トランプ氏勝利に熱狂した市場、今から真価問われる-株は既に反転
昨年11月の米大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利したことにより、市場は即座に活気づき、株価は上昇、ドルは高くなり、ビットコインは急騰した。しかし、それからわずか2カ月後、持ちこたえている取引はその一部だ。
反転はまず株式市場で起こり、S&P500種株価指数はトランプ氏への期待を背景にした上昇の大部分を失った。予想されていた利下げに疑問が持たれ始め、新政権の政策が株価にどのような影響を与えるかについても疑念が出てきたためだ。当初はフラット化していた米国債利回り曲線は、11月下旬以降は急速にスティープ化している。 一方、ビットコインとドルは上昇を維持している。
しかし、これらの取引の真価が問われるのは、トランプ氏が大統領に就任する今からだ。関税は最大のリスクであり、政権の計画で貿易戦争がトランプ政権1期目よりも長期化し、予測不能になるのではないかとの懸念を招いている。ウォール街の専門家は、移民政策が米経済にどのような影響を与えるかについても懸念している。トランプ氏はすでにカナダやメキシコ、欧州など、米国の伝統的な同盟国を標的にしているため、地政学的な緊張が高まることも憂慮している。
株式
トランプ氏への熱狂的な期待感は、小型株など低迷していた銘柄にまで急速に広がった。ラッセル2000指数は投票日の翌日に5.8%上昇し、2年ぶりの大幅高を記録した。その理由は単純だ。次期政権の保護主義的な貿易政策は、収益の大半を国内で上げている企業に最も恩恵をもたらすというものだ。
しかし、その熱狂はすぐに冷めた。同株価指数は11月5日から25日にかけて8%上昇したが、その後数週間のうちにその大半を失った。
インタラクティブ・ブローカーズのスティーブ・ソスニック氏は「これらの企業の多くは、利益がわずか、あるいはまったく利益が出ていないため、資金調達に依存しなければ生き残れない。金利上昇は状況をさらに悪化させる」と指摘した。
銀行株も選挙後に熱狂を経験した。トランプ氏が金融機関に対する規制緩和を表明したためだ。KBW銀行株指数は11月5日から25日にかけて14%近く上昇し、52週高値を記録した。しかしその後は勢いを失い、今月17日までに1.8%下落した。
エネルギー株も選挙後に買われた。石油・ガス生産を促すトランプ氏の姿勢が背景にある。S&P500種エネルギー株指数は11月6日に3.5%上昇し、1年ぶりの大幅高を記録し、投票日から11月22日までの間には6.5%上昇した。しかしその後の値動きは荒く、供給過剰や関税、経済成長への懸念から3.2%下落している。
見通しが比較的明瞭な分野の株式は堅調に推移している。暗号資産(仮想通貨)関連の銘柄はおおむね上昇を維持している。そして、テスラだ。トランプ氏が電気自動車(EV)の懐疑論者として有名な人物であるにもかかわらず、テスラ株は同氏の勝利以来70%上昇している。その理由は、最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスク氏の政権への近さが、完全自動運転車の開発を目指す同社にとって有利に働くという見方があるためだ。
インタラクティブのソスニック氏は「選挙後の株式取引で、暗号資産とテスラほどうまくいった銘柄はない」と述べた。
為替
選挙前のトランプ・トレードの最も純粋な形はドル・ロングだったかもしれない。急激な関税引き上げに加え、トランプ政権の予想される財政出動拡大によるインフレの可能性があったためだ。
ブルームバーグのドル指数は、投票日からの10週間で5%上昇しており、これは2016年のトランプ氏勝利後に記録した上昇率とほぼ同じだ。この動きの背景には、トランプ氏の経済政策によりリスクにさらされると見なされたユーロやカナダ・ドルなどの相対的な弱さがある。
Change in Bloomberg Dollar Spot Index days after election
Source: Bloomberg
ウォール街はこの事態をほぼ予測していた。ミーラ・チャンダン氏率いるJPモルガン・チェースのアナリストは、トランプ氏が勝利した場合、ユーロは対ドルでパリティ(等価)まで弱含む可能性があると予測していた。バークレイズ・キャピタルの通貨ストラテジスト、スカイラー・モンゴメリー・コーニング氏は、カナダ・ドルがコロナ禍の最安値まで下落する可能性があると述べていた。両行ともユーロが対ドルで1-3月(第1四半期)に1ユーロ=1ドルを下回る水準で取引されると予想している。
チャンダン氏はさらに「関税はまだ完全に織り込まれていないと思う」と、最近のポッドキャストで指摘した。
金利
トランプ氏の勝利と共和党の議会選圧勝は、イールドカーブのスティープ化につながると予想されていた。政策がインフレをあおり、米長期債を圧迫するとみられていたためだ。そして、まさにその通りのことが起こっている。2年債と10年債の利回り差は約34ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)拡大し、2022年初頭以来の大幅なスティープ化に近づいている。一方、長期債はトランプ氏の大統領就任を前にして下落している。
シュローダー・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ニール・サザーランド氏は「利回り曲線がスティープ化し始めている」と指摘。「100bpの利下げが実施されたのに、長期金利が上昇しているのは、市場ではすでに多くが起こっていることを物語っている」と話した。
底堅い米経済指標やトランプ氏の政策に対する不透明感により、短期金利も圧迫されている。金利スワップ市場は現在、年内の追加利下げを0.25ポイント幅で2回未満と見込んでいる。選挙前には、約6回の利下げが予想されていた。
それでも、市場で確かなものは不確実性だけだ。先週、予想を下回るコアインフレ率の発表を受けて、米国債利回りが全ての年限で急低下した。
シュローダーのサザーランド氏は「現時点では、センチメントは非常にネガティブで、利回りはさらに低下するリスクがある」と述べた。
暗号資産
トランプ氏はかつてビットコインを「詐欺のようだ」と批判していた懐疑論者だったが、今では完全に考えを変え、暗号資産関連企業から強い支持を得ている。ブルームバーグが計画に詳しい関係者の話として報じたところによると、トランプ氏は暗号資産を政策の優先事項とする大統領令を発布する予定で、政権内で業界関係者に発言権を与えるつもりだ。規制を緩和し、ビットコインの戦略備蓄を創設するともみられている。
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当然ながら、選挙以来、暗号資産は急騰しており、ビットコインは12月中旬に過去最高値を更新し、11月5日から約50%上昇した。
But now trades shy of all-time highs reached in December
Source: Bloomberg
原題:Trump’s Win Sparked Euphoria in Markets, Now Comes the Real Test(抜粋)