「太陽系外惑星に生命の兆候」は本当か、専門家10人に聞いてみた

2020年、科学者たちは金星に生命の兆候を発見したと主張した。地球の微生物が作り出すホスフィン(リン化水素)と呼ばれる悪臭ガスの痕跡だ。しかし、この主張にはすぐに異議が唱えられ、数年たった今でも論争が続いている。そして今、また別の悪臭ガスが地球外生命体に関する新たな議論を巻き起こしている。今回の舞台は太陽系外の惑星だ。

2025年4月17日、研究者たちはジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)のデータを使って、太陽系外惑星K2-18bの大気中から硫化ジメチル(ジメチルスルフィド、DMS)というガスを検出したと学術誌「Astrophysical Journal Letters」に発表した。

K2-18bは、K2-18という恒星のハビタブルゾーン(生命が存在しうるエリア)を公転している。地球上では、DMSは主に微小な植物プランクトンによって生成される。したがって、他の惑星で生命の兆候(バイオシグネチャー)となる可能性があるのだ。

DMSの検出に関わった研究者の何人かが所属する英ケンブリッジ大学は、この発見を「太陽系外における生物の活動のこれまでで最も強い兆候」とプレスリリースで素早く宣伝した。一部のメディアは、DMSを生命の兆候として大々的に報じた。

しかし、DMSの発見に関与していない科学者たちは、より慎重だ。

「私はこの主張にはかなり懐疑的で、報道には天文学界と宇宙生物学界の懐疑的な見方をもっと反映してほしいと思っています」と、米ワシントン大学の宇宙生物学者ジョシュア・クリッサンセン・トットン氏はメール取材に答えている。

2020年の金星におけるバイオシグネチャー騒動の当事者だった米バード大学の宇宙化学者クララ・ソウサ・シルバ氏にとって、この状況は残念なほど身近なものだ。「私たちは『金星のホスフィン』騒動から十分な教訓を得ていませんでした」と氏は言う。

今回のバイオシグネチャー発見の主張をどう評価すべきか、ナショナル ジオグラフィックは10人の独立した専門家に話を聞いた(全員の主張を引用はしていないが、彼らの見解は反映されている)。以下に、K2-18bにおけるDMSについて知っておきたいことを紹介する。

太陽系外惑星のニュースを追っている人なら、今回の発表を目にして、少し既視感を覚えたかもしれない。2023年、英ケンブリッジ大学の宇宙物理学者ニク・マドゥスダン氏が率いる同じ研究チームが、K2-18bにおけるDMSの存在を示唆するJWSTの観測結果をすでに発表していたからだ。

同じJWSTのデータに基づいて、研究者たちはK2-18bが「ハイセアン惑星」と呼ばれる居住可能な惑星の一種であるとも結論づけた。

ハイセアン惑星とは、マドゥスダン氏らが2021年に作った用語で、水素(hydrogen)と海(ocean)を組み合わせた言葉だ。地球よりも大きく、海王星よりも小さく、ほとんどが水で構成され、水素とヘリウムの厚いベールに包まれた仮想的な惑星群と定義した。適切な条件下では、生命が存在できる温暖な表層の海をもつ可能性がある。

2023年のDMS検出は、天文学における発見の代表的な統計基準には達していなかった。一方、今回の研究は、以前と異なる波長の光に反応するJWSTの装置を用いた追跡調査だ。

前回のDMS検出は仮説にも満たないほど弱いものだったが、今回の検出はかなり強力なようだ。マドゥスダン氏らは、DMS(およびジメチルジスルフィド(DMDS)と呼ばれる類似の分子、またはそのいずれか)の検出が「3シグマ」の有意水準に達したと主張している。

シグマは統計学の専門用語で、3シグマは検出の確からしさが約99.7%であることを意味する。統計的有意性の信頼されている基準である「5シグマ(99.9999%の確からしさ)」には達していないものの、以前の結果よりもはるかに説得力がある。

「この惑星について私たちが知っているすべてのことを考慮すると、K2-18bは生命が存在する海洋をもつハイセアン惑星だというシナリオが、私たちが持っているデータに最もよく合っています」と、ケンブリッジ大学のプレスリリースで、マドゥスダン氏は述べている。

