過去最高売上のディズニーの中で「一人負け」…舞浜駅前の商業施設が「一等地なのにいつもガラガラ」なワケ

東京ディズニーリゾートの玄関口にある商業施設、イクスピアリ。ファッション雑貨や飲食店、映画館など約140の店舗が軒を連ねる。舞浜駅の目の前という一等地にありながら、館内を歩いてみると、人がほとんどいないエリアも少なくない。なぜ、これほどの好立地にもかかわらず「ガラガラ」に見えるのか。街歩きライターの杉浦圭さんがリポートする――。(前編/全2回)
新タイプの複合商業施設「イクスピアリ」内にある16スクリーンを持つシネマコンプレックス(=2000年7月4日、千葉県浦安市) - 写真=時事通信フォト

平日の午前11時、JR舞浜駅の改札を出ると、平日とは思えない多くの人でにぎわっていた。東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは近年、売上高・利益ともに過去最高水準を更新しており、その勢いは駅前の混雑ぶりからも十分にうかがえる。

その駅の目の前に位置するのが、商業施設「イクスピアリ」だ。2000年に開業した同施設は、約140のショップやレストラン、映画館を備え、ディズニーリゾートライン「リゾートゲートウェイ・ステーション」直結という好立地にある。

しかし近年、ネット上では「テナントの入れ替わりが激しい」「人が少ない」といった声も目立つ。実際に現地を観察してみると、舞浜駅からの人流はランド側とイクスピアリ側でほぼ半々に分かれていた。一見すると、イクスピアリも一定数の人に選ばれているように見える。

ところが、モノレール乗り場とイクスピアリへ向かう分岐点に差し掛かると様子が変わる。体感では約7割がモノレールへ流れ、イクスピアリへ向かうのは3割ほど。さらにゲートをくぐると、人の密度は明らかに落ち着いた。

右側にイクスピアリの入り口があり、左奥側にはディズニーリゾートラインの入り口が見える。このあたりは昼前でも人通りが多いが、7割近くが左奥側のリゾートラインのほうに進んでいた - 筆者撮影

これだけ舞浜全体がにぎわっているにもかかわらず、なぜイクスピアリは「ガラガラ」だと言われているのか。その理由を探るため、さらに施設の奥へと足を進めた。

■「すたすた通り過ぎる」人たちの多さ

そもそもイクスピアリとは、どのような施設なのか。

公式サイトによれば、その名称は「体験」を意味するExperienceと、ペルシア神話の妖精Periを組み合わせた造語で、「世界中どこにもない街」をテーマに掲げている。架空の歴史を持つ9つのゾーンで構成され、ゲストが物語の世界をそぞろ歩きしながら買い物や映画を楽しむことを想定した施設だ。

実際、地上4階建ての館内は、入口側の「タウンエリア」から奥の「シネマエリア」へと、ひと続きの「街」として構成されている。歩き始めてまず印象に残るのは、一般的なショッピングモールにはあまり見られない、華やかな内装やテーマ性の強さだ。街並みそのものが架空の物語を持ち、「ディズニーに来た」というワクワクした気持ちを自然と引き出してくれる。

一方で、入口付近のにぎわいを抜けて奥へ進むにつれ、館内の雰囲気は少しずつ落ち着いていく。ベンチでスマホを操作したり、休憩したりする人はいるが、店舗内は無人という光景も少なくない。週末は平日より人出こそ増えるが、「店に人が入っているか」という点では大きな差は感じられなかった。

イクスピアリのマップ。駅側にタウンエリアがあり、施設奥側には映画館やホテル、劇場などがある。エントリープラザ付近は人通りが多いが、シネマエリアに入るあたりで少しずつ人が減っていく。イクスピアリHPより

とくに印象的だったのが、店にも商品にも目を向けず、施設内を一直線に通り抜けていく人々が一定数いることだ。彼らの後を追うと、その動線はアンバサダーホテルや駐車場、さらにはオリエンタルランド本社へと続いていた。

つまり、施設内で目にする人流のすべてが、消費を目的としたものではない。イクスピアリは、生活圏と職場を結ぶ「近道」としても機能しているのだ。

本来、滞在を前提に設計された街が、今は「通過するためのインフラ」として使われている。この消費を伴わない人流の存在こそが、イクスピアリに漂う独特の「ガラガラ感」を生んでいるのかもしれない。

