AI操作の自律型ドローンが国際レースで初めて人間のチャンピオンに勝利、人間と同じたった1つのカメラで飛行
オランダの国立大学であるデルフト工科大学の研究チームが開発した自律型ドローンが、アラブ首長国連邦の首都アブダビで開催されたドローンレースで優勝しました。レースにおいて、デルフト工科大学の自律型ドローンは世界最高レベルのドローン操縦士が操作するドローンの成績を上回っています。
Autonomous drone from TU Delft defeats human champions in historic racing first
https://www.tudelft.nl/en/2025/lr/autonomous-drone-from-tu-delft-defeats-human-champions-in-historic-racing-firstアラブ首長国連邦を先進技術の世界的リーダーとするため発足されたアブダビ先端技術研究評議会(ATRC)の一部門で、自動運転技術の限界に挑戦するアブダビ自律走行レーシングリーグ(A2RL)は、プロのドローンレースチームが参加する世界最大規模のドローンレースであるDrone Champions League(DCL)と提携し、中東初の「A2RL×DCL自動運転ドローン選手権」を開催しました。
このドローン選手権では、人間のパイロットによるドローンレース「Falcon Cup」と、AI搭載の自律型ドローンによるレース「A2RLドローンチャンピオンシップ」が開催されました。Falcon Cupで優勝したのは日本初のプロドローンレースチームである「RAIDEN RACING」です。
デルフト工科大学の開発したAIドローンは、まずA2RLドローンチャンピオンシップで優勝。その後、人間のパイロットとのノックアウトトーナメントに出場し、優勝しました。ノックアウトトーナメントでは元DCLの世界チャンピオン3人を破って優勝しています。レースで使用されたドローンはすべてNVIDIA Jetson AGX Orin、前方カメラ、オンボード知覚・制御用の慣性計測装置(IMU)を搭載した、標準化されたものです。
このドローン選手権では物理的なAIの限界に挑戦するため、参加ドローンに対して「1台のカメラのみを使用」という制約を課しており、この点が従来の自律型ドローンによるレースとの大きな違いです。前方を監視するためのカメラが1台だけ搭載されているというのは、人間のFPV(一人称)パイロットの飛行方法に非常に近いため、AIにとっては周囲環境を認識する上で非常に困難になります。 デルフト工科大学のドローンは、ディープラーニングによる高性能制御を実現することで、13機の自律型ドローンおよびドローンレースのチャンピオンが操縦する「人間が操作するドローン」に勝利しました。デルフト工科大学のドローンレースチームによると、AIドローンは曲がりくねったコースで最高時速95.8kmを記録したそうです。
デルフト工科大学のドローンチームは、「瞬時に高性能な制御を可能とする効率的で堅牢なAIシステムを開発することで、この偉業を達成した」と報告しています。AIがチェスや囲碁の世界チャンピオンを破るという画期的な出来事は主に仮想空間の中で起きていましたが、現実世界で「AIがドローンの世界チャンピオンを打ち破る」という結果は、大きな偉業といえます。
なお、チューリッヒ大学のロボティクス&パーセプショングループが2023年に人間の操縦士が参加するドローンレースで初めて自律型ドローンの勝利を記録しましたが、これは「飛行実験室」で実施されたレースであり、状況・ハードウェア・コースはすべて研究者が管理しています。一方、デルフト工科大学のAIドローンはハードウェアおよびコースが大会主催者によって完全に設計・管理されているという点で、状況が大きく異なります。
AIが操縦する自律型ドローンが人間の世界チャンピオンにドローンレースで勝利 - GIGAZINE
ドローンレースに参加したのは、デルフト工科大学の航空宇宙工学部内にあるマイクロ航空機ラボ「MAVLab」の科学者と学生です。チームリーダーのクリストフ・デ・ワグター氏は、「AIが実際の競技で人間のドローンパイロットと競えるようになるのはいつなのか、ずっと疑問に思っていました。今年中にそれを実現できたことを、チーム一同大変誇りに思っています。この成果、そして競技全体が現実世界のロボット応用を飛躍させるきっかけになることを願っています」と語りました。 トラックゲートを通過するドローンをタイムラプスで撮影した写真
デルフト工科大学のAIドローンが革新的である理由のひとつは、モーターに直接制御コマンドを送るディープニューラルネットワークを活用しているという点です。これはもともと欧州宇宙機関(ESA)の先進コンセプトチームによって開発されていた「誘導制御ネットワーク」と呼ばれるものです。従来の人間工学に基づく最適制御アルゴリズムは、計算コストが高いため、ドローンや衛星といったリソースに制約のあるシステムに搭載することは不可能でした。ESAはディープニューラルネットワークが従来のアルゴリズムの結果を模倣しつつ、処理時間を桁違いに短縮できることを発見したものの、宇宙空間の実機で適切に動作するかテストすることは困難でした。そこで、デルフト工科大学のMAVLabと協力して、ディープニューラルネットワークの活用が模索されてきたというわけ。 ワグター氏は「現在、私たちは試行錯誤による学習方法である強化学習を用いてディープニューラルネットワークをトレーニングしています。これにより、ドローンはシステムの物理的限界にさらに近づくことが可能です。しかし、そこに到達するには、制御のトレーニング手順だけでなく、ドローンに搭載されたセンサーデータからドローンのダイナミクスを学習する方法も再設計する必要がありました」と語っています。 また、「ロボットAIは、必要な計算リソースとエネルギーリソースによって制限されます。自律型ドローンによるレースは、高効率で堅牢なAIの開発と実証にとって理想的なテストケースです。ドローンの高速飛行は、血液サンプルや除細動器を時間通りに配送することから、自然災害時の人命救助に至るまで、多くの経済的・社会的ケースで重要になります。さらに、ESAとMAVLabとの協力で開発された手法を用いることで、最適な時間だけでなく、最適なエネルギーや安全性といった他の基準も追求することが可能になります。これは、掃除ロボットから自動運転車まで、他の多くのアプリケーションに影響を与えるでしょう」と語り、自律型ドローンによるレースがロボット向けAIの開発に有用であることをアピールしました。 なお、以下が実際にデルフト工科大学のAIドローンが飛行している様子を撮影した動画。非常に高速かつ滑らかに指定のコースを飛行するドローンの様子が確認できます。
Autonomous Drone from TU Delft Defeats Human Champions in Historic Racing First - YouTube
なお、このAIドローンと対戦した人間のパイロットが操縦するFPVドローンの操作感がどんなものなのかは、以下の動画を見ればわかります。高速移動しながら目まぐるしく移り変わる周辺環境を正確に認識し、障害物を正確に回避する必要があります。
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