歯止めのきかない米国、トランプ政権に日本と欧州はどう対応すべきか?(Wedge(ウェッジ))

 国際法、国際規範、国際機関などを一顧だにしないようなトランプ政権に、どこまでついて行くのか。ついて行くことで国益は守れるのか。それとも、米国とともにある方がリスクやコストが大きいのか。米国の同盟国が突きつけられた問いである。 【図表】欧州にとって連携を強化すべきパートナー  第2次トランプ政権が発足してからしばらく、米国の同盟国である日欧の対応は、「媚びる」「持ち上げる」「すり寄る」一色だったといってよい。第1次政権期の安倍・トランプ関係がモデルになった部分がある。ある欧州の指導者は、「安倍モデルを実践している」と述べた。  2025年6月にオランダの首都ハーグで開かれた北大西洋条約機構(NATO)の首脳会合が成功したのは、ルッテ事務総長による徹底したすり寄り戦術の賜物だったといわれる。オランダ王室も動員した一大接待作戦だった。高市早苗首相も完全にこの路線である。  しかし、欧州ではこのやり方への疑問が拡大している。媚び続けたところで、見返りは持続的ではないし、下手に出て穏便にやり過ごそうとするだけでは、かえって足元を見られ、要求が釣り上がるだけではないかというのである。

 欧州にとっては、今年の年明けに一気に深刻度を増したグリーンランド領有をめぐる問題が転換点になった。トランプはデンマーク領グリーンランドの所有を求めたのである。これは、NATOの同盟国であるデンマークの主権への重大な挑戦だった。  米国は武力の使用も排除しないとの姿勢を示し、米国が同盟国に武力侵攻する懸念が顕在化した。欧州は結束してデンマークを支持した。  その後、トランプが矛を収めたため、グリーンランド問題は小康状態になっている。それでも、欧州にとっては、米国が完全な敵国になりかねない現実が突きつけられた。  トランプへの懐柔だけでは欧州の利益を守ることができないとの認識が強まっている。この切迫感は、日米関係ではまだ経験していない。

 トランプ政権の対外政策をあらためて振り返ると、同盟国との間の共通の価値や利益を軽視する姿勢が顕著だ。すべては取引であり、相手の弱みに付け入ることに関しては一貫性がある。  同盟国の多くは安全保障でも経済でも米国への依存度が高い。これは、それら諸国の脆弱性であり、トランプはこれを最大限に使おうとする。  その結果、皮肉なことに米国は、ロシアや中国に対するよりも同盟国により厳しい姿勢をとる。ロシアや中国の米国への依存度は限定的であるため、米国が使えるカードが少ないのである。  ただし、そうした脆弱性自体はまったく新しくない。以前からそうだった。トランプが従来と異なるのは、同盟国が有する脆弱性に着目して圧力をかけることをまったく躊躇しないことだ。  そのため、トランプ政権による関税措置に対し、投資の約束などで懐柔しようとしても、一度の譲歩で効果が持続する確信を持つことは難しい。また別の要求が出てきてもおかしくないからである。それもディールだということだ。  加えて、イラン攻撃に代表される国際法や国際規範、国際機関無視の姿勢である。トランプ政権には、もはや歯止めは存在していないようにみえる。  この点で、米国の位置付けは、ロシアや中国に近づくことになる。米中ロのような大国にとって、国際法や国際規範などは、自国の行動を縛る不都合なものだ。自らの行動の自由のために、制約は少なければ少ないほどよい。


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 日本では第2次トランプ政権発足当初、米国が戦略的重心をインド太平洋にようやくシフトさせることへの期待があった。  しかし、1年半近くがたって、それはまったく実現せず、近々実現する見通しもほとんどない。25年は、ウクライナ戦争とガザの停戦・和平への取り組み、そして今年はイラン攻撃と、結局のところ、欧州・中東の問題にエネルギーを割き続けてきたのがトランプ政権だ。  米国がインド太平洋地域以外への関与に忙殺されることは、中国にとっては好都合である。精密誘導兵器や防空システムの迎撃弾は在庫水準が危機的なレベルにまで低下している。製造能力の拡大も追いつかない。  さらに、イラン攻撃に傾注している間、米国は中国との緊張を高めることを避ける必要がある。レアアースの供給などがいわば「人質」になり、米国の対中カードも乏しい。  同時に、米国によるウクライナ支援はほぼ終了している。今日でも、インテリジェンスの提供は継続しているとみられるものの、イラン攻撃の開始以降は、「ウクライナどころではない」状況が顕著である。NATOは今年7月にトルコの首都アンカラでの首脳会合を予定しているが、イラン攻撃が続くようであれば、「NATOどころではない」中での開催になる。  欧州では、安全保障面での「自律性」向上が急務になっている。通常戦力分野での米国の欧州関与の度合いが低下することは、既定路線である。トランプ政権は、拡大核抑止については提供を続ける意思を示しているが、通常戦力による防衛と核抑止は、本質的に不可分であり、後者のみを維持するのは難しいだろう。  米国が関与を縮小する分を欧州が代替することは不可欠になり、これをいかにスムーズに進められるかがNATOにとっては重要な課題になる。  その場合でも、米国とあえて敵対しないことは引き続き求められる。トランプ政権が相手だとしても、欧州も日本も、中国やロシアとよりは、米国との間でより多くの価値と利益を共有しているからである。加えて、トランプ政権だけが米国ではない。  社会全体としての内向き傾向は、今後も続く可能性が高いものの、同盟国間の協力関係という観点では、トランプ後に再建できるものを少しでも多く残しておく必要がある。日本と欧州は、そのための準備を怠らない責任を負っている。

鶴岡路人

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