他の科学者はそこまで楽観的ではない。DMS(あるいはDMDS)が本当に存在するかどうかさえ懐疑的な人もいる。

「本当に興味深いですし、JWSTの能力を示す素晴らしい例です」と、ドイツ、マックス・プランク天文学研究所の天文学者ローラ・クライドバーグ氏はボイスメモで述べた。「でも、全肯定するほどではありません」

科学者はJWSTを使って、恒星の光が惑星の大気を通過する際に生じる「化学的指紋(波長の吸収パターン)」から、太陽系外惑星の大気中のガスを特定できる。これらの化学的指紋は、光の強度と波長の関係を示すグラフ上に示される。今回の研究では、これらのパターンを20個の分子と照合しようとした。

「天文学者が通常行うよりも多くの分子を対象としています。なぜなら、天文学者は地球外生命体の存在を主張することがあまりないからです」と、ソウサ・シルバ氏は言う。また、これらの分子の構造のほとんどはDMSやDMDSと似ていないため、DMSおよびDMDSによく似た構造をもつ分子との区別が厳密に検討されておらず、「偽陽性」の可能性があると、氏は指摘する。

米ミシガン大学の天文学者ライアン・マクドナルド氏はさらに踏み込んで、SNSの「Bluesky」上で、3シグマの主張を「統計ハッキング(都合のよいデータ処理・モデル選択・検定方法の採用を行うこと)」だと批判した。

クライドバーグ氏はより寛容だ。「発見したチームは素晴らしい仕事をしたと思います。データもとても慎重に扱っていたと思います。しかし、同じ分野で働く者として言えるのは、本当に難しいということです」

正式な異議もすでにある。査読前の論文を投稿するサイト「arXiv.org」で、JWSTのデータにDMSあるいはDMDSの確かな証拠は見当たらなかったという論文を、英オックスフォード大学の天体物理学者のジェイク・テイラー氏が4月22日付で、米シカゴ大学の天体物理学者のラファエル・ルケ氏らが5月19日付で発表している。

K2-18bは恒星のハビタブルゾーンを周回しているが、第二の地球ではない。半径は地球の2.6倍、質量は8.6倍という大きさの謎めいた異星で、居住可能ではない可能性さえある。

最近、独立したチームがケンブリッジ大学のチームによる2023年のK2-18bの観測結果を再分析したところ、DMSの証拠も二酸化炭素の証拠も見つからなかった。これは、二酸化炭素が豊富に存在するはずだと予測されていたハイセアン惑星のシナリオにとって痛手となる結果だ。

以前の別の研究では、K2-18bは地表面が全くない、居住に適さないガス状の球体である確率が最も高いと主張された。別のチームは、さらに居住に適さない代替案を提唱している。K2-18bには、水ではなくマグマの海があるという説だ。

K2-18bに二酸化炭素が存在しないと報告した分析結果は、まだ査読を受けていないと、マドゥスダン氏は指摘する。「未解決の問題はありますが、居住可能性を排除するものではありません」と氏は言う。「二酸化炭素の証拠は確実にあります」

たとえK2-18bがハイセアン惑星だったとしても、居住可能だとは限らない。反射性の高い雲の層がなければ、惑星の海は水素の大気に覆われて沸騰してしまうだろう。少なくとも2025年4月16日付で「arXiv.org」に投稿された研究によれば、K2-18bに存在する可能性のある海はこの運命をたどる確率が高いようだ。

「この惑星の最も単純な説明は、居住可能な地表面を持たない非常に厚いガス状の大気をもつというものだ」と、NASAエイムズ研究センターの太陽系外惑星科学者ニック・ウォーガン氏は言う。「K2-18bを居住可能な(あるいはすでに居住している)惑星として成立させるには、非常に多くの課題があります」

それでも、科学者がDMSの存在を確認し、K2-18bが居住可能なハイセアン惑星だと判明したとしよう。「地球外生命体を発見した」とシャンパンを開けるのは待った方がいいかもしれない。

科学者がDMSとDMDSの非生物的な説明(生命が関与しない説明)を排除できるまでは、これらのガスはK2-18bの真のバイオシグネチャーとは言えない。そして、東京科学大学地球生命科学研究所の宇宙生物学者ハリソン・スミス氏と米アリゾナ州立大学のコール・マティス氏が2023年に学術誌「BioEssays」で主張したように、太陽系外惑星におけるバイオシグネチャーの偽陽性の排除は非常に難しい。

「少なくとも金星は私たちが知っている惑星です。私たちは金星がどんな姿をしているのか、どんな環境なのかを知っています」と、ソウサ・シルバ氏は言う。K2-18bの地質学的・化学的特性と大気の実態がわからない限り、科学者はDMSの発生源が地球外生命体ではなく、未知の化学反応である可能性を自信を持って排除できない。

自然界では、生命がいなくてもDMSが生成されることがすでにわかっている。2024年、スイスのベルン大学の化学者ノラ・ヘンニ氏らは、彗星(すいせい)67PでDMSを発見した。彗星67Pは居住可能な場所では全くない。

星間空間でDMSを発見した研究者もいる。さらに2024年、米コロラド大学ボルダー校の化学者エレノア・ブラウン氏らは、合成大気を用いた実験室での光化学反応でDMSが生成されることを示した。

「DMSを生命に特有の結果として理解する理由はありません」と、マティス氏は言う。「非生物的な発生源が確認されているのに、彼らがなぜDMSを生命の兆候になり得ると考えているのか、私にはまったく理解できません」

今回の論文の著者らは、こうした課題の一部を認識している。マドゥスダン氏は、彗星も星間物質も、自身のチームが検出した高濃度のDMSおよびDMDSの発生源としてはあり得ないと述べている。しかし、DMSが生命が関与しない予想外の環境で見つかっていることは、DMSがどのように生成されるかについて、まだ学ぶべきことがたくさんあることを示している。

この検出には、他にも不確実性がつきまとっている。

私たちは地球で生命がどのように始まったのかを知らないため、K2-18bの環境が地球の生命にとって居住可能だとしても、そもそもそこで生命が誕生できたのかはわからない。さらに、仮にそこで生命が進化したとしても、その生命がDMSを生成したとは言えない。もし生命がDMSを生成したなら、なぜ科学者はバイオシグネチャーとなる他のガスを発見していないのだろうか?

多くの注意点があるとはいえ、私たちが話を聞いたほとんどの研究者は、それでも今回のK2-18bの新たな研究には祝福される理由があることに同意している。「これは本当に偉業です。30年前には、太陽系外惑星が存在することさえ知らなかったのです」とヘンニ氏は言う。

生命検出の主張を研究してきた英ダラム大学の科学哲学者ピーター・ビッカーズ氏は、当初懐疑的だった。「しかし、よく調べていくうちに、実際は非常に重要であり、過小評価すべきではないと思うようになりました」と語る。

マドゥスダン氏自身は、慎重さと興奮は両立しないとは考えていない。地球外生命体のほんのわずかな証拠でさえ「変革的な成果」だと氏は言う。しかし、そこから本当に生命を検出したと主張するには大きな一歩が必要だ。「私たちは、成果と慎重さの両方を認識する必要があるのです」

もし私たちが太陽系外で生命を発見するとしたら、それは一気に起こるわけではない。確信へと至る道のりは、今回のような発見によって少しずつ押し進められながら、ゆっくりと進んでいくだろう。もっとよく観察すれば「そこに何か発見があるかもしれない」という、そんな小さな兆しが積み重なっていくのだ。

そして、今回の結果は間違いなく、K2-18bをより詳しく調べるべきだという招待状だ。もしK2-18bのような、私たちが最初に詳しく調べた惑星の一つで生命が見つかったとしたら、生命はどこにでも存在すると想定すべきだろうと、ビッカーズ氏は言う。もし生命が稀な存在なら、偶然最初に見た惑星で見つけてしまう確率は天文学的に低すぎる。

「私たちはまだ問いを立てる段階にいますが、この問いを立てられること自体が素晴らしいことなのです」と米カーネギー科学センターの宇宙生物学者マイケル・ウォン氏は語る。「こんな時代に生きていられるなんて、本当に幸運です」

文=Elise Cutts/訳=杉元拓斗(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2025年6月7日公開)

関連記事: