異次元の寿命。数千年使える炭素14ダイヤモンド電池とは?
「長持ち」の概念が変わる。
時計やリモコン、電卓、懐中電灯、マウスなど、電池って「なんで今?」という最悪のタイミングで切れたりしません? そんなことが二度となくなる、現在の「長持ち」という感覚をはるかに超えて、何世代、何百年、数千年にわたって持続する電池があったら?
永遠の電池、炭素14ダイヤモンド電池開発
ブリストル大学とイギリス原子力公社(UKAEA)の研究者たちが、びっくり仰天の寿命を持つ世界初の「炭素14ダイヤモンド電池」を開発しました。
ブリストル大学が12月4日に発表した声明によると、この電池は、有機物の年代測定によく使われる放射性同位体である炭素14の崩壊を利用しています。
この革新的なデザインにより、環境負荷が小さい電力を数千年にわたって供給できる可能性があります。体内で使用する機器や、地球から数百光年離れた宇宙空間など、あらゆる場所での利用が期待されます。
Image: UKAEAofficial / YouTubeUKAEAでトリチウム燃料サイクル部門のディレクターを務めるSarah Clark氏は、次のように述べています。
「ダイヤモンド電池は、安全かつ持続可能な方法で、継続的にマイクロワットレベルの電力を供給できます。この技術は、少量の炭素14を人工ダイヤモンドで安全に閉じ込める先進技術です。」
まさかの放射性崩壊の利用
炭素14のような放射性同位体は、より安定した元素に崩壊する際にエネルギーを放出する不安定な原子です。ダイヤモンド電池は、炭素14が崩壊する過程で放出する電子を捕捉して、低レベルの安定した電力を生み出すそうです。太陽光パネルが光を電気に変換するのと似ています。
UKAEAの上席工程技師であるEseosa Ekanem氏は、UKAEAの動画の中で次のように話しています。
「私たちは、大気圧よりも低い圧力でダイヤモンドの薄い層を作ろうとしています。そして、電子が半導体であるダイヤモンドを通過するときに電気と電力が生まれます。」
半導体は、特定の条件下で電気を伝導する性質を持っているといいます。
炭素14の半減期は5,730年。つまり、この期間が経過すると、元の量の半分だけ崩壊して、残りの半分は引き続きエネルギーを生産できるということです。これだけでも炭素14ダイヤモンド電池がどれほど長持ちするか、おおよその見当がつくのではないでしょうか。逆にそんなに長持ちする必要あるのかと思っちゃいそうですけど。
人体も宇宙もカバーできる万能電池
「画期的な変化をもたらす」と声明で豪語するこの電池には生体適合性があるので、眼内レンズや補聴器などの医療機器に適しており、特にペースメーカーのように外科手術による電池交換が必要な機器で非常に実用的です。炭素14の外部被ばくによる健康へのリスクは大きくありませんが、体内に取り込まれると健康へのリスクが大きくなります。炭素14ダイヤモンドは電池を内部に閉じ込める構造になっているので、放射性崩壊によるリスクがないとのことです。
人工ダイヤモンドは耐久性に優れているため、長期にわたる宇宙探査ミッションのような、電池交換が容易ではない過酷な環境下でも使用できるといいます。また、地球内の遠隔地や地球外での長期プロジェクトで使用される、追跡用の無線自動識別装置にも電力を供給できます。
ブリストル大学のTom Scott氏は
「私たちのマイクロパワー技術は、宇宙技術やセキュリティ機器から医療移植片まで、幅広い重要な用途で活用可能です。今後数年間、業界や研究機関のパートナーと協力して、可能性をすべて追求できるのを楽しみにしています。」
と語っていますよ。
ダイヤモンド電池は気候変動対策にもなる
しかし、炭素14ダイヤモンド電池の恩恵を受けるのは医療や宇宙分野だけではありません。UKAEAの上席工程技師であるFatimah Sanni氏によると、UKAEAの科学者たちはダイヤモンド電池をほぼすべてのものに活用できる未来を思い描いているといいます。例として、同氏は小型衛星、コンピューターチップ、リモコン、腕時計を挙げています。
さらに、ダイヤモンド電池は、生産時に大量の温室効果ガスを排出し、不適切な廃棄によって有害な化学物質を環境に放出するリチウム電池に取って代わる可能性があります。リチウム電池を巡っては、児童労働や強制労働、先住民に対する人権侵害などの問題もありますね。
Sanni氏はこう話します。
「リチウムイオン廃電池にサヨナラです。ダイヤモンド電池のようなクリーンな電池があれば、気候変動を緩和できます。」
そう遠くない将来に、ダイヤモンド電池が業界に革命をもたらすかもしれません。早く天井に取り付けるタイプの火災報知機にも使えるようになって、あのうっとうしいこと極まりない電池切れのピーピー音を二度と聞かなくてすむ未来がきますように。