■イクスピアリが目指した「路地の楽しさ」

イクスピアリの大きな特徴は、緻密に作り込まれた「物語」を前提とした街の設計にある。たとえば2階シネマエリア入口の「シアター・フロント」は、1920年代の華やかなショービジネス街をイメージしてデザインされている。

しかし実際に歩いてみると、この精巧な構造が必ずしも「回遊」を生んでいないことに気づく。入り口から最も遠いシネマエリアに近づくほど、舞浜駅の喧騒が嘘のように静かになる。入り口から奥へ、下から上へと進むにつれて、人流の密度が急速に薄れていく様子がはっきりと分かるのだ。

実は、この現象は偶然ではない。イクスピアリは当初、「分かりやすさ」よりも「そぞろ歩き」を重視した街として構想されていた。

オリエンタルランド元社長でイクスピアリの初代社長である加賀見俊夫氏は、著書『海を超える想像力』の中で、海外の田舎町や京都の路地のように、あえて曲がりくねった街を舞浜につくろうとしたと明かしている。買い物そのものより、街を歩く体験を楽しんでもらう狙いがあったという。

本書で加賀見氏は、「『路地の楽しさを舞浜に』と言いつづけてきた。買い物だけが目的なら百貨店や行きつけの店に行けばよい。だが、リゾートでのショッピング体験はまた別ものである」(p.167)と述べている。

■「迷路のような道」が“壁”になっている

ところが現在、その前提条件は大きく変わりつつある。高いテーマ性を持つ外観とは裏腹に、各ゾーンのテナントはチェーン店が中心で、映画館の上映作品も一般的なラインナップにとどまる。もはや「路地の奥まで足を運ぶ理由」が提示されているとは言い難い。

結果として、入り組んだ通路は「発見の導線」ではなく、「特に用事がなければ引き返す理由」へと変わった。分かりにくい構造と目的性の弱いテナント構成が重なり、人の流れは入口付近で滞留し、奥まで波及しない。

かつて、発見の楽しみを生むために設計された見通しの悪さは、いまやゲストにとって物理的・心理的な「障壁」となり、施設全体の利用範囲を狭める一因となっている。

■ランチ2000円でも「和幸」にだけ行列ができるワケ

正午過ぎ、4階のレストラン街を歩いた。すき焼きの「人形町今半」や高級寿司店といった店が並ぶものの、高価格帯の店は総じて閑散としている。ところが、とんかつチェーンの「和幸」だけは例外で、入り口には4組ほどの列ができていた。

和幸は全国の駅ビルや商業施設でおなじみのチェーン店だ。ランチ価格は1500~2000円程度と、決して安くはない。それでも、この店だけが選ばれている。

この光景は、現在のディズニーパークを訪れるゲストの消費心理をよく表している。高額なチケット代に加え、パーク内での飲食やグッズ、有料パスなどで支出を重ねた後、食事の場にまで「冒険」を求める余裕がなくなっているのだ。

なじみのない店で失敗したくない。味が想像でき、確実に満足できる店を選びたい。そうした心理のもとでは、「どこにでもあり、外しにくい」ブランドが最も合理的な選択肢になる。

財布を開く準備はできているが、精神的な疲れも重なり、最後は「知っている安心感」へと引き寄せられる。イクスピアリでは今、「何を楽しむか」よりも「いかに失敗しないか」が重視されており、その象徴が和幸の行列なのである。

そしてこの傾向は、よりカジュアルなフードコートで、さらに鮮明に表れていた。

■フードコートで“夢の国疲れ”を癒やすのは「うどん」

続いて1階のフードコートをのぞいてみた。11時台には3割ほどだった席も、12時を過ぎると7割ほどが埋まる。パソコンを開いて仕事をする人の姿もあり、観光地というより平日の駅ビルに近い雰囲気だ。

興味深かったのは、ゲストが選ぶメニューの中身である。筆者は「ディズニー感」を意識したミートボールとポテトのセットを注文したが、周囲で多く選ばれていたのは、うどんや丼といったごく普通の日本食だった。隣接する1階レストラン街でも、比較的混雑していたのはマクドナルド程度で、他店には余裕があった。

