読売京都総局に着信、ニセ警官登場→SNSのビデオ通話に誘導…翌日には警視庁名乗る電話も

 ある朝、読売新聞京都総局の固定電話に「+」から始まる国際電話番号から着信があった。「NTTカスタマーセンター」と称する自動音声が流れ、「お客さまの電話が利用停止になります」と告げている。オペレーターにつないでもらうと、最終的に登場したのは「ニセ警察官」だった――。(林興希)

警察手帳のようなものを示す「ニセの警察官」が映る画面のスクリーンショット。バックパネルの「山梨県警察」の文字は反転していた=画像を一部修整しています

 NTTが自動音声で利用停止を契約者に通知することはなく、すぐに典型的な詐欺の電話と気づいた。手口を探るため、あえてダイヤルボタンを押すと、「サハラ」と名乗るオペレーターとつながった。

 サハラは、山梨県内の販売店で契約された「お客様」名義の携帯電話から迷惑メールが発信され、契約時に緊急連絡先として記載された番号に連絡したと説明。「あなたが契約する通信回線は利用停止になる」と不安をあおってきた。

 さらに、広告リンクを通じて抜き取られた個人情報が不正契約に利用された可能性があるとし、管轄する山梨県警で「被害届受理証明書」の交付を受ける必要があると強調。記者が手続きを進めるよう依頼すると、電話が転送され、山梨県警捜査2課の「松永警部」を名乗る人物につながった。

 松永は、受理証明書を作るために調書を作成する必要があるとし、「本来であれば対面でやる話。2人しか話せない状況で調書を取ります」と言った後、SNSのビデオ通話に誘導。「警察署内は見せられない」と断った後、画面に警察手帳らしきものを見せる人物が映し出された。

 画面に人物が映ったのはこの時だけで、電話口の相手と同一なのかは不明だ。ただ、背後には記者会見などで用意されるバックパネルがあり、「山梨県警察」の文字も反転していた。明らかに不自然な画像だ。

 記者がここで「捜査2課ということは県警本部から電話しているのか。先ほど警察署内と言ったので」と疑問を呈すと、「本部イコール署内です」などと理解に苦しむ返答があった。

 さらに、「こういう詐欺があると聞いたことがある」と切り出すと、松永は「じゃあ、私が今、なにか金銭の要求してますか?」と反論。そのまま取り調べを進めるよう強く要求してきた。記者が「山梨県警に電話をかけ直したい」と告げると、「私が待っとかなきゃいけないってことですか」などと語気を強めてきた。

 記者はそこで通話を終えたが、翌日、「捜査協力の要請を受けた」と警視庁の警察官を名乗る人物からも電話があった。詐欺を疑う人にも引かない執念深さがうかがえた。

 山梨県警は取材に対し、「該当する警察官はいない」と回答。松永警部がニセ警察官であることが裏付けられた。

 彼と、彼を指示する人たちは、本当はどこにいる?

「相手せず切って」

 京都府警は「手口を知っていても、相手の話に乗せられてだまされてしまう可能性がある。不審な電話は相手をせず、電話を切ってほしい」と呼びかけている。

被害額は11億5515万円 7か月間で過去最悪の被害額更新

 京都府警によると、府内の今年7月末までの7か月間の特殊詐欺被害額は11億5515万円に上り、過去最悪だった2014年の被害総額(11億4850万円)を超えた。犯人側の名乗った主な職業の7割超が警察官だった。警察官をかたる特殊詐欺は、事件捜査に伴う資産調査などの名目で現金をだまし取る手口が典型で、ビデオ通話で警察手帳や逮捕状を示すなど、手口は巧妙化している。

 一方、近年は「身体検査」などと称し、ビデオ通話でわいせつな行為を要求する新たな手口も登場。裸になるよう要求されたり、トイレや入浴中の映像を送信するよう指示されたりする被害も起きている。

 府警特殊詐欺対策室によると、府内でも類似する被害の相談があるという。同室は被害者のプライバシーなどに配慮し、詳細は明らかにしていないが、「事件捜査は対面で行うのが原則。ビデオ通話で身体検査を行うことはもちろん、警察手帳や逮捕状を示すことは絶対にない」としている。

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