相互関税で株価急落。恐怖指数40%を超えパニック。その後、突然90日間停止を発表。米債券安が原因か。ピンチはチャンス。世界恐慌が来ても株価反発する!(ダイヤモンド・ザイ)
●4月9日相互関税が発動し、日経平均は急落。恐怖指数が上昇しパニックに 4月9日水曜の日本時間の13時1分、トランプ政権が決定した相互関税が発動された。相互関税率は欧州連合(EU)が20%、日本が24%、中国が34%など市場が想定していたよりも厳しい内容だった。この日の日経平均株価は朝方こそ450円安程度で動いていたが、発動時間が迫ると見る見る下落。トランプ政権からの新たなアナウンスメントは何もなく13時1分を迎えた。そして13時27分には1754円安まで急落する展開となった。「世界恐慌になる」「リーマンショックの再来だ」などと大げさなコメントがSNSなどで飛び交った。投資家たちは委縮し、思考停止の状態になっていた。恐怖指数と言われる米国のVIX指数は52.33、日本のVI指数は56.61と普段はめったにお目にかかれない水準まで跳ね上がった。 ところが、相互関税が発動してからわずか13時間後にトランプ大統領は「相互関税の上乗せ分について90日間停止する」と態度を改めた。ちょうど米国市場の取引時間中だったが、朝方は400ドル安まで売られていたNYダウは2962ドル高となり過去最大の上げ幅を記録し、S&Pは+9.5%と2008年10月以来の上昇率、ナスダックは+12.2%と2001年1月以来の上昇率と記録的な1日となった。これを受けて翌日の日経平均は2894円高と歴代2番目の上昇幅を記録。4月第1週において日米市場がパニック売りで急落していた状況からは想像できない急展開である。 ●トランプ政権が突如、相互関税の上乗せ分を90日間停止した背景とは? トランプ政権が突然豹変した背景とは何か? それは株安・ドル安に加えて債券安のトリプル安になったことで長期金利が急騰し、極めて危険な状況になったと判断したためである。実は、長期金利が日本時間のお昼頃、すなわち相互関税発動とまさに同じタイミングで突然4.2%台から4.5%台まで上昇。米国の取引時間外である。通常、時間外取引においてこれほど激しく動くことはありえない。「邦銀が米国債を一気に売却した」との観測が出た。 マーケットでは「農林中金がパニック売りをした」というのがもっぱらの噂だ。農林中金と言えば2025年3月期の第3四半期の最終損益で1兆4000億円もの赤字を出したことで注目されていた。要因は外国債券運用で巨額の損失を抱えていたからだが、決算時に「最大で2兆円の赤字になる可能性」とコメント。トランプ政権の相互関税発表で米国債が売られて金利が急騰。そして発動時間を迎えた日本時間での取引がきわめて薄い中、債券を大量に投げたのである。しかも「60倍ものレバレッジをかけて米国10年債を数兆円単位で買い持ちしており、ヘッジをかけていない」というヤバヤバな説も大っぴらに飛び交っている。これが本当なら、プロとしてあり得ない運用である。 ●米国は株安・ドル安・債券安のトリプル安に。金利急騰で債券価格は暴落 米国市場は株安・ドル安・債券安のトリプル安となったが、米国の金融にとっても最も重要なのは債券市場である。債券が暴落(金利は急騰)することはどうしても避けねばならない。そこで金融市場を揺るがす元凶である、発動したばかりの相互関税をいったん停止してパニックを鎮めようと突然決定されたのが「相互関税90日間停止」の顛末である。「農林中金が世界を救った? 」と言えるのか。ただし、中国は米国に報復措置を取ったため、中国には合計145%の関税率にすることをトランプ政権は決定した。やはり、今回のトランプ関税政策の一番のターゲットが中国であることは間違いない。 皆さんは恐怖指数をご存知だと思う。マーケット参加者の市場に対する心理状態を0%〜100%のレンジで表す指数だ。米国ではS&P、日本では日経平均のオプション価格の変動率を元に算出される。平常時は20%未満だが、20%を超えると恐怖を感じている状況、40%を超えるとパニック状態と定義されている。冒頭述べたように直近の米国のVIX指数は52.33、日本のVI指数は56.61ときわめて高水準にある。 ●恐怖指数40%超のシステマティックリスクイベント後の大半で株価は反発 パニック状態における「恐怖指数」の活用は非常に有効だ。例えば、恐怖指数が40%というのは「株価が今後1年間に約7割の確率で上下40%の範囲で変動する」ことを示すが、実際の株価の動きを見ると、急激な恐怖指数の高まりは「たいてい瞬間的であり」「さらなる株価下落よりも今後株価反発が起こり」「上下40%の範囲の解釈は上昇40%と読み取れる」ことになる。リーマンショック、コロナショック、チャイナショックなど過去の大きな12のシステマティックリスクイベントを検証すると恐怖指数は40%を超えており、その後大きく反発する結果になっている。だから恐怖指数は「チャンス指数」と私は皆さんに言っている。 今のマーケットはシステマティックリスクで荒れているだけであり、嵐が過ぎ去れば大きな買戻しが起こる。ただし、今回は関税という経済政策が要因だ。昨年8月に起きた「令和のブラックマンデー」のような市場イベント(円キャリートレードの巻き戻し)ではないため、株価の戻りには時間がかかる可能性があることは前回のコラムで述べた。だが、相互関税ショックは意図的に作られた経済政策という点に着目していただきたい。今後交渉によって関税率は徐々に緩和されていくはずだ。 ●世界恐慌が起きても心配無用。FRBの大胆な金融政策で「不況の株高」に 「でも、太田先生、実際に世界恐慌になったらどうするんですか? 株価はもっと暴落するのではないですか? 」と聞かれた。言っておくが、それこそ私が望むところである。 なぜなら、景気や業績が大幅に悪化すれば米連邦準備理事会(FRB)が大胆な金融緩和政策を行うからだ。インフレに関わらず、利下げが再開されて量的金融政策も行われ、株価反発の大きなきっかけとなる。すでに我々はコロナショック時のマーケットで経験済みだ。あの時は経済活動停止で景気はめちゃくちゃ、企業業績は赤字続出となった。だが、FRBのゼロ金利政策で株価は急騰した。日経平均は1万6000円レベルから3万円を超えるまで一気に上昇した。本格的な金融相場がやって来て「不況の株高」が起こるのだ。 さて、太田忠投資評価研究所とダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ(DFR)がコラボレーションして投資助言を行っている「勝者のポートフォリオ」。毎週のメルマガ配信による運用指南に加えて、2大特典として毎月のWebセミナー開催とスペシャル講義を提供している。 「個別銘柄の株価の動きをスコア化する」においては、株価がSリスク、USリスク、Mサイクルの3つの要因、さらにそれぞれが包含する多くの要素によって株価が動いていることを理解するのが目的である。スコア化することによって、常に泰然自若の投資家になっていただきたいと考えている。「グロース株vsバリュー株の評価ポイント」では、それぞれのカテゴリーにおいて投資の評価軸が異なることを再確認していただくのが目的。混同している方々が多いため詳しく解説している。 ●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもDFRへのレポート提供によるメルマガ配信などで活躍。
太田 忠