血液がドロドロになり、血管が詰まって突然死…高齢者が絶対に「うたた寝」してはいけない自宅の場所2選(プレジデントオンライン)

3/29 8:17 配信

高齢者の「うたた寝」で気を付けることは何か。東北医科薬科大学教授で法医学者の高木徹也さんは「高齢者が風呂やこたつでうたた寝するのは非常に危険だ。溺れたり、心筋梗塞で亡くなるケースが後を絶たない」という――。 ※本稿は、高木徹也『こんなことで、死にたくなかった 法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)の一部を再編集したものです。■高齢者を襲う風呂場でのヒートショック 冬の季節が近づいてくると、法医学者は「風呂溺が増える時期だなあ」と思うようになります。 風呂溺とは、入浴中に浴槽内で沈んだ状態で死亡すること。特に冬場に多く、近年では「ヒートショック」という名称で知られるようになってきました。 ただでさえ、冬は寒さで血管が収縮しています。その状態で温かい浴槽に入ると、血管が拡張して血圧が急激に低下し、脳に送りこむ血液量が減少してしまいます。これが、ヒートショックの主な要因です。 さらに統計的に、ヒートショックは65歳以上の高齢者に多い、という特徴があります。65歳というと、最近では多くの企業における定年の年齢。長寿国となった現代の日本では、見た目はまだまだ若々しく元気な人も多く見受けられますが、体内の老化現象はしっかりと進行しているのです。

 そんな老化の中でも、特に「自律神経反射の遅延」と「感覚機能の低下」は、入浴中の死亡に深く関わっているように思います。

■風呂場でのウトウトは居眠りではなく「気絶」 自律神経とは、脳に血液を送りこむために働く交感神経と、胃腸に血液を送りこむために働く副交感神経の総称です。簡単に言うと、交感神経は活動に、副交感神経は休眠に関する反射を担っています。一日の間に、この交感神経と副交感神経が入れ替わるように働くことで、日常生活における身体への過剰な負荷に抑制をかけ、私たちは円滑に生命を維持することができています。 ところが65歳あたりを境として、この交感神経と副交感神経の入れ替わりが遅延してしまうのです。 入浴中にウトウトしてしまうことがありますよね。実のところ、あれは居眠りではなく「気絶」です。お湯の温熱作用によって血管が拡張し、血圧が低下し、脳への血流が低下したことで意識を失った状態なのです。医学的にこの状態を「一過性脳虚血」と呼んでいます。 それでも若い人は自律神経の反射が俊敏なので、すぐに交感神経が反応して脳血流が復活し、「おっと、寝ちゃった」と目が覚めるため、大事には至りません。 ところが、自律神経反射が遅延している65歳以上は、すぐに交感神経が反応せず、意識を回復することなく浴槽内に沈んでしまうのです。■「熱すぎるお風呂」が危険な理由 さらに感覚機能の低下も、入浴中の死亡に関与していると考えています。 温泉施設や銭湯で、ものすごく熱いお湯に平然と浸かっている高齢者がいますよね。あれは慣れや根性の問題ではなく、熱さに対しての感覚が鈍くなっているのです。 ただ、熱さへの自覚が乏しいというだけで、体内はしっかり熱さを認知しています。そのため、高温によって血管が一気に拡張し、気絶してしまうのです。 実際、入浴中に死亡した65歳以上の人の大半が、設定温度を高くしていたと報告されています。----------△このような危険を避けるには……・入浴前に食事や飲酒をしない。・脱衣所や浴室をあらかじめ暖かくしておく。・設定温度を高くしすぎず、入浴中は家族にこまめに声をかけてもらう。

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■「こたつでウトウト」も危ない 寒い季節、こたつに入ってぬくぬく過ごす至福のひととき……。 ついウトウトと寝落ちしてしまうのも仕方ありませんよね。家族から「風邪をひくよ」「やけどするよ」と声をかけられても、なかなか起きられないものです。 それもそのはず。実はこのとき、下半身が温められていることで身体の血管は拡張し、相対的に脳血流が低下するため、「気絶」に近い状態になっているのです。そして、「そのまま寝ていると風邪をひく」というのも決して大げさな話ではありませんし、なんと、こたつに入ったまま亡くなってしまうこともあります。 よくある事例は、寒い冬の夜、外食や飲酒をして帰宅し、部屋の暖房をつけずにこたつに入る……。そして翌朝、寝ているような体勢で死亡しているのを発見されるケースです。突然死と同じ扱いなので、現場に到着した救急隊から警察に連絡が入ります。そこで、やけどのように下半身の皮膚がタダレていることが発見され、「火傷死」が疑われて解剖になる機会も少なくありません。 このようなケースの大半は、やけどは長時間こたつに入っていたためにできたものであって、死因は「脳梗塞」や「心筋梗塞」と判断されます。■脱水症状になり、血管が詰まって死んでしまう 一体なぜ、「こたつでの寝落ち」が死につながるのでしょうか。 まず、こたつに長時間入っていると、発汗と呼吸によって脱水状態になりやすくなります。この脱水状態が続くと、血液がドロドロになってしまうのです。高齢者には動脈硬化症が進行している人が多いため、ドロドロになった血液は血流を悪くしたり、血管を詰まらせたりします。 そして、脳の血流が悪くなると「脳梗塞」に、心臓の血流が悪くなると「心筋梗塞」になってしまうわけです。 また、室温が低いことも死の危険性を高める一因と考えられます。 下半身はこたつで温まって血管が拡張しているのに、頭や上半身は冷えて血管が縮こまっている……。先ほど紹介した「ヒートショック」の状態になるのです。こたつの中と外の温度差が激しければ激しいほど、死ぬ危険性は高まります。 さらに、血流が悪くなる以外にも、冒頭でお話ししたように、こたつに長時間入ることで「風邪をひく」「やけどする」ことも、重症化すれば死につながります。 ひとたび脱水症状になると、粘膜などの水分も少なくなるため免疫力が低下し、風邪をひきやすくなります。また、こたつによるやけどは、自覚症状の乏しい「低温やけど」であるため、気づいたときには深い傷を負っている可能性があるのです。 いずれにしても、こたつによって身体に支障が出るときは「重症化するまで自覚症状がない」ことが特徴です。間違った使い方をしてしまうと、身体にさまざまな悪影響を与えることを知っていただき、ぜひ安全に利用してください。----------△このような危険を避けるには……・こまめに水分を摂る。・こたつの設定温度を下げる。・部屋自体も暖めて温度差をなくす。

