ミャンマーでロマンス詐欺、求人に応募すると拠点へ連行…「NY出身モデル」装った女性が証言
【バンコク=佐藤友紀】日本人の高校生がだまされて渡航したことが判明したミャンマー東部の犯罪拠点で、特殊詐欺のほか、世界各地に向けて「国際ロマンス詐欺」が行われていた疑いが浮上した。本紙の取材に、加担させられた複数の外国人が証言した。中国系の犯罪組織が主導しているとみられ、AI(人工知能)や音声モデルの利用など、その手口は巧妙だ。
「パリにショッピングモールを持つ裕福なニューヨーク出身のモデルを装い、出会い系サイトで男性に接触していた」。ミャンマーの犯罪拠点から戻ったフィリピン人女性(40)は、マニラ市内でそう語り始めた。
2022年の夏。親族の紹介で中国人男性とオンラインで面接し、「セールスマーケティングの仕事」と聞いてタイに行った。だが、迎えの車はミャンマーとの国境に向かい、女性は銃を持った男の指示で川を渡らされた。
ミャンマー東部ミャワディは、中国の犯罪組織がここ数年、現地の武装勢力に収益の一部を渡して拠点にしてきた場所だ。女性はその一角の建物の作業場に案内された。何列も並ぶ机の上にはパソコンが置かれていた。
フィリピン人女性が滞在した詐欺拠点の作業場の様子。指示役の部屋や会議室もあった(2月、マニラ市内で)自分以外にも中国、ミャンマー、フィリピン出身の計9人の「同僚」がいた。リーダーは中国人の男で、3種類の台本を渡された。医者や弁護士、退役将校に出会い系サイトで接近し、好意を抱かせる筋書きだ。
女性は「パリのカフェにいるセレブ」の設定で、SNSも使って1日に3人の男性との交流を求められた。サイトではAIで作成した顔写真や動画のほか、複数の言語を操るミャンマー人モデルの音声を使った。
相手の男性が女性に「ほれた」とリーダーらが判断すると、彼らがやり取りを引き継ぎ、男性らに偽の暗号資産投資を持ちかけた。
ロマンス詐欺に加担させられた経験を語るフィリピン人の女性(2月、マニラ市内で)2か月後に移った拠点では、ノルマを達成しないと罰金が科された。同僚が外部に助けを求めたことが知られ、女性も数日間「拷問部屋」に入れられた。同僚の家族が身代金を払い、翌年4月に解放されたという。
バングラデシュ人の20歳代男性も昨年夏、偽の求人でミャワディに誘い出され、「アリン」という英国出身のファッションデザイナーのセレブ女性を装い、ロマンス詐欺に関与させられた。なりすます顔写真はネット上で探し、AIで加工することもあった。指示役は中国人で、ロシアやトルコなどの男性に偽の投資を呼びかけたという。
海外闇バイト、逮捕の邦人も
「海外の仕事」と誘われ、詐欺に加担させられるケースは日本でも相次いでいる。警察庁は、怪しい仕事に応じないよう呼びかけている。
ミャンマーの拠点で特殊詐欺に関与させられた愛知県の男子高校生(16)は、インターネット上の知人から「特技を生かして海外でやれる仕事がある」と言われ、紹介された男の手引きで現地に渡っていた。
大阪市淀川区の男(49)(服役中)は2022年8月頃、知人を通じてカンボジアでの通訳の仕事を紹介された。当時はコロナ禍で仕事もなく「(得意な)語学力を武器に活躍できる」と思ったという。
だが、現地では、投資に関する日本語の文章の誤記を訂正する作業に携わることに。預けたパスポートは返却されず、体調を崩しても帰国を許されなかった。
男は、カンボジアでFX(外国為替証拠金)取引を巡る詐欺に関与したとして、佐賀県警に逮捕され、その後、詐欺罪で実刑判決を受けた。昨年、公判中に勾留先で取材に応じ、「渡航を慎重に考えるべきだった」と後悔を口にした。
昨年10月以降、海外の「闇バイト」に誘われ、日本の警察が保護したケースは計10件に上っている。
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