トランプ政権による壊滅的な科学予算案?
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5月2日号のNature誌に「Trump proposes unprecedented budget cuts to US science」というタイトルの記事が出ている。トランプによる米国科学予算に対する前例のない大幅削減案を非難した記事だ。まさに殿のご乱心だ。
トランプ政権が公表した10月1日に始まる会計年度(2026年)の予算案は、国防関連のものを除くと23%の削減となっているとのことだ。全体を見ても大幅減だが、国立科学財団(NSF=National Science Foundation)に対しては56%の削減案、国立衛生研究所(NIH=National Institute of Health)に対しては40%の削減案となっている。
NSFの予算は人工知能や量子科学関連の予算は維持されるとのことだが、総予算は2025年比50億ドル(約7200億円)減の案となっている。これではNSFが支援している生命科学以外の科学分野は壊滅的な打撃を受ける。米国以外の国から来ているポスドクや若手研究員は職場を失うことになる。
個人的に、もっとも関心があるのは、NIHの予算だが2025年度の480億ドル(約7兆円)から、270億ドル(3.9兆円)への削減である。2025年度中に開始される研究予算も審査を止めていたり、一部中止に追い込まれているので、すでに削減は始まっているのだが、革命でも起きたかのような急激な変化である。疾病対策センターも予算減となり、世界の感染症の番人としての役割はどうなるのだろう。
それにしても、米国が世界を牽引する力を維持してきた根源の一つは科学力なのだが、まるで、その歴史を理解していないような無謀な変革を引き起こそうとしている。政権内部の科学リテラシーはどうなっているのだろう。
トランプの言う「Deal」は、目先の利益、誰にも明らかな利益の確保なのだろうが、長期的な科学への投資が米国という国の持っている財産なのだ。日本は数十年にわたって、科学予算が迷走しているが、米国の現状は、日本も真っ青な惨憺たる状況となっている。
前NIH所長のモニカ・ベルタニョーリ博士は、トランプ政権から飛びだした多くの発言が不正確であったり、虚偽であることに愕然としているとNatureの取材に答えたそうだ。彼女は非常に論理的思考をする医師であり、研究者なので、ケネディ長官をはじめとするあまりにも事実を歪めた発言に怒りを覚えているだろう。
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編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2025年5月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。