イオンモール熊本で救われた犬猫たち 「助かってよかった」で終わらせてはいけない理由【杉本彩のEva通信】

7月28日、熊本県で最大震度7を観測する大きな地震が発生した。震源は熊本地方、マグニチュード7.1。この一報を耳にした時、真っ先に10年前の熊本地震を思い出した。10年に渡る復旧・復興の歩みが続く中、なぜ、よりによって同じ熊本なのか。驚きとともに、再び大きな揺れに見舞われた熊本の方々を思うと、胸が苦しくなった。

各地でとらえた揺れの大きさを示す映像や津波注意報の発令からも、今回の地震の大きさが伝わってきた。

さらに、地震発生から約1時間20分後には、嘉島町のイオンモール熊本が突如爆発したという衝撃的な報道もあった。建物の骨組みがむき出しになり、2階側面が大きく崩落し、屋上部分にも穴が開くという甚大な被害。地震発生から少し時間が経った後、ここでいったいなにが起こったのか、買い物客や店員の方々は無事なのだろうかと、思いを巡らした。

改めまして、この地震により尊い命を失われた方々に、心より哀悼の意を表します。そして、大切な方を亡くされたご家族、ご遺族の皆さまに、謹んでお悔やみ申し上げます。また、被災されたすべての皆さまに心よりお見舞い申し上げるとともに、一日も早く穏やかな日常が戻ることを願っています。

■イオンモール内のペットショップは…

そして、甚大な被害を伝えるニュースを見ながら、私にはもう一つ、どうしても気になることがあった。

「イオンモール熊本にいた動物たちはどうなったのだろう…」  全国の大型商業施設には、犬や猫を販売するペットショップが必ず入っている。発災後、改めてイオンモール熊本のホームページを確認すると、施設内には仔犬や仔猫を販売するペットショップと、猫カフェがあることがわかった。

大きく損壊した建物の映像を見ながら、店内にいるであろう犬や猫を心配した人は、私だけでなく、SNSでは動物の安否を心配し救助を促すポストが多くみられた。

その後、ペットショップについては、スタッフの迅速な判断によって犬猫全頭が安全な場所へ避難していたことが報告された。

一方、猫カフェの猫たちは、地震発生後も店内に残されていた。しかし、消防、警察、イオンモール関係者らの協力のもと、運営会社のマネージャーが施設内に入り、翌日の29日に25頭すべて救出された。目立った外傷はなく、その後、広島県内の店舗へ移送されたことが報告されている。

あれだけ大きな被害が出た中で、すべての犬や猫の命が守られたことに、私は心から安堵した。と同時に、これは決して「助かってよかった」で終わらせてはいけない出来事だとも感じている。

なぜなら、今回無事だったことは、災害時に全国どこのペットショップや猫カフェでも同じように動物たちを避難させられることを意味しないからだ。

■少ない従業員の問題

2019年の動物愛護管理法改正を受け、犬猫を取り扱う事業者には、「飼養管理基準省令」といった数値規制が導入された。現在、従業員1人が飼養・保管できる上限は、販売犬等で20頭、販売猫等で30頭。繁殖に使う犬は15頭、猫は25頭とされている。

私たちEvaは、この基準が検討されていた当時から、1人で犬20頭、猫30頭は多すぎるため、販売業であれば1人10頭程度でなければ十分な管理は困難だと要望してきた。 ペットショップの仕事は、ごはんや水を与えたり、排泄物の片づけだけでなく一頭一頭の健康状態を確認し、ケージを清掃し、その動物の体長や体高に応じ分離型運動スペースに移動し運動もさせなければならない。しかも店員の仕事で、仔犬仔猫の世話と同じくらい重要なのは、接客と販売による売り上げだ。

以前、ペットショップに勤務した人から聞いた話しでは、店は常に少ない人数でシフトが組まれていたから、もし開店直後に店に客が来たら、接客にかかりっきりになり、ケージの清掃はおろか犬や猫に朝ご飯もあげられなかったそうだ。そもそも私たち消費者が店頭で目にする犬や猫だけが、その店舗にいるすべての動物とは限らない。バックヤードで管理されている動物も多数いるのだ。

平常時でさえ、一人の従業員が多くの命を抱えることには大きな負担がある。では、それが災害時だったらどうだろう。 自分自身も大きな揺れに耐え、収まった後には客を屋外へ避難誘導させなくてはならない。店内は、停電したり看板が落ちたり、商品が散乱したり、ケージが倒れたり扉の開閉さえも難しくなっただろう。

しかもそこには、地震と認識できない動物が多数いるのだ。突然の大きな揺れと音にパニックになり興奮状態になることは、火を見るより明らかだ。

一頭の犬や猫を連れて避難するだけでも、災害時にはさまざまな困難がある。それが10頭、20頭、30頭、あるいはそれ以上になった時、短時間で安全に避難させるには、平時から相当具体的な準備が必要だ。

