「食料品消費税ゼロ」で先手を打たれた高市政権 同日リークが物語る焦りと、埋没する第三極
1月16日、立憲民主党と公明党による新党「中道改革連合」が正式に発足し、目玉公約として「食料品の消費税率ゼロ」を掲げました。
注目すべきは、その同じ日、高市早苗首相が衆院選公約として「時限的な食料品消費税率ゼロ」を検討しているという報道が流れたことです。政府関係者が16日に明らかにしたと、毎日新聞が報じています。
中道改革連合が公約を発表した当日の深夜に、政権側から対抗策の情報が、高市政権の解散報道を即後追いした毎日新聞を通してリークで出てくる。この事実が何を意味するか。野党新党の動きを見て、慌てて対抗策を打ち出したことの証左とも思えます。
高市首相はかつて消費税減税を主張していたこともありましたが、首相就任後は「即効性がないと考えた」として否定的な見解を示していました。ここにきて再び消費減税を掲げるのは、明らかに野党新党への対抗です。
しかも「時限的に」という条件付き。食料品の消費税率をゼロにすれば年間5兆円規模の税収減となり、円安と長期金利上昇が続く中で財政への影響を懸念する声が政府内にあるためです。恒久措置とは言い切れない苦しさが、この言葉に表れています。
「後追い」の構造的な弱さ
高市政権の対応には、構造的な弱点があります。
「なぜ今まで実現しなかったのか」という疑問に答えられないのです。昨年10月まで自民党と公明党は連立政権を組んでいました。公明党が連立を離脱した途端に同じ政策を言い出すのは、有権者から見れば公約実現力の説得性に欠けます。
一方、中道改革連合には「先に旗を立てた側」の優位性があります。公明党は2019年の消費税率引き上げ時に軽減税率導入を主導した実績があり、消費税議論で一定の説得力を持っています。野田佳彦代表も財務大臣・首相経験者として、財政議論の重みがあります。
政権与党がいくら同じ政策を掲げても、「私たちが先に言っていた」と主張できる野党側の優位は動きません。
本当の争点は「公明票の行方」
とはいえ、選挙戦略の観点から見れば、消費税議論は実は本質的な争点ではありません。
今回の衆院選で最大のインパクトを持つのは、公明党の支持母体である創価学会の組織票の行方です。これまで小選挙区で自民党候補を支えてきた公明票が、中道改革連合の候補に流れる可能性があるのです。
時事通信の試算では、選挙協力が奏功すれば35選挙区で勝敗が逆転し、中道改革連合が衆院第1党になる可能性もあるとされています。高市政権がいくら消費税政策で追随しても、この「票の流れ」を止めることは困難です。政策論で差を縮めても、選挙区ごとの組織戦で公明票を取り戻すことはできないのです。
「右」対「中道」で埋没する第三極
今回の衆院選は、このわずか数日で、「保守色の強い高市政権」対「中道を掲げる野党新党」という対決構図が鮮明になってきました。
公明党の斉藤鉄夫代表は「日本でも政治の右傾化が見られる中で中道改革勢力を結集することが重要だ」と述べ、野田代表も「自民党の右傾化を食い止めるため、中道を分厚くする。政権交代に向けた現実的な選択肢を示す」と決意を表明しました。
この「右」対「中道」という二項対立の構図が固まった場合、割を食うのは第三極です。
日本維新の会は自民党と連立を組んでいますが、もともと「改革保守」を掲げ、自民でも立憲でもない独自路線で支持を伸ばしてきました。しかし、選挙戦が「高市保守」対「中道改革連合」の対決に収斂していけば、維新の存在感は薄れざるを得ません。連立与党の一角として自民と一蓮托生で戦うのか、独自色を出すのか、難しい立ち位置に追い込まれています。大阪では吉村洋文知事と横山英幸市長が都構想実現を掲げて出直し選挙を表明しましたが、有力な対抗馬が出る見込みもなく、盛り上がりに欠けるのは避けられない情勢で、国政での維新の埋没感を払拭できるかは未知数です。
国民民主党も厳しい状況です。玉木雄一郎代表は中道改革連合への参加を否定しましたが、「中道」を標榜してきた同党が、より大きな「中道」の塊から距離を置くことで、かえって埋没するリスクがあります。「手取りを増やす」「年収の壁を引き上げる」という独自政策で存在感を示そうとしていますが、選挙戦が二大勢力の対決として報道されるほど、その訴求力は弱まります。無党派層が「勝ち馬」を意識して投票先を決める傾向がある中、第三極に票を投じるインセンティブは低下しがちです。
参政党も同様の構図に直面しています。保守層の受け皿として一定の支持を得てきましたが、「本家保守」を掲げる高市政権が存在する以上、保守票はそちらに流れやすい。草の根の支持者を固めることはできて各比例ブロックで1議席を獲得するぐらいの勢いはあっても、さらに大きく議席を伸ばす展開は想定しにくい状況です。
結局、選挙戦が二大勢力の対決として描かれるほど、第三極は「どちらでもない」という曖昧なポジションに追いやられます。メディアの報道も自然と二大勢力に集中し、露出の面でも不利になります。参院選後、二大政党制が終わりを迎えたとされる日本政治は、立憲と公明の合流で、今度は一気に保守対中道の二大政党制という構図になる可能性も秘めています。
高市政権の誤算と選挙後に待つ政界再編
高市首相が選んだ「通常国会冒頭での解散」は、本来は野党の準備が整わないうちに選挙に持ち込む「抜き打ち」効果を狙ったものと考えられます。
しかし、立憲民主党と公明党の電撃的な新党結成で計算は狂いました。野党側はむしろ短期間で「中道勢力の結集」という分かりやすい対立軸を作り上げ、争点設定でも先手を取っています。
消費税政策を官邸が追随し、同日中にリークするという対応は、その焦りの表れと言えるでしょう。自民党にとって、公明票という援軍を失った状態での戦いは、想定以上に厳しいものになりそうです。衆院選の結果次第では、政界再編がさらに加速する可能性もあります。
野田代表は「勝負どころで、その暁にはもっと幅広く声掛けする。政界再編の一歩を踏み出す戦いになる」と述べています。中道改革連合が躍進すれば、国民民主党や自民党内の穏健派にも合流を呼びかける展開がありえます。
逆に、自民党が単独過半数を割り込めば、かなり強行的な解散総選挙に踏み切った高市首相の求心力は低下し、党内の路線対立が表面化する可能性もあります。「右」に振り切った路線への反発が噴出すれば、離党者や高市下ろしにつながることも考えられます。
いずれにせよ、今回の衆院選は単なる議席争いにとどまらず、日本政治の構造そのものを変える可能性を秘めています。「食料品消費税ゼロ」という個別政策の是非だけでなく、どのような政治の枠組みを望むのかが問われる選挙になりそうです。