の軍事能力、戦闘能力を優位に保つことが最善策だとする主張も同様だった。

さらに証言したのはバイデン政権で国務副長官などを務めたカート・キャンベル氏だった。同氏も中国側の台湾侵攻への意図はありうるという立場を明確にしたうえで次のように述べた。

「中国の台湾侵攻の可能性に対してアメリカがどう対応するか、いま全世界が真剣に注視している。アメリカがあくまで台湾を守るという意思があるかどうか、その意思の存在が中国に対する抑止となる」

「台湾をはじめとするインド太平洋での中国の動向こそが21世紀のアメリカのパワーへの究極的なチャレンジとなる。だからアメリカは従来よりもさらにグローバルな構図でもインド太平洋へと抑止力の多くをシフトする必要がある」

この中国特別委員会の委員長のジョン・ムールナー議員(共和党)は「(中国の台湾侵攻の)2027年という時期はアメリカの設定ではなく、中国側の設定なのだ」と述べ、中国側の台湾の武力制圧への意図がなお現実的であり、2027年をその目標時期とするという認識を明らかにした。

この台湾侵攻の2027年説というのは、アメリカ側では「デービッドソン説」とも呼ばれる。アメリカ海軍のインド太平洋軍司令官だったフィリップ・デービッドソン提督が2021年の議会証言で「中国の習近平国家主席は人民解放軍に対して2027年には台湾を軍事力で制圧できる態勢を整えよという命令を出した」と明言した。

この証言がアメリカ政府や議会で重視され、中国政府が本当に2027年を目標に台湾軍事侵攻を計画している確率が高いと目されるようになった。中国特別委員会のこの公聴会でも委員長自身がなおこの「2027年説」を保持していることが明白となったわけだ。

ムールナー委員長も中国の台湾攻撃の抑止策としてアメリカ側の軍事能力の向上を強く提唱した。実際の兵器類では同委員長は米側の潜水艦戦力とミサイル攻撃能力の大幅な強化を推奨した。

潜水艦はアメリカが中国に対してなお決定的な優位を保つ分野で、その優位の確実な保持が有効な抑止策になるという。ミサイルは中国側が驚異的なスピードで増強を進めており、米にとっての脅威も増しているが、米側も攻撃ミサイルの増強を図ることで、その中国側の威力を抑えられる、という思考が強調された。

この潜水艦とミサイルの戦力大幅増強については同公聴会では他の議員や証人たちからも同種の意見が出て、一種のコンセンサスに近い主張となった。

古森 義久(Komori  Yoshihisa) 1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。

編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2025年5月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。

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