スマホをタッチせずに改札もレジも通過 日本で広がる「UWBタッチレス決済」最前線(1/3 ページ)
UWB(Ultra Wide Band)を使った公共交通機関での乗降サービスや小売店での支払いサービス実現に向けた取り組みが、現在日本国内で水面下で広く展開されようとしている。先日は東日本旅客鉄道(JR東日本)が高輪ゲートウェイで「タッチレス改札(ウォークスルー改札)」のデモンストレーションを行ったが、これもUWB技術を改札機の通過判定に使っており、同社では「ウォークスルー改札の本命(技術)はUWB」と宣言している。
今日、「Suica」に代表される日本国内の交通系ICカードの礎を作ったのはJR東日本であり、その基本となる技術「FeliCa」を作ったのはソニーだ。UWBを使った関連商品やサービス開発にあたっては、同技術の業界標準化団体であるFiRa Consortiumに参加して最新仕様を入手し、検証や接続テストを経ることで、他社製品との相互接続性が保証され、その信頼性をもって認定プログラムが利用できる。
FiRa Consortiumのメンバーページを見ると、現在JR東日本とソニーはともにメンバーとして参加していることが分かるが、かつて1990年代後半から2000年代初頭にかけてSuicaを生み出した2社がいま再びタッグを組み、UWBを使って「次世代Suica」と呼べる技術の開発にあたっているのだ。“タッチ”から“タッチレス”へ、四半世紀を経てUWBがどのように次の公共交通や決済の世界を変えていくのか。
今紹介した直近のFiRa参加企業のうち、「りそなホールディングス」に注目してほしい。2026年3月4日に同社はJCBと共同で「新たな購買体験を実現するUWB決済実用化に向けた基本合意書の締結」と題したプレスリリースを発表している。近年、クレジット/デビットカードでも、Apple PayやGoogle Payなどのスマートフォン決済においても“タッチ”で支払うNFC決済が一般的になりつつあるが、店舗レジではポイントカードの選択やレジ袋の有無のみならず、どの決済手段を用いるのかといった情報を事前に伝える必要があり、店員との会話の往復が何度もあって時間がかかってしまう。
こうしたやりとりが煩わしいと感じる人もいるだろう。そこでスマートフォンにこうした情報を事前に全て入力しておき、実際にレジに立った段階でこれら情報は自動的に先方に送信され、会計まで自動的に済んでしまう。しかもUWBはある程度の距離が離れていても通信が行えるため、例えばスマートフォンをカバンやポケットに入れたままでも構わない。UWB決済の世界では“タッチ”から“タッチレス”に移行するというわけだ。
この両社による基本合意書の締結は、2024年1月にスタートした「タッチしないタッチ決済」というプロジェクトが契機となった。その成果の一部は同年5月に発表した「近づいてチェック」という実証実験として形となり、今回の発表へとつながっている。JCBイノベーション統括部市場調査室室長の間下公照氏によれば、NFCによる“タッチ決済”の次を模索する過程でUWBという技術に着目し、これを決済に応用できないかと考えたのが最初のきっかけだという。
ただ、実際に小売店など現場の意見を集約していくと「これ以上新しい決済は不要だ」という反応が多く、現場で複雑化するレジ周りのオペレーションに対する疲弊の声が大きいことが分かった。それならば……ということで「現場のオペレーションを軽減する仕組みを提案しよう」という形でまとめたのが「近づいてチェック」のような仕組みだ。
JCBによれば、UWBを使った決済の仕組みは2026年度中に実証実験をスタートし、2027年度には最終的な事業化判断と事業化に向けた協業を行っていくという。商用サービス開始は2028年度を見込んでいるが、2026年度中に行われる実証実験は2024年の「近づいてチェック」のように限定的な環境ではなく、より本番環境に近いスタイルになると予想される。そのため、実証実験には“リアル”の小売店や飲食店が参画する必要があると思われるが、そこで注目してほしいのが、先ほどのFiRa参加企業一覧にあった「ゼンショー」だ。
