横浜で見えた新大会の収穫と次のチャレンジ 松山英樹もちょっと心配したこと
◇米国男子◇ベイカレントクラシック Presented by レクサス 最終日(12日)◇横浜CC(神奈川)◇7315yd(パー71)◇
2023年に「ZOZOチャンピオンシップ」を制したコリン・モリカワはことしの開幕前、新しい開催会場を歓迎していた。「横浜を散策してみようと思うんだ。東京に行くのにも少し近くなったしね」。千葉県印西市で行われた前身トーナメントと比べ、多くの来場が期待できる当地での開催はPGAツアーの悲願だったと言える。
ツアーは数年前から水面下でZOZOチャンピオンシップの開催地変更を模索していた。東京近郊で、より都会的なエリアで行うことで、ギャラリーの動員作戦はもとより、わざわざ来日する選手の興味を惹く狙いがあった。中国、韓国、マレーシアでも大会を行っていた時代と違い、今では唯一となったアジア開催ゲームは、タレントを呼ぶのが難しい。選手の家族ら関係者に「日本に行ってみたい」と思わせなければならない。
今回、舞台を移したことで大きな改善点となったのが、選手の会場までのアクセス面。昨年まで選手たちは千葉県成田市内の関係者用宿舎からアコーディア・ゴルフ習志野CCまで、片道1時間前後の自動車通勤を強いられていた。今回はベイエリアの高級ホテルから横浜CCまで15分程度。周辺での毎日の食事も充実していて、優勝したザンダー・シャウフェレは天ぷらに始まる日本食、抹茶アイスといった和スイーツも楽しんだ。
数ある大会から、出場試合を選ぶトップ選手間の“口コミ”は実は見逃せない。ツアーのアジア太平洋社長のクリス・リー氏は「彼らが米国に戻り、他選手に話してもらうことが非常に重要なのです」と話す。夏場にプレーオフシリーズが終了し、来季の出場権が安泰なビッグネームの招へいには、好意的な反応の積み重ねが欠かせない。「選手間のフィードバックはポジティブなものが多かった。移動やホテル、コースのセットアップ。東京にも近く、様々な体験ができる」と胸をなでおろした。
リー氏は大会に関わる大きなステークホルダーに選手とスポンサー、そしてファンを挙げた。では、来場者の反応はどうだったか。ひと言、心配の声をあげたのは松山英樹だった。「ギャラリーの方もたくさん来てくれましたし、雰囲気的にはすごく良かった。ケガをした人がいなければいいんですけど…」
古くは芝畑だったという横浜市内の丘陵コースは、起伏が大きく、来場者はいくつかのホールで山道を歩いた。3日目の雨で最終日も地盤は緩く、急傾斜での観戦は少々危険を伴った。背の高い草木に視界が遮られ、打球の軌道がなかなか見えない場所もあった。ファンを悶々とさせたのは、次のホールへと向かう人々の滞留エリア。とくに18番のグリーンサイドは観戦ゾーンが少なく、勝負が決したシーンを目に焼き付けられた人の数は限られた。
平日の観戦チケットは昨年よりも30%近く安く売りだしたものの、リー氏によれば来場者数(非公表)は「大きな目標にはまだ達していない」のが現状だという。「ファン・エクスペリエンスはツアーの重要なミッション」として改善に意欲を見せる。最終ホールの問題点については早くから認識しており、この秋には早くも来年度大会に向けた改修を開始する。グリーンをティイングエリア側に寄せ、ホスピタリティテントの設置場所や観戦可能エリアを広げる狙いだ。
そもそも日本の約2100のゴルフ場を含め、世界には観戦に特化したコースはほとんどない。一方、「ザ・プレーヤーズ選手権」が行われるフロリダ州のTPCソーグラスでは各ホールの両サイドの土地をせり上げ、ボールを追うギャラリーの視線を、自然に溶け込む形で確保するなど、米国のいくつかのトーナメントコースはファンに優しい。PGAツアーは長い歴史の中で、最高レベルの選手を集めること以外の手法で、多くの人にとって「プレーするスポーツ」であるゴルフの「観るスポーツ」としての魅力を引き出してきた。だからこそ、自己評価も厳しい。
開幕前、大会には来場者の足に関する懸念点があった。最寄りのJR東戸塚駅からの移動手段は徒歩で25分。予想された通り、タクシー待ちの列ができた。ただし、もう一つの近隣駅である相模鉄道二俣川駅からは当初、高齢者らを対象として運航していた優先シャトルバスを週末に急きょ一般ギャラリーにも開放。コース内ではドライビングレンジの観戦スペースを2日目に拡大するなど、柔軟な対応も見せた。
ゴルフトーナメントの開催には、選手はもとより大会、スポンサー、ゴルフ場、地域の結束が欠かせない。その熱量のベクトルがすべてファンに向いていることがプロスポーツの前提にある。「ベイカレントCレクサス」はPGAツアーが主催する年間8大会のうちのひとつとなり、かじ取り役としての責任はZOZOチャンピオンシップ時代よりも重い。
ツアーは3日目にベイカレント、横浜CCの幹部と話し合い、来年は開場を1日早めて月曜日から公開する可能性をさっそく話し合ったという。新機軸へのチャンレジは始まったばかりだ。(横浜市保土ヶ谷区/桂川洋一)
桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw