一時はプロボクサーを目指し、大学野球での指導を経てメジャー監督へ――ブルワーズの“個性派鬼軍曹”マーフィー監督の型破りな魅力<SLUGGER>(THE DIGEST)

 ナショナル・リーグ優勝決定シリーズでドジャースと対戦しているブルワーズのパット・マーフィー監督に注目が集まっている。 【動画】プレーオフ史上最大の珍プレー! 「8-6-2ー3B」の“センターゴロ併殺”  シリーズ前の記者会見では、居並ぶ日本人メディアに一人一人、自己紹介をするようにリクエスト。といっても高圧的な態度を取っているわけではなく、「君たちのことをよく知りたいから」という理由で、会見場も和やかなムードに包まれた。  就任1年目の昨季は、主力流出で決して前評判の高くなかったチームを率いて地区優勝。いきなり最優秀監督に選出された。昨オフも主力流出は続いたが、今季も両リーグ最高勝率で地区優勝を果たし、地区シリーズでは同地区のカブスを倒して1982年以来のワールドシリーズ出場まであと一歩に迫っている。  マーフィー監督は、今どき珍しいオールドスクールの“鬼軍曹”だ。気の抜けたプレーを見せた選手は、主力であろうと容赦なく交代を命じ、時に「今のがお前の人生を賭けたプレーなのか」と檄を飛ばす。チームの顔であるクリスチャン・イェリッチは「他人と接する時の態度を考えたことがないのかと思うことがある」と述べるほどだが、同時に冒頭で紹介したような暖かさや人情味も同居している。  ユーモアあふれる語り口に加え、テレビ中継中のインタビューではお尻のポケットからパンケーキやピザを取り出してもぐもぐすることもしばしば。本拠地アメリカン・ファミリー・フィールドではこれにあやかり、「マーフィーのポケットパンケーキ」が売り出されたほどだ。  メジャーの監督としては一風変わった経歴もよく話題に上る。大学時代は野球やアメフトに打ち込み、ボクサーを目指した時期もあった。ドラフト外でプロ入りし、3年間のマイナー生活を過ごした後、低迷していたノートルダム大の監督に就任してチームを強豪に押し上げた。今年の地区シリーズで熱戦を繰り広げたカブスのクレイグ・カウンセル監督は当時の教え子で、2人の関係が改めてクローズアップされた。  過去を振り返ったマーフィー監督は「2度と口を聞いてくれないんじゃないか」と思うほど、厳しく接したと言う。「あの頃は若く、常に適切な指導ができていたわけではない」とも語っているが、そうした日々がカウンセルの16年に及ぶメジャー生活の礎となったのは間違いない。引退後、ブルワーズを率いたカウンセルをベンチコーチとして支えたのは他ならぬマーフィーだった。つまり、今回の地区シリーズは“愛弟子”にして“元上司”と戦ったことになる。  ノートルダム大を率いた後、これまた名門のアリゾナ州立大で指揮を執り、マイナーのコーチを経てメジャーの監督に就任。選手への厳しい姿勢は、間違いなく大学生の指導から培われたものだろう。  マーフィー監督の腕には「Relentless(「執拗な」「容赦のない」という意味)」や「No retreat, no surrender(退却なし、降伏なし)」のタトゥーが彫られている。ボクシング経験もある指揮官の信条を表すような言葉は、実際に今季のブルワーズに深く根付いている。分かりやすいのは抜け目のない走塁と守備だ。  長打力は平均レベルでも、コンタクト能力と選球眼、機動力に優れた粘り強い攻撃でヤンキース、ドジャースに次いでMLB3位の806得点を記録。164盗塁は同2位、ベースランニングでによる得点創出力も球界トップを記録している。総年俸はドジャースの約3分の1以下という雑草軍団は、リーグ優勝決定シリーズ第1戦でもスーパースター軍団を苦しめた。  地区シリーズ第1戦前のセレモニーで、マーフィー監督は入場する選手から差し出された手を握り返そうとしなかった。フィールド外ではユーモアを振り撒きつつ、いざ試合が始まれば“鬼軍曹”として貪欲に勝利を求める。その姿勢が、チームを引き締める無形の力として作用すれば、ジャイアント・キリングも十分可能だろう。 文●藤原彬 【著者プロフィール】 ふじわら・あきら/1984年生まれ。『SLUGGER』編集部に2014年から3年在籍し、現在はユーティリティとして編集・執筆・校正に携わる。X(旧ツイッター)IDは@Struggler_AKIRA。

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