【コラム】セブン&アイと伊藤忠、M&A巡る意外な連帯-リーディー

不幸は、人に奇妙な仲間と知り合う機会を与える。シェークスピアの戯曲「テンペスト」に出てくるトリンキュロとキャリバンのように、日本企業の経営陣は最近、自分たちが奇妙な仲間たちと一緒にいることに気付いている。

  セブン&アイ・ホールディングスの経営権取得に関するニュースが13日に流れたとき、多くの人は耳を疑った。セブン-イレブンの運営会社が身売りするかもしれないということが意外だったわけではない。カナダのアリマンタシォン・クシュタールの買収攻勢をかわしたいセブン&アイにはとっては、あり得る動きだ。

  驚きをもって迎えられたのは、セブン&アイに救いの手を差し伸べた1社が米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が投資している日本の大手商社、伊藤忠商事だという情報だ。

  ファミリーマートに早くから出資し、2020年に完全子会社化している伊藤忠が、大手のライバル企業を救済しようとしているのは、テスラがゼネラル・モーターズ(GM)を救うようなものだ。

  セブン-イレブンの経営手法を学ぶためなのか、それとも、セブン&アイが謎めいたカナダ企業よりも、よく知る相手に身を委ねる方がいいと考えているということか。

  長年にわたるコンビニエンスストア業界の統合過程を経て、災害時には重要なライフラインとなるこの業界の規制当局から確実に反対されるであろう大胆な市場支配を、伊藤忠は恐らく狙っているのだろう。

  これは、典型的な「門前の野蛮人に対して日本企業が結束する」ケースだと主張する記事が数多く掲載されそうだ。しかし、もし実現すれば、伊藤忠が他社と提携してセブン-イレブンを支援することは、それとは全く異なる形となる。

  セブン&アイは三井物産と長年にわたる関係がある。コンビニ大手3社の残る1社、ローソン三菱商事とのつながりがある。さらに、三井物産と三菱商事にはバフェット氏という共通の株主がいる。

ありそうもない連携

  横浜では、しばらく前から奇妙なことが進行中だ。日産自動車は独立性の高い企業として知られるホンダと、ソフトウエアや電気自動車(EV)の共同開発というありそうもない連携を暫定的に強化している。

  日産の株主は最近、新たなパートナーが現れたことに衝撃を受けた。シンガポールを拠点とするヘッジファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントに関係するファンドが、経営危機に陥っている日産の株式を買い入れているのだ。

  一見したところ、これはエフィッシモの常とう手段のようだ。エフィッシモは、日本でアクティビスト(物言う株主)の先駆けとなった村上世彰氏の下で働いていた2人の元マネジャーによって06年に設立された。

  東芝に対するキャンペーンと似たところがある。エフィッシモは長く東芝を追い詰めていたが、東芝が日本産業パートナーズ(JIP)などの連合による買収提案を受け入れたことに伴い、そのキャンペーンを終えた。

  日産も同様に長い間、苦戦を強いられている。18年に逮捕される前、カルロス・ゴーン元会長はフランスのルノーとの完全統合を目標にしていることを隠さなかった。

   しかし、ゴーン氏の不在によりルノーとの友好関係が薄れつつある今、日産には新たな同盟が必要だ。そして同社の株価は、1990年代後半にゴーン氏が経営再建を託された当時の水準近くまで低迷しており、エフィッシモによる買収は理にかなっている。

  日本では状況が変化しているが、大手自動車メーカーが破綻に向かうのを政府が黙って見過ごすことは依然としてないだろう。エフィッシモの日産車体との関係が深いことが、日産株買い入れにつながっているとの指摘もある。エフィッシモは長年にわたり日産車体の相当規模の株式を保有している。

  日産車体の浮動株が少な過ぎ、2026年までに上場廃止になる可能性があるとの見方もある。村上氏と旧知の関係にある人物が率いる小規模なアクティビストファンド、ストラテジックキャピタルは、日産に日産車体を吸収合併するよう要求。日産車体の顧客は実質的に日産1社だ。

  それだけにとどまらない。東京証券取引所の改革により、あらゆる種類の合併・買収(M&A)やスピンオフ、分割が行われるなど、アクティビズムが盛んになっているのが今の日本だ。

得するのは誰か

  オアシス・マネジメントも日本で最も成功したテクノロジー系スタートアップの1社、メルカリへの投資を明らかにしたばかりだが、まだ要求の概要を示していない。これらの動きは、金融専門紙には刺激的な見出しとなる格好の材料だろう。しかし、社会にとっての価値はもっと議論の余地がある。

  取締役会が現状に甘んじていると非難されることが多い日本で、そうした状況を揺り動かすことができるアクティビストは歓迎されるべきだ。セブン&アイの案件を含め、報道のほとんどは中立または肯定的なもので、変化を求める声があることを示唆している。

  だが、際限のない要求で経営陣を悩ませ、短期的な株主のみに利益をもたらすような提案には警戒すべきである。結局、東芝の長きにわたる解体と上場廃止で誰が得をしたのだろうか。

  東芝は数千人の人員削減を行うと報じられている。17年に売却した半導体メモリー部門は今のキオクシアホールディングスだが、同社は長らく延期されていた新規株式公開(IPO)の準備を進める中で、韓国のサムスン電子やSKハイニックスに後れを取っている。

  敵対的買収やアクティビスト投資家、そして国を代表するような企業に対する外国勢による買収提案などは、日本では比較的新しい現象だ。長期投資家と日和見主義者の違いを見極め、それらに対処し評価するための適切な枠組みはまだ整っていない。

  オーストラリアのような外資買収審査の仕組みが提案されているが、悪くないアイデアかもしれない。豪州は銀行や弁護士だけが利益を得て、案件が何年も長引くという事態を経験している。

  規制緩和について議論する際、日本はしばしば英国のサッチャー政権下での「ビッグバン」改革を引き合いに出す。しかし、その結果起きたことにも注意を払う必要がある。

  かつては素晴らしかった多くの英企業がどうなったのか振り返ってみるべきだ。英国では今、ブルームバーグの同僚コラムニスト、メリン・サマセット・ウェッブ氏が論じているようにプライベートエクイティー(未公開株、PE)投資会社から企業を守る必要があるという議論が出ている。

  日本も、米クラフトフーズによる英チョコレートメーカー、キャドバリー買収のような事態が起こってから自国のルールを変えるのではなく、今すぐにでも行動を起こすべきだ。

  日本には魅力的なM&A案件が数多くあり、利益を生む可能性もある。しかし、過去に実現しなかった買収の話を振り返ってみると、例えば米マイクロソフトが任天堂に関心を示していたといううわさが、もし本当だったら良い結果になっていただろうかという疑問が浮かぶ。

  全ての提案に応じる価値があるわけではないと指摘する声が、国内の一部から上がるのも当然だ。日本有数の企業があまりにも多く売却されてしまえば、日本は「テンペスト」のプロスペローのように「われわれのうたげは終わった」と言うことになる。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Japan’s New Love of M&A Makes Strange Bedfellows: Gearoid Reidy (抜粋)

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