認知症の22~44%は高血圧、糖尿病、喫煙が原因

 米・Johns Hopkins Bloomberg School of Public HealthのJason R. Smith氏らは、前向きコホート研究Atherosclerosis Risk in Communities (ARIC)の参加者を対象に、45~74歳時におけるさまざまな測定データを前向きに解析。修正可能な血管危険因子としての高血圧糖尿病、喫煙の3因子に注目した結果、これらのうち1つ以上を有する場合の認知症発症への人口寄与割合(PAF)は22~44%だったJAMA Neurol2025年6月2日オンライン版)に報告した(関連記事「科学的根拠に基づくがん予防・検診を解説」「口の健康悪化が早期介護認定と死亡に関連」)。

血管危険因子としての高血圧糖尿病、喫煙

 血管危険因子は成人に広く蔓延しており、中でも中年期の高血圧糖尿病、喫煙は米国および世界的にも認知症の修正可能な危険因子と認識されている。これら3つは動脈硬化性の脳小血管病を引き起こすと考えられているが、認知症に対する血管危険因子の寄与度に関するコンセンサスはなく、認知症のうちどの程度が血管性の原因によるものかは不明だ。

 ARICは1987~89年に米国の4つの地域で45~64歳の参加者を登録した前向きコホート研究である。今回、Smith氏らはvisit 1(1987~89年)、visit 4(1996~98年)、visit 5(2011~13年)の3回の対面診察時に得たデータを用いて、中年期および晩年期の高血圧糖尿病、喫煙と認知症発症との関連を検討した。

55歳以上ではApoE変異よりも3因子の寄与度が高い

 対象は45~54歳時の測定データがある7,731例〔女性4,494例(58%)、黒人2,207例(29%)、白人5,524例(71%)、以下、45~54歳群〕、55~64歳時の測定データがある1万2,274例〔同6,698例(55%)、2,886例(24%)、9,388例(76%)、55~64歳群〕、65~74歳時の測定データがある6,787例(同3,764例(56%)、1,375例(20%)、5,412例(80%)、65~74歳群)。

 45~54歳群のうち801例(10.4%)、55~64歳群の995例(8.1%)、65~74歳群の422例(6.2%)が80歳までに認知症を発症した。高血圧糖尿病、喫煙のうちどれか1つ以上による認知症PAFは45~54歳群が21.8%(95%CI 14.3~29.3%)、55~64歳群が26.4%(同19.1~33.6%)、65~74歳群が44.0%(同30.9~57.2%)だった。

 ApoE遺伝子変異の有無、人種、性別で解析したところ、55歳以上のApoE遺伝子変異なし(PAF 33.3~61.4%)、45歳以上の黒人(同25.5~52.9%)、55歳以上の女性(同29.2~51.3%)では、3因子のPAFがより高かった。

Vascular healthの維持が認知症予防になる

 以上の結果を踏まえ、Smith氏らは「ARIC研究参加者において80歳までに発症した認知症の22~44%に、中年期~晩年期(45~74歳)に同定された血管危険因子(高血圧糖尿病、喫煙)が寄与している可能性が示唆された」と結論。「これを因果関係と考えるならば、血管の健康(vascular health)を最適に維持することで、80歳までの認知症リスクがかなり軽減される可能性がある」と付言している。

(医学ライター・木本 治)

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