これはゼンショーがJCBとりそなが表明するUWB決済の実証実験に参加することを必ずしも意味するわけではないが、本来はPOSレジなど決済システムを受け入れるだけの企業である飲食チェーングループのゼンショーが、FiRaのメンバーとしてわざわざ参加しているのはなぜだろうか。理由としては、UWBを用いるシステムの設計段階からメンバーとしてプロジェクトに参加し、実際の検証まで深く関わる何かしらの意図があると考えるのが正しいのかもしれない。このあたりは後日改めて取材してみるが、非常に興味深い動きだ。
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FiRa Consortiumに参加している企業のメンバー表を見ることで、どういった業界でどの会社がUWBの実装に向けて動いているのかが分かるメリットがある。UWBそのものは、もともと中近距離での高速通信技術としてデビューしたものだが、どちらかといえばToF(Time of Flight)というデバイス間の距離を最大誤差数センチ程度で正確に計測できる性質に近年では注目が集まっている。
これを利用した屋内での位置計測や、「リレーアタック」などのハッキング行為が問題となっている車のスマートキーのセキュリティを高める技術としての応用が盛り上がっている。NFCと比べて通信距離が最大で数メートルから数十メートルと長く、デバイス同士を接近させなくても大容量のデータ交換ができる点も特徴だ。これにより、前出の「近づいてチェック」のような離れた場所にいても決済に必要な事前情報をやりとりできるなど、さまざまな応用が可能になる。
これらの性質全てを合わせることで、例えば家やホテルのドアキーの代わりとしてスマートフォン経由でUWBを利用したり、店舗での決済や公共交通の利用に活用したりと、さまざまな形での社会実装が模索されている。特に決済においては、JCBの他にVisaやMastercardで知られる国際ブランドが業界標準を定めるEMVCoが“リエゾン”という形でFiRaと連携しており、UWBを通じた決済の国際標準仕様がまとめられつつある。
UWBはスマートフォンなどのデバイスに組み込んで利用する形になるため、NXPを含む半導体を取り扱う部品メーカーが多く参加しているが、これらをスマートフォンなどのデバイスのOSから制御するため、AppleとGoogleの2大プラットフォーマーもFiRaのメンバーとして参加している。
これは現在のNFCがそうであるように、スマートフォン内のセキュアエレメントからデバイスに搭載されたUWBのコントローラーを通じてUWB通信を制御できる仕組みを将来的に構築し、Apple PayやGoogle PayのようにUWBによる各種支払い手段をモバイルウォレット上から管理できる仕組みを準備しつつあることを意味する。
情報源によれば、ソニーもまたFeliCaの仕組みでこれを実現するためにAppleやGoogleと水面下での作業を進めているとのことで、2027年にもJR東日本が本格的な実証実験をスタートしようとしている「UWBタッチレス改札(ウォークスルー改札)」で、(作業が間に合えば)テスト用端末ではなく“実機”を使った実証実験が可能になるかもしれない。
また、FiRaのメンバー表には出てきていない“隠れパートナー”の存在にも注目したい。筆者の情報源によれば、大手鉄道会社2社が既に水面下で参加あるいは参加に向けた準備段階にあるという。この他、銀行業参入を含むキャッシュレス決済の加盟店開拓においてJR西日本とりそなホールディングスが提携しているが、これは既にFiRaのメンバーになっているりそなを介して、間接的にJR西日本がUWBの社会実装に向けた動きに関与してくる可能性が高いことも意味している。
先日都内で開催されたJR西日本の社長会見では同件について質問があり、代表取締役社長の倉坂昇治氏はこれに関して特に否定もしていない。JR東日本を含む今回紹介した各社の動きが本格化するのは2027年以降となり、実際の商用サービスが登場するのは2028年以降とみられるが、今後しばらくは直接的なもの、そうでないものも合わせて断片的なニュースが出てくることになるので、興味のある方はぜひこの視点からウォッチしてみていてほしい。
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