記憶力は中年期には衰え始めている

サイエンス

「顔は思い浮かんでいるけれど名前が思い出せない」「前に会ったことがあるはずなのに場所と時間を思い出せない」といった記憶力の低下は、一般に高齢者になってから起きるものと思われがちです。ところが、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校(ビンガムトン大学)の研究チームが行った実験では、記憶力の低下は多くの人が考えているより早く起きる可能性が示されました。

Aging shifts hippocampal reactivation from selective reinstatement to category-level misbinding during episodic memory | Cerebral Cortex | Oxford Academic

https://academic.oup.com/cercor/article/36/7/bhag114/8758582

Memory decline starts earlier than you think, new research suggests - Binghamton News

https://www.binghamton.edu/news/story/6436/memory-decline-starts-earlier-than-you-think-new-research-suggests

ビンガムトン大学心理学部のイアン・マクドノー准教授と博士研究員のデスタウ・メクビブ氏の研究チームは、若者から高齢者まで幅広い年齢層の被験者を対象に記憶テストを行いました。61人の被験者の内訳は18~30歳の若年層が17人、50~60歳の中年層が21人、61~74歳の高齢層でした。

まず被験者は、「感情的に中立な顔写真」と「特定の物/風景」のペアを見せられ、顔写真の人物が物体または風景と相互作用している様子を想像するように指示されました。この符号化(Encoding)フェーズは2つの試行に分けられており、それぞれの試行で32個のペア、合計で64個のペアを記憶したとのこと。

そして5分間の休憩を挟んだ後、被験者には符号化フェーズで見せられた「顔写真」と、それとペアになる「特定の物/風景」の候補が4つ表示され、どれが正しいペアだったのかを答えるように求められました。この想起(Retrieval)フェーズで提示された物や風景はすべて符号化フェーズに出てきたものであり、ある顔写真とはペアになっていた物や風景でも、別の顔写真とペアになっていたと回答すれば誤答となりました。

一連の実験は、「脳が新しい記憶を覚え、短期的に記憶を脳内で反復することで安定させて、必要に応じて思い出す」という記憶の形成過程を模倣したものだとのこと。実験の間は血流や酸素代謝を利用して脳活動を調べる機能的磁気共鳴画像法(fMRI)によるスキャンが行われ、被験者の海馬がどのように活性化しているのかが測定されました。海馬は人間の記憶や学習に関わる脳の部位です。 実験の結果、若年層から中年層にかけて、記憶の正確性が大きく低下することがわかりました。マクドノー氏は、「海馬の機能の一部は、中年期までにすでに衰え始めているのです。これは中年期がまさに転換点であることを示唆しています」と述べています。

今回の実験において、中年層の被験者は顔と間違った物体や風景を結びつけることが多く、「前に見たことは思い出せるけれど、どの組み合わせが正しいのかわからない」という状況に陥っていたとのこと。 マクドノー氏は、「テスト中に画面に表示される画像がすべて見覚えのあるものばかりなので、難しくなるのです。彼らはこれらの画像を以前に見たことがあるとわかっていますが、覚えなくてはいけないのは特定の関連性だけです。まさにその点で、年齢を重ねるにつれて誤りが顕著に現れるのです」と指摘しています。

研究者チームは、「高齢者は若者よりも想起フェーズでの海馬の活動が弱いのではないか」と考えていましたが、実際に海馬の活動を調べるとそうではないことが判明。若者が想起フェーズで間違った時は、研究チームの予想通り脳が本来の記憶パターンを活性化していなかった一方で、高齢者では間違った時に符号化に関連する記憶パターンが強く活性化していました。 マクドノー氏は、「符号化に関連する海馬の再活性化が多ければ多いほど、記憶の誤りを犯しやすくなりました。つまり、その再活性化パターンは記憶力の向上と関連付けられるのではなく、むしろ記憶の誤りと関連付けられるのです」と説明しています。 高齢者が記憶の誤りを犯しているにもかかわらず、海馬の強い再活性化を示す理由はまだわかっていません。マクドノー氏は、「中年期に何が起こっているのか、科学的に十分に理解できていないのが現状です。なぜなら、脳の衰え方は一様ではなく、部位によって衰え方が異なるからです。このような転換点がいつなのかを見極めることが重要になるでしょう」と述べました。

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