この国はどこへ 試練の年に 「平和憲法の力」を今こそ 元首相・福田康夫さん 89歳

特集ワイド

毎日新聞 2026/1/16 東京夕刊 有料記事 2831文字
インタビューに答える福田康夫元首相=東京都港区で2025年12月24日、宮本明登撮影

 氷雨そぼ降る午後だった。

 東京・赤坂の事務所に元首相の福田康夫さん(89)を訪ねたのは、東京が今冬一番の冷え込みを記録した日である。ぬれた路面が、鉛色の空を映していた。

 隣国・中国との間もまた、冬の時代を迎えている。50年近くもの間、中国の要人と交流してきた元首相は憂えていた。

 「高市早苗首相は果たして中国があそこまで厳しい反応をするとお考えになっていたのかどうか。私は、そこまで考えずにご発言なさったのではないか、と感じたのですが……」

 言うまでもなく、「台湾有事」をめぐる昨年11月の国会答弁のことだ。中国が台湾に武力を用いれば、日本は米国とともに中国と戦火を交えるかもしれない、との言明である。中国側の反応は読者もご存じの通りだ。

 「中国側もここまで事態が膠着(こうちゃく)するとは思っていなかったかもしれない。実に不幸な出来事です。でも……」

 対立の火種を作ったのはどちらでしょうか、と問うのだ。

 「高市さんの発言を『毅然(きぜん)とモノ申した』と評価する声もありますね。でも考えてみてほしい。政治家はよく『毅然』という物言いをしますが、本当に適切な言葉なのでしょうか」

 毅然とは「意志が強く、物事に動ぜずしっかりしているさま」(広辞苑)。勇ましいが、人の意見を無視する我の強さもにじむ。人と人とがこれから仲良くしよう、という時に、「毅然」という態度はそぐわない。

 「国と国との関係も同じです。相手の立場や思い、歴史をおもんぱかりつつ、相互の理解を深めていく。それが外交というものです」

 なのに、こと日中関係になると、その基本を踏み外すのみならず、中国への敵意を隠そうともしない与党議員やメディア、言論人は少なくない。それが国民の間に広がる。

 「そんな人たちも、まさか中国と戦争になると本気で考えている人はいないはずです。でも相手はどうか。ささいな衝突や対立がどんどん大きくなってそれが戦争になった過去を、私たちは経験しているのです」

 しかも……と福田さん、こんなことまでおっしゃるのだ。

 「日本にそのつもりはなくても、実は中国にとって最も戦争をしやすい国は、実は日本だと思うんです」

 戦争しやすい相手が日本? ぎょっとした。福田さんは核心に迫っていく。

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