King Gnuライブ、客の熱唱が物議醸す 音楽心理学者の見解は
ロックバンド「King Gnu」のツアー「CEN+RAL Tour 2026」が開催中です。皮切りの仙台公演後にSNSで起きたのが、ライブ中の観客の「熱唱」についての議論です。賛否が分かれる背景を音楽心理学者に聞きました。みなさんはどんな風にライブを楽しみたいですか。(朝日新聞withnews・川村さくら)
King Gnuはアジア4都市を含む29公演のツアーで全面的に撮影OKの方針をとっています。
2月の仙台公演1日目の終了後、X(旧ツイッター)でライブ中の動画を付けたあるポストが拡散されました。
「近くにいた観客がライブの最初から最後までずっと大声で歌ってた」「チケット代と新幹線払ってこれ聴きに来たわけじゃない」といった内容でした。
この投稿は6万以上の「いいね」が集まるほど拡散され、「熱唱」への議論が巻き起こりました。
井口さん「求めていること」
さらに翌日の仙台公演2日目、ボーカルの井口理(さとる)さんがこの議論に応えるかたちでライブ中に発言しました。観客の1人として記者自身も現地で聞いていました。
「(熱唱は)こちらが求めていること」「いいんですよガンガン歌ってもらって。隣の声うるさいなって思ったらそれ以上に歌ってください」
記者が訪れた2月22日の仙台公演の電子チケットこの発言を受けて、Xではさらに議論が過熱しました。
「アーティストが求めていることだからそれに従うべき」「だとしても自分は本人たちの声をちゃんと聞きたい」「歌いたい人と聞きたい人で席を分けたら」
様々な意見が散見されました。そもそもなぜみんなが楽しみに来ているはずのライブでこうした議論が起こるのでしょうか。
音楽心理学者に聞いたら「娘と息子も…」
音楽心理学が専門で、大阪樟蔭女子大学心理学科教授の山崎晃男さんに聞きました。
実は山崎さんの子ども2人もKing Gnuファンで、大阪公演に参加したのだといいます。
音楽心理学者の山崎晃男さん「娘はアーティストの声だけ聞きたい派、息子は曲によってケース・バイ・ケース派でした」
教える学生たちにも意見を聞くと、「観客が歌うのは嫌」「アーティストが言うならOK」「みんな好きにしていい」と大きく三つのタイプに分かれていたといいます。
東アジアと欧米を比べると
山崎さんはこの背景に、東アジアと欧米の背景の違いがあるかもしれないと語ります。
個人主義が強い欧米に対して、東アジアでは全体の調和を重視するといいます。
「個人が先にあるからこそ、欧米では全体がまとまる意義が強い。だから音楽でも規模が大きくテンポが速めの、みんなでまとまりやすい曲が多く生まれてきました」
「日本は音楽がなくても最初から全体を重視する。だから音楽文化としてはお座敷の延長みたいな、小規模でゆったり聞く音楽が多かった」
「楽しみ方は自由」な欧米
現代のライブシーンにおいてもその特性が表れているのではないかと指摘します。
「欧米の場合、楽しみ方は個々の自由であって、『盛り上がり』さえ共有されていればいいわけです」
大阪・関西万博でガムランのうちの「ボナン・バルン」を演奏する山崎晃男さん=本人提供ベースの新井和輝さんはツアー中、自身がパーソナリティーを務めるJ-WAVEの「SPARK」でこう発言していました。
「みんながそろっているのが一体感っていうわけではない。好きに踊ってたり、手をおのおのがあげていたり、心からの振る舞いを自由にしていても会場としての一体感はある」
これは山崎さんが言う欧米型の感覚に当てはまります。
「線的」だけど「同じ楽しみ方」
日本の感覚だと、ある「矛盾」が現れるといいます。
まずライブの楽しみ方はお座敷文化の延長で、アーティストと自分との個別なつながりを重視する傾向があります。面的に盛り上がりを求める欧米とは対照的です。
ただ東アジアの傾向として上げたように、全体の調和を重視する性格がここでも出てきます。
山崎さんは、日本の観客には「みんなが同じ楽しみ方をするべきだ」という考え方があるのではないかといいます。
「欧米のように面的な人もいるけれど、線的な人も多く、しかも全員が同じ形状で楽しむことが求められる、みたいなイメージでしょうか」
動きが合うと心も同期
音楽ライブではみんなで歌ったり、手を振ったり、そんな集団行動がよく起きます。
音楽心理学の分野ではそうすることで一体感が生まれることも分かっているといいます。
「複数の人が同じ動きをすると心も同期されて仲間意識のようなものが生まれるんです」
ガムランのうちの「クンダン」を演奏する山崎晃男さん=本人提供また、山崎さんによると、音楽のリズムに体が乗ってしまうことを「エントレインメント(entrainment)」と呼ぶそうです。
「たくさんの人数が音楽でエントレイメントをすると、それだけ大きな一体感につながります」
メンバー「無理に手をあげないで」
ただ、King Gnuメンバーは「無理な一体感」にも苦言を呈していました。
ドラムの勢喜遊(せき・ゆう)さんが新井さんのラジオ番組にゲスト出演した際、「(無理に周りに合わせて手を上げている人は)顔見れば分かる」とコメント。
これについても、山崎さんは「心理学や生物学の世界で使われる『オネストシグナル(honest signal)』という言葉があります」と教えてくれました。
動作の「うそ」はすぐばれる
感情を表に出すとき、それがどのくらい正直に外側に出ているかを指すのが「オネストシグナル」です。
言葉はうそがつけるので「正直度」は低く、表情は完全には取り繕えないので正直度は中くらい。
一方で、動作は、動きが大きいものほど正直度が高いそう。無理に感情と違う動きをすれば、周りにもばれてしまいやすいとのことです。
つまりライブ中に、「上げないといけない」と思って手を上げていると、見た人にはすぐ伝わってしまうというわけです。
「歌うしかないのでは」
ラジオ出演の際、勢喜さんは「ライブのあり方、お客さんとの対話の仕方が(今回)俺らのテーマだなって思ってる」、井口さんは「歌う歌わない問題が炎上したりしたけど、いい方向に進めばいい」と話していました。
観客の熱唱についての議論はどう着地できるのでしょうか。山崎さんに聞くと……。
「King Gnuの人たちはがちがちの『歌え』派なわけですよね。それやったらもうみんなで歌うしかないんじゃないですか」
【山崎晃男さん】
大阪大学人間科学研究科博士課程単位取得満期退学。現在は大阪樟蔭女子大学心理学科教授。学生時代からインドネシアの民族楽器「ガムラン」を演奏しており、大阪大学中之島センターで毎月無料ワークショップを行っている。情報はこちら(https://www.instagram.com/dharmabudaya_gamelan/)。
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この記事を書いた人
- 川村さくら
- デジタル編成本部|withnews編集部
- 専門・関心分野
- 人権、差別、ジェンダー、サブカル