■避難計画の必要性

環境省は、一般の飼い主に対して、「人とペットの災害対策ガイドライン」を示している。住まいの防災対策、ペットフードや水などの備蓄、同行避難、避難訓練、一時預け先の確保など、平常時から災害に備えることが求められている。

しかし、多数の動物を一か所で扱うペットショップや猫カフェなどに対し、「何頭を、誰が、どのように、どこへ避難させるのか」「建物に立ち入れなくなった場合はどうするのか」「搬送車両や一時避難先をどう確保するのか」といった具体的な避難計画や訓練まで体系的に示した仕組みはない。

■自力で逃げられない命

今回の出来事は、その必要性を改めて突きつけたのではないだろうか。 動物たちの無事が報告されたニュースには、「こんな大変な時にペットたちの命まで守ってくださりありがとうございます」「みんな無事で本当によかった」といった、安堵と感謝の声が寄せられた。

もちろん、危険な状況の中で救出にご尽力された方々には、私も心から感謝している。ただ、「動物の命まで守ってくださってありがとう」という言葉に、私は少し複雑な思いも抱く。もしそこにいたのが「商品」として扱われている動物ではなく、人間の子どもたちだったら、同じ言葉をかけるだろうか。

人間の管理下に置いた動物の命を守ることは、善意による特別な行為なのだろうか。まして、災害時にはスタッフ自身も被災者になり得る。個々のスタッフの頑張りや善意だけに頼るのではなく、事業者として、あらかじめ動物と従業員の安全を確保するための備えを整えておくことが必要ではないだろうか。

ペットショップも猫カフェも、人間が自らの意思で一つの場所に動物を集め、管理し、それによって事業を営んでいる。だからこそ、そこで預かり、管理している命に対する責任は、平常時だけに限られるものではない。災害などの非常時においても、その責任は当然続くはずだ。

動物は自分で非常口を探すことはできない。ケージの鍵を開けることもできない。避難先を選ぶこともできない。

人間が閉じ込めた場所から、自力で逃げることができないのだ。だからこそ、多くの動物を一か所に集めて展示・販売するという事業形態には、それに見合った重い責任が伴う。

今回、動物たちが無事だったことを喜ぶ一方で、私たちは「誰かが頑張って助けてくれた」という出来事だけで終わらせてはいけないのではないか。動物の命を守ることを、個人の善意や献身に委ねるのではなく、事業者の責任としてどう備えるのか。今回の出来事は、そのことを改めて考える機会になったのだと思う。

これまでペット業界では、不適切な飼養管理によるネグレクトや、多数の犬猫を衰弱、死亡させる事件が繰り返されてきた。繁殖から流通、販売に至る過程で生じる犠牲についても、少しずつ社会に知られるようになってきた。

そして今回の熊本地震は、そこにもう一つ、「災害救助」という視点を加えた。日常的に多数の動物を一か所に集めるということは、災害時には多数の「自力で避難できない命」が一か所に存在するということでもある。

■消費者にも考えてほしいこと

これまで動物愛護管理法改正の議論では、劣悪な繁殖環境、過剰繁殖、飼養スペース、従業員数、虐待、遺棄など、平常時の動物福祉をめぐる課題があまりにも山積していた。そのため、災害時の避難体制について十分な議論を重ねるところまで至っていない。

しかし、日本は地震、豪雨、台風などの自然災害が多い国だ。であるならば、「災害が起きた時、この動物たちをどう避難させるのか」は、動物を扱う事業を認めるうえで、本来、欠かすことのできない視点ではないだろうか。

今回のイオンモール熊本では、結果として動物たちの命が守られた。しかし、次に別の場所で、別の災害が起きたときにも、今回と同じように命を守れるとは限らない。事業者のその場の判断や努力だけに委ねるのでは、十分とはいえない。

必要なのは、平時からの具体的な備えだ。飼養頭数に応じた避難計画、定期的な避難訓練、搬送手段や避難先の確保、停電や断水への備え、営業時間外に発災した場合の対応、施設への立ち入りが禁止された場合の対応など、さまざまな事態を想定し、防災計画を立てる。実際に訓練を行い、課題があれば計画を見直し、備えを更新していく。

多数の動物の命を一カ所で管理し、それを事業としている以上、災害時の安全確保も事業者が果たすべき責任の一つではないだろうか。そして、こうした備えを整えることは、動物だけでなく、そこで働く人の命を守ることにもつながる。

そして、私たち消費者も考えなければならない。ショッピングモールの明るい店内で、ガラス越しにかわいい犬や猫を見る。その日常の光景の向こう側に、災害が起きれば自力では逃げることのできない命がいるということを。

今回救われた命をきっかけに、多くの動物を商業施設に集め、展示し、販売することが抱えるリスクについても、社会全体で考える必要がある。人間の都合で管理下に置いた命は、平常時だけ守ればいいものではない。

災害が起きた、その瞬間にも。 その命を守る責任は、なくならないのだ。

(Eva代表理事 杉本彩)

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。


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