宇宙船を高温から守るヒートシールド、予想以上のダメージを負っていた

バハ・カリフォルニア沖に着水したNASAのオリオン宇宙船

2023年12月3日の記事を編集して再掲載しています。

早いもので無人の宇宙船「オリオン」が太平洋に着水してから2年近くが経ちました。しかし、長引いている同船のヒートシールド問題を今度の有人ミッションの前に解消するには、もう少しかかりそうです。

SpaceNewsは2023年に開催された会合で、ヒートシールドの問題をきちんと理解して改善するまでは、アルテミス2ミッションの打ち上げを進めることはないと、NASAの高官が発言していたと報じています。

NASAはオリオン宇宙船のヒートシールド性能の調査を続けており、探査システム開発ミッション本部のジム・フリー副長官によると、それがまとまるまでに時間がかかるとのこと。

この問題を解明するにあたって、NASAはヒートシールドの部品交換か、宇宙船のハードウェアの進んだ分を元に戻すことに抵抗はない模様。しかし、差し当たっては現時点での打ち上げに向けて、宇宙船の準備を進めているのです。

「現在のところは中断する理由がありませんから、ハードウェアは今もなお先へと進めています」

とフリー副長官。「中断する理由を見けたら、中断します」と述べていました。

宇宙船のヒートシールドは、地球の大気圏への再突入時に、宇宙飛行士たちを超高温から守るよう設計されているのです。

予想以上の剥離

アルテミス1ミッションの後、ヒートシールドに予想していなかった変化があったことが宇宙船の追跡調査で明らかになっています。

オリオンは大気圏再突入時には時速2万4600マイル(約3万9590km)に達し、ヒートシールドは華氏5,000度(摂氏2,760度)以上の高温を耐え抜きました。多少は焦げるだろうとNASAのエンジニアたちは予期していたとはいえ、シールドのアブレーション材料は予想よりも多く剥がれてしまったのです。

NASAのオリオンプログラムマネジャーHoward Hu氏は、3月に報道陣に対し、「焦げた素材のいくらかは私たちのコンピューターモデルや地上でのテストの予測とは異なる形で剥離した」とコメント。

「私たちが予期していたよりも、焦げた素材の多くが再突入時に分離していったんです」と語っていました。

その当時、NASAは再突入時のヒートシールドのパフォーマンスについて、さらに研究するための調査を開始。NASAの“月から火星へ“計画室のLakiesha Hawkins副長官代理補佐官は会合時に、ヒートシールドの侵食についての“仮の根本的原因の解明”は、来春末に得られる見込みだと語っていましたが、こうも述べていました。

「フライトの論理的根拠について話し始める前に、私たち全員が根本的な原因に不安はないと感じているか確認します」

不安の芽を摘んでおきたい

NASAは引き続きアルテミス2号用の宇宙船のハードウェアに取り組んでいます。

SpaceNewsの記事には、Hawkins副長官代理補佐官のこんな発言が引用されていました。

「アルテミス2号用の輸送船の加工は続いていますが、私たちはスケジュールを管理しようするためにやっているだけです」

彼女はこう補足しています。

「もし元に戻す必要が、もしヒートシールドの部品の交換を含め、やり直す必要があるなら受け入れます」

ヒートシールドがアルテミス2号の打ち上げ日に影響を及ぼすかどうかはまだはっきりしませんが、クルーは解明されるまではオリオンに乗らないと明言しています。2023年8月に行なわれた記者会見では、アルテミス2号の船長を務めるNASA宇宙飛行士のリード・ワイズマンが、フリー副長官にこんな発言をしていました。

「このクルーは、自分たちが準備できているとわかるまで、我々のチームが輸送船の準備できているとわかるまで、飛び立つつもりはないしプレッシャーをかけ続けますよ」

Source: SpaceNews

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