「新しいものは大変」マイナ保険証移行、高齢者や現場に不安なお…10割負担のトラブルも
いわゆる従来の「紙の保険証」が有効期限を迎え、2日以降、「マイナ保険証」を基本とする仕組みに移行する。患者からは、情報漏れへの懸念や慣れ親しんだ紙から離れる漠然とした不安が出ている。ただ投薬歴などの患者情報が正確に受診する医療機関に伝わるなどのメリットも多く、専門家からは制度の定着に向けた信頼性向上に期待がかかる。
申請まだ…資格確認書で受診
「新しいものを理解するのは大変」。こう訴えるのは埼玉県に住む女性(77)だ。医療機関では、すでにマイナ保険証への移行期で、専用の読み取り機が置かれているが、女性は、まだマイナ保険証を申請していないという。
政府は、こうした75歳以上の後期高齢者医療制度の利用者に「資格確認書」を無条件で交付し、マイナ保険証がなくても受診できるようにした。
女性は資格確認書を使って当面は医療機関を受診するという。「いつまで生きるか分からないが途中でマイナ保険証しか使えなくなったら困ってしまう」と話す。
実際の医療現場にも「不安」がにじむ。
東京都北区の「いとう王子神谷内科外科クリニック」では令和3年の春からマイナ保険証の使用を開始。当初は誤登録で紙の保険証の記載と照らし合わせる作業を強いられるなどトラブルが続発したという。
最近では、この種のトラブルはクリニックでは減ったが、全国保険医団体連合会が今年11月発表した調査結果では、8月以降「資格情報の無効」などで一時的に患者が医療費を10割全額支払った例が3403件あった。伊藤院長は「(マイナ保険証への完全移行で)今後、トラブルがまた増えるのではないか」と危惧する。
薬処方歴など共有できるメリット
マイナ保険証の導入では、過去の薬の処方歴や健診結果を受診した医師や薬剤師が共有できるほか、確定申告の際に医療費の控除も申請しやすくなる利用者のメリットがある。
こうした情報を知られることや情報漏れに不安を感じる患者に加え、多くは埼玉の女性らのように、漠然とした不安を抱える患者らも多いとみられている。伊藤院長は、当面は紙の保険証と併用も可能になることから悪用を懸念しつつも「うまく活用できれば、医療現場の負担が減り、患者情報へのアクセスも容易になる」と話した。(長谷川毬子、内田優作)
◇
87%が登録、利用は37%
「マイナ保険証」の登録者はマイナンバーカード保有者の9割近くに達しているが、病院やクリニックでの利用が十分に浸透しているとは言い難い。受診者の資格確認を巡るトラブルが医療機関の7割で報告されており、スムーズな切り替えが課題となりそうだ。
政府は令和4年、マイナンバーカードを普及させるため、取得者を対象にポイント付与事業を展開した。
その際、マイナ保険証の登録者にも7500円分のポイントを付与して切り替えを促した。
厚生労働省によると、10月末時点のマイナンバーカード保有率は全人口の79・9%にあたる9948万人。このうち、87・8%の8730万人がマイナ保険証の登録を済ませている。
課題は利用者の少なさだった。
昨年10月末時点の利用率は15・67%。厚労省などのPRの成果もあり、この1年間で約2・4倍に伸びたが、今年10月末時点の利用実績は37・14%にとどまっている。(玉崎栄次)
◇
健康情報の管理、効果まだ先
慶応大・印南一路名誉教授(医療政策)
国はマイナ保険証の導入によって個人が自分の健康情報を管理し、医療や病気の予防につなげることを目指している。一方で病歴やリアルタイムの薬剤の処方歴の完全な把握には実務上まだまだハードルは高い。本格的に情報管理の効果を発揮するのは先のことになるだろう。
国の狙いとして無視できないのは、なりすましによる悪用の防止ではないか。実態が把握しづらいが、マイナ保険証によって顔写真の確認も可能になり、確実に不正を防止できる。悪用は制度への信頼を揺るがす。マイナ保険証導入によって信頼性を高める意義は大きい。
急速なマイナ保険証への切り替えによって、現場に混乱が出たり、高齢者を中心に使用に戸惑う人も出ていたりするが、制度の移行にはコストも出る。慣れれば効果の方が大きいだろう。(聞き手 内田優作)