霧島連山・新燃岳が断続的に噴火、大規模噴火の恐れ「弾が込められた状況」…登下校時にはヘルメット携行

噴煙を上げる新燃岳。小規模な噴火が続いている(7月15日、宮崎県小林市で)=小林市提供

 今年6月、7年ぶりに噴火した宮崎、鹿児島県境の霧島連山・ 新燃(しんもえ) 岳(1421メートル)で、小規模な噴火が断続的に起きている。規模の大きな噴火に移行する可能性も指摘される中、地元では有事の対応を周知するなど備えを強化している。一方、観光への風評被害も起きており、観光関係者は「警戒区域外では通常通り楽しめる。正しく知って」と呼びかける。(杉尾毅、渡部優斗)

異変を感じたら率先避難

 「3発目の弾(マグマ)が込められた状況だ」

 鹿児島大の井村隆介准教授(火山学)は、新燃岳の現状をこう表現する。新燃岳では2011年と18年にマグマ噴火が発生。「3発目」とは、それに続く大規模な噴火という意味だ。

 11年の噴火では、火口から約3・2キロの地点に縦70センチ、横50センチの大きな噴石が落下した。大量の降灰により宮崎、鹿児島両県で露地野菜などへの被害が出た。

 井村准教授は、霧島連山を挟んだ宮崎県えびの市と鹿児島県霧島市牧園町との間の観測で、地点間の伸びが見られるとして、地下にマグマが蓄えられている可能性を指摘する。

教職員を前に新燃岳について語る井村准教授(7月31日、宮崎県高原町で)

 新燃岳の麓にある宮崎県高原町は7月31日、高原中で教職員向けの研修会を開催した。井村准教授が講演し、規模の大きな噴火の可能性を念頭に、異変を感じたら率先避難する重要性などを呼びかけた。参加した 狭野(さの) 小の津曲健校長は「毎日、危機感を持って子どもたちを守らなければならないと改めて感じた」と気を引き締めた。

 6月22日の噴火は、18年以来7年ぶりだった。新燃岳の噴火警戒レベルは2(火口周辺規制)から3(入山規制)に引き上げられ、気象庁は火口から約3キロ以内では大きな噴石などへの警戒を呼びかけている。今月に入っても小規模な噴火が起きているが、マグマが本格的に噴出するような噴火には至っていない。


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 高原町では11年1月26日に噴火が本格化したことを受け、翌12年からこの日を「新燃岳を考える日」と制定。各小中学校で防災学習や児童、生徒を保護者に引き渡す訓練などを行ってきたほか、防災行政無線の拡充や避難 壕(ごう) の設置なども進めてきた。

 6月22日の噴火後は児童、生徒に、登下校時にヘルメットを携行させている。町の広報誌でも、特集を組んで注意を呼びかけた。

 噴火活動が長期化していることを踏まえ、横田秀二・町総務課長は「噴火への危機意識は重要だ。異変があったらすぐに避難できる態勢を維持しつつ、過敏になりすぎず生活を送る必要がある」と話す。

記録的大雨で「ダブルパンチ」

 今回の噴火では、警戒区域外の温泉施設やゴルフ場は通常営業していたが、キャンセルなどで売り上げは落ち込んだという。さらに、鹿児島県霧島市は今月7日から記録的な大雨に襲われ、一部の宿泊施設が被災。「ダブルパンチ」となる中だが、関係者は復旧に向けて一歩を踏み出している。

 同市牧園町の「おりはし旅館」では例年より宿泊予約が3割ほど減少した。客足を取り戻そうと、宿泊費を1人あたり最大5500円割引し、降灰があれば夕食時に焼酎を飲み放題とするプランの実施を決めていた。しかし、大雨で客室に土砂が流入するなどし、8月いっぱいの休業を余儀なくされた。

被害状況を説明する有馬さん。流れてきた土砂で側溝がつまり、清掃を進めているという(25日、鹿児島県霧島市牧園町で)=渡部優斗撮影

 それでも、有馬博明副社長(65)は「火山があることで温泉などの恩恵がある。環境を整え、これまで以上のサービスを提供したい」と前を向く。

 市によると、市内では最大2万戸が断水したが、13日に全て復旧。土砂災害などの影響で一帯の道路の一部で交通規制が残るものの、 迂回(うかい) して目的地にたどり着くことができ、観光施設も徐々に通常営業に戻りつつあるという。

 市は9月から、市内への宿泊者に対し、1人あたり2000円を還元する観光支援策を実施する。市観光PR課は「来てもらうことが一番の支援になる。観光地の現状を正しく伝え、一人でも多くの方に訪れていただきたい」としている。

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