【コラム】トランプ岩盤支持層に亀裂、揺らぐ忠誠心-ヘンダーソン
ドナルド・トランプ氏がホワイトハウスに返り咲く際、大きな後押しとなったのが有力ポッドキャスターやインフルエンサーの存在だった。一部は就任式にも姿を見せ、政権中枢への特別なアクセスを得てきた。しかし、こうした熱狂的なトランプ支持層の一部は今、政権運営への不満をにじませ始めている。混乱や方針転換、公約の不履行が続いているからだ。忠誠心の高い支持基盤に走る小さな亀裂は注目に値する。
トランプ氏は、保守系メディア空間で影響力を持つジョー・ローガン氏を含む著名インフルエンサーの期待を複数の政策分野で裏切った。
登録者257万人を抱える「PBDポッドキャスト」では、MAGAブラザーズと称されるグループが、トランプ政権の実績不足を厳しく批判。経済運営や外交、汚職撲滅といった分野で成果が乏しいとして、政策遂行力に疑問を呈した。
「解放の日(関税措置発表の日)で5兆ドル(約725兆円)の国富が消し飛んだ。誰も予期していなかった」と語るのは、同ポッドキャストの共同ホスト、アダム・ソスニック氏だ。同氏はトランプ氏の評価をCプラスとし、「解放の日で何をしようとしたのか意図が理解できない」と疑問を呈した。
ポッドキャスト名の由来でもあるパトリック・ベット・デイビッド氏は「現時点での評価はCマイナスだ」とさらに厳しい。「初日にはロシアとウクライナの和平が実現すると聞かされていたが、100日経っても成果は見られない。何らかの合意があると思っていた」と語った。
過去3回の選挙でいずれもトランプ氏に投票してきた同氏は、イランに対する強硬姿勢が成果に結びついていない点や、通商合意の不在についても批判を強めた。
スポーツ系メディア「バーストゥール・スポーツ」創業者のデイブ・ポートノイ氏も、関税政策で多額の損失を被ったとしてトランプ氏に怒りをぶつけている。 「株式市場はトランプ氏の就任後100日間をそのまま映し出している」と、ポートノイ氏はソーシャルメディアに投稿。トランプ氏は、株価を下落させた弱い経済データの責任をバイデン前大統領になすり付けていた。
登録者422万人を誇るトランプ支持派のインフルエンサー、キャンディス・オーウェンズ氏も、ハーバード大学との対立を「言論の自由への攻撃」と見なし、トランプ氏を強く批判している。「今の政権にはもはや共感できず、何が起きているのか理解できない」とまで言い切る。
トランプ氏の政策運営に疑問を呈しているのは、右派系のポッドキャスターやインフルエンサーだけではない。保守系主流メディアからも批判の声は出ている。それには、通常は共和党寄りの論調で知られるウォール・ストリート・ジャーナル紙の論説も含まれる。同紙の社説では、「史上最も愚かな貿易戦争」など辛辣な見出しが並ぶ。
ウォール・ストリート・ジャーナルと同じくルパート・マードック氏の傘下にあるFOXニュースは、トランプ政権に好意的な報道姿勢を維持している。しかし一方で、支持率の低下を示す世論調査も実施しており、番組内では一部キャスターやゲストがトランプ氏の政策に批判的な意見を示す場面も見られる。
MAGA支持層での懐疑的な見方は世論調査の結果とも一致している。トランプ氏は共和党支持層の間では依然として高い人気を誇るものの、かつての圧倒的な支持には陰りが見え始めている。3月のCNNの調査では共和党支持者の92%がトランプ氏を支持していたが、直近では86%と6ポイント下がった。
もう一つ注目すべきデータがある。2月時点では、共和党支持層の44%がトランプ氏の今後の任期に「期待している」と回答していたが、現在ではその割合が33%に低下している。2期目のトランプ政権は、熱心な支持者が抱く1期目への郷愁には応えられていない。特に経済分野では、掲げた公約が果たされていないとの不満が根強い。
トランプ氏のコア支持層や彼らの意見を形成し拡大するインフルエンサーは、トランプ氏の態度やリベラル派への攻撃的な言動を好意的に受け止めている。しかし、トランプ氏はそれ以上の成果を約束してきた。
インフルエンサー層がトランプ氏を完全に見放す可能性は低いものの、その熱気には陰りが見え始めている。かつては揺るぎない応援団だった支持層にも、今や少なからぬ疑念が生まれている。その疑念が、今後1000日にわたる政権運営に影を落とす可能性がある。とりわけ、大言壮語が繰り返され、実行が伴わない状況が続くようであればなおさらだ。
(ニア・マリカ・ヘンダーソン氏はブルームバーグ・オピニオンの政治コラムニスト。以前はCNNとワシントン・ポストのシニア政治記者で、約20年にわたって政治や選挙を取材してきました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:The MAGA Cheering Squad Is Losing Faith: Nia-Malika Henderson(抜粋)