入院のケースも…「へんとう炎」を軽く見てはいけない“理由”とは?【耳鼻科医が解説】

ネット上では「へんとう炎が悪化して入院した」という内容の情報がありますが、喉を痛めたときはどのような点に注意する必要があるのでしょうか。耳鼻科医に聞きました。

へんとう炎が原因で入院するケースも

 風邪をひいたときに喉の奥が痛くなることがありますが、こうした症状は「へんとう炎」と呼ばれています。ネット上では「へんとう炎が悪化して入院した」という内容の情報がありますが、喉を痛めたときはどのような点に注意する必要があるのでしょうか。わしお耳鼻咽喉科(兵庫県西宮市)の鷲尾有司(わしお・ゆうし)院長に聞きました。

Q.そもそも、へんとう炎とはどのような症状なのでしょうか。

鷲尾さん「へんとう炎とは、主に『口蓋(こうがい)へんとう』(俗称はへんとう腺)という、喉の奥の左右の部位に炎症が生じていることを指します。へんとう炎の多くはウイルスや細菌に感染することによって起こります。よくある症状は咽頭痛と発熱です。鼻水やせきなどを伴うこともありますが、その場合、多くはウイルス性へんとう炎です。細菌性へんとう炎の場合は、発熱や咽頭痛以外の症状があまり出ないのが一般的です」

Q.へんとう炎は自然に治るものなのでしょうか。それとも、薬を飲まないと治らないのでしょうか。受診の目安も含めて、教えてください。

鷲尾さん「まずは、ウイルス性へんとう炎と細菌性へんとう炎のうち、どちらの可能性が高いのかを把握することが重要になります。多くはウイルス感染の後に細菌感染が生じます。発症してから間もない場合はウイルス性へんとう炎、発症してから5~7日経過している場合は細菌性へんとう炎の可能性が高くなります。

ウイルス性へんとう炎の場合、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス、ヘルペスウイルスによるへんとう炎を除き、基本的に治療薬がありません。自己免疫による自然治癒が基本となります。

一方、細菌性へんとう炎の場合は抗生剤の投与が効果的です。ウイルス性へんとう炎に抗生剤を使用しても、残念ながら効果はありません。また、軽度であれば、細菌性へんとう炎でも自己免疫で治癒するため、必ず抗生剤が必要であるというわけではありません。へんとう炎の注意点は『重症度』『感染性』『へんとう以外への影響』の3つです。順番に解説します」

(1)重症度 日常生活に支障が出る場合、特に食事や呼吸に影響が出ているときは受診が必要です。そこまでではなくても、発熱や咽頭痛が続く場合、へんとう炎であるかどうかも含めて、できれば耳鼻咽喉科を受診するのがお勧めです。

(2)感染性 幼稚園や保育園、学校など未就学児や子どもが集団生活をしている場合、アデノウイルス性へんとう炎や溶連菌性へんとう炎を発症していると登園、登校が制限されることがあります。もちろんインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスによるへんとう炎の場合も同様です。

加えて、主に子どもや若い人はエプスタイン・バーウイルスによって引き起こされる伝染性単核球症にかかりやすいので注意が必要です。また、性感染症でも起こるへんとう炎があるため注意しましょう。

(3)へんとう以外への影響 溶血性連鎖球菌(溶連菌)によって引き起こされる溶連菌性へんとう炎の場合、特に幼児はリウマチ熱、糸球体腎炎などの合併に注意が必要です。また、伝染性単核球症では多くの場合、肝機能障害などを合併します。

Q.へんとう炎が重症化すると入院が必要だと聞きますが、本当なのでしょうか。入院の目安も含めて、教えてください。

鷲尾さん「喉は食べ物が通る道であり、息をする道でもあります。喉を専門としている耳鼻咽喉科では喉を診察する場合、食事と呼吸への影響をまず考えます。へんとう炎のせいで食事ができず、日常生活に強く影響が出る場合や、口が開きにくくなったり、呼吸状態が悪くなったり、さらに悪化すると生命に危険を及ぼす可能性がある場合などは入院による加療が必要になります。

また、重症化すると、へんとう炎の炎症が周囲に波及するへんとう周囲炎、へんとう周囲膿瘍と呼ばれる状態になります。そうなると外科的な処置が必要になってくる場合があり、入院加療の必要性が高くなります。

特に乳幼児などが、アデノウイルスによって引き起こされる『咽頭結膜熱』(プール熱)にかかった場合、へんとう炎だけでなく脱水などの全身状態の悪化に注意が必要です。その場合は感染対策も含めて入院による加療を考慮します。

伝染性単核球症ではへんとう炎だけでなく、肝機能障害、膵臓(すいぞう)が腫れる『脾腫(ひしゅ)』などが生じ、全身に影響するケースが想定されるため、程度によっては入院加療が必要になります」

Q.へんとう炎が重症化する原因について、教えてください。

鷲尾さん「へんとう炎については、ウイルス性へんとう炎から細菌性へんとう炎になり、その後、へんとう周囲炎、へんとう周囲膿瘍の順に重症化します。最初のウイルス性へんとう炎は風邪と言い換えることができます。そういった意味で、ウイルス性へんとう炎は抵抗力(免疫力)の低下がきっかけといってよいでしょう。まずは風邪の予防がスタートになります。

細菌性へんとう炎の場合、抗生剤を使うと効果が期待できます。咽頭痛が強い場合や、へんとう炎が長引く(1週間程度を目安)ような場合は、耳鼻咽喉科で診断、治療してもらうことが重症化の予防となります」

Q.へんとう炎を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。日頃からできる対策について、教えてください。

鷲尾さん「先ほどの話と重なりますが、風邪予防の取り組みがへんとう炎の予防にもつながります。自分の免疫機能が十分に発揮されるように、日頃から栄養や睡眠をしっかり取りましょう。また、うがいや手洗いもお勧めです。

年に4~5回以上へんとう炎になる場合やすでにへんとう周囲膿瘍を経験している場合は、口蓋へんとうを取り除く手術であるへんとう摘出術も予防策となるため、気になる場合は耳鼻咽喉科を受診し、医師に相談してください」

(オトナンサー編集部)

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