海底炭鉱から83年前の遺骨発見 日本と朝鮮の「未来」へ政府が動け
「人骨に間違いない。上腕骨と大腿骨(だいたいこつ)だろう」
現場から送られてきた写真を見て、そう確信した。8月25日。海底に延びる長生炭鉱(山口県宇部市)で行われた、6回目の潜水調査で収容されたものだ。
太平洋戦争の激戦地、硫黄島(東京都小笠原村)や沖縄で見た遺骨とそっくりだった。翌日には頭蓋骨(ずがいこつ)も見つかった。
私は6月に配信した記事で「(炭鉱内の)遺骨が全て流失する環境とは考えにくく、いずれ見つかる可能性は高い」と書いており、予想通りになった。
遺族の強い気持ちと、それに応えた地元の市民団体の熱意による大きな成果だ。しかし、ゴールは先にある。
戦時下183人が事故死 市民が調査
太平洋戦争下の1942年2月3日、長生炭鉱で落盤事故が起き、朝鮮半島出身の労働者136人と日本人47人の計183人が亡くなった。
91年に地元有志が「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」を結成し、事故の実態調査や、朝鮮の犠牲者の遺族を招いての追悼式などを続けてきた。
刻む会は遺骨収容も目指して政府に働きかけたが、らちが明かなかった。2023年、自分たちで調査することを決め、翌年には雑木林の地下4メートルに埋まっていた坑道の入り口を探し当てて掘り出した。
潜水調査では水中探検家、伊左治佳孝さん(37)が協力を申し出た。閉鎖環境でも活動できる高度な技術を持つダイバーだ。「何がリスクかすら分からない」という状態から伊左治さんは調査を開始。坑道の現状を明らかにし、一つ一つ課題を解決していった。
今年4月からは友人の韓国人ダイバー、金京洙(キムキョンス)さん(43)と金秀恩(キムスウン)さん(41)も加わり、今回はこの2人が遺骨を発見した。これまでにかかった多額の資金は、刻む会がクラウドファンディングで集めた。
課題はDNA鑑定での身元特定
05年の日韓協議で、日本の植民地だった朝鮮半島出身の民間徴用者の遺骨を日本が返還することで合意した。
ただ、返還は朝鮮出身者の遺骨と分かっていることが前提となる。長生炭鉱から見つかった…