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■エアコンがあっても熱中症で亡くなる高齢者 近年、地球全体における平均気温の上昇が問題視されるようになりました。いわゆる「地球温暖化」「地球沸騰化」と言われる現象です。 二酸化炭素などの温室効果ガスの増加が原因とされたり、惑星としての本来の気温に戻っていると言われたりしていますが、原因はどうであれ、夏の灼熱地獄はたまったものではありません。 私たち法医学者も仕事上、暑い時期に熱中症で死亡するケースが、年々増えていることを実感しています。 もともと高齢者は、若年者に比べて、暑さなど周囲の環境変動に対する感覚が鈍くなっています。そのため、一人暮らしの高齢者が、室温が40度を超えてもエアコンを使わず、熱中症に陥ってしまう例に遭遇することがあります。 こうして亡くなる方の場合、発見までに時間がかかることも多く、ご遺体の腐敗が進んでいたり、ひどく乾燥していわゆるミイラ化した状態で発見されたりします。こうなると、検案や解剖でも死因の断定が難しくなり、警察の捜査情報をもとに、「熱中症(推定)」と死因を推測するしかないケースも少なくありません。■冷房のはずが暖房をつけ続けて… ある暑い夏の日、一人暮らしの高齢者が室内で倒れているのを大家さんが発見しました。すでに死亡しており、皮膚などが高度に乾燥してミイラのような状態でした。「高温環境下で熱中症に陥った」と推測されましたが、奇異な点として、暑い日が続いていたにもかかわらず部屋の窓は締め切られ、外気よりも室内の温度が高く、まるでサウナのような状態だったのです。 エアコンがついたままだったので、リモコンを確認しました。すると、冷房ではなく、なんと暖房に設定されていたのです。エアコンから吹き出した熱風がご遺体に直接当たり続けたため、死後にミイラ化したのだと考えられました。 亡くなった高齢者は、日常生活は一通りこなせるものの、目と足が悪く、常にメガネと杖を使っていました。解剖しても、死因となるような明らかな病気や外傷が確認できなかったため、死因を「熱中症(推定)」と判断しました。 エアコンのリモコンには、電池容量が少なくなると液晶表示が薄くなっていくものがあります。この方の部屋にあったリモコンの表示も、文字が薄くなっていたことが確認されました。こうした現場の状況から、亡くなった人は「窓を閉めて冷房をつけたつもりだったのに、視力の低下した目で表示の薄くなったリモコンを操作したため、誤って暖房をつけてしまった」と推測できたのです。 高齢で感覚も鈍くなっていたでしょうから、エアコンから熱風が吹き出しても、また室内の温度が高くなっても、しばらくは気づかなかったのでしょう。 歳を重ねると、自分の感じた温度と、実際の温度が異なることがあります。判断を誤ると死の危険性が高まるので、感覚だけに頼らず、見えるところに温度計を置いておくなど、客観的な指標に頼ることをおすすめします。----------△このような危険を避けるには……・自分の感覚を過信しない。・室内に温度計や湿度計を設置して、確認するのを習慣化する。・エアコンなど家電の定期的なメンテナンスを怠らない。--------------------高木 徹也(たかぎ・てつや)法医学者、東北医科薬科大学教授1967年東京都生まれ。杏林大学法医学教室准教授を経て、2016年4月から東北医科薬科大学の教授に就任。高齢者の異状死の特徴、浴槽内死亡事例の病態解明などを研究している。東京都監察医務院非常勤監察医、宮城県警察医会顧問などを兼任し、不審遺体の解剖数は日本で一、二を争う。大人気ドラマ『ガリレオ』シリーズなど、法医学・医療監修を行っているドラマや映画は多数。著書に『なぜ人は砂漠で溺死するのか?』(メディアファクトリー)などがある。

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プレジデントオンライン

最終更新:3/29(土) 12:02

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