この傾向は週末でも変わらない。土曜日はファミリー層が中心となるが、やはり選ばれているのは、うどんや丼などの「日常食」だった。

高密度な非日常体験を重ねたあと、ゲストが求めているのは非日常の延長ではない。刺激の強さから一度離れ、ホッと一息つける食事だ。重視されているのは「発見」や「物語」ではなく、迷わず選べる確実性と、心身を休ませるための平常運転である。

結果として、イクスピアリが用意してきた「架空の街の物語」は、レストラン街でもフードコートでも、現在のゲストの消費行動と少しずつズレ始めているように見える。

■データが示す「パークの独り勝ち」

現場で感じた温度差は、数字の上にもはっきり表れている。

JR東日本のデータによれば、舞浜駅の1日平均乗車人員はコロナ前の2013年から19年頃は8万人弱で推移し、コロナ禍の2020年には約3万8000人まで落ち込んだが、2024年度にはコロナ前の平均を上回る約8万6000人へと増加。駅周辺の人流は確実に増勢にあり、その人流と消費の双方を最も強く引き寄せているのが、TDR本体である。

オリエンタルランドの2026年3月期第2四半期決算を確認してみると、テーマパーク事業が2517億円(前年同期比129億円増)、ホテル事業が561億円(同58億円増)と、いずれも好調で、売上高は過去最高となった。

オリエンタルランド2026年3月期 第2四半期決算資料より。テーマパーク事業、ホテル事業は伸びているが、イクスピアリを含むその他の事業は横ばい

一方で、イクスピアリを含む「その他の事業」は売上高82億円と前年並みにとどまり、イクスピアリ単体でも売上高は2024年3月期の約64億9000万円から、2025年3月期には約58億8000万円へと減少に転じた。設備投資やテナント入れ替えによる影響は考慮すべきだが、パークやホテルの成長スピードと比べると、明らかに差がある。

重要なのは、舞浜を訪れる人が増え、パーク内での消費額も拡大する中で、イクスピアリがその流れを十分に取り込めていない点だ。広大な敷地と緻密な物語を持ちながら、実際に消費が生まれているのはごく一部のエリアに限られており、この構造的な歪みが数字に表れている。

■最大の要因は「ディズニー体験」の変質

舞浜駅の利用者は増え、ディズニーパークの売り上げも過去最高を更新している。にもかかわらず、イクスピアリにはかつてのような熱量が感じられない。その最大の要因は、「ディズニー体験」そのものの変質にあるといえるだろう。

近年のパークは、チケット価格の高騰や有料パス(DPA)の普及、年間パスポートの事実上の廃止によって、一回の来園が「高単価で濃密な非日常体験」へと進化した。

「せっかく高いチケット代を払ったのだから、できるだけパーク内で過ごしたい」「元を取りたい」。こうした心理が働く中で、かつてイクスピアリが担っていた「予定のない寄り道」や「パークの合間の息抜き」といった余白の時間は、真っ先に削ぎ落とされている。

■「物語」というコンセプトのズレ

もう一つ見逃せないのが、施設が掲げてきた「物語」というコンセプトと、現在の利用実態とのズレだ。

イクスピアリは本来、観光地でも地元の商業施設でもない、唯一無二の「街」として構想された施設である。イクスピアリの初代社長である加賀見氏は、「街が店を創り、店が街を創る。これがどこにもない雰囲気を醸し出す」(前掲書 p.172)と語っている。

しかし現在、テナントは日常的なチェーン店が中心となり、一方で外装や街並みだけが強い物語性を残している。偶然の発見やそぞろ歩きを前提とした「入り組んだ路地」という設計思想は、失敗を避け、最短距離で目的を達成したい現代のゲストにとって、魅力というより「時間的コスト」に近い存在になりつつある。

結論として、イクスピアリが「ガラガラ」に見える正体は、単なる集客不振ではない。パークの熱量が高まりすぎた結果、ゲストは「街」を楽しむ余裕を失い、利便性の高い入口付近や一部の店舗だけが消費される。広大な敷地の大半が、「滞在の場」ではなく「通過するための空間」となっているのだ。

----------杉浦 圭(すぎうら・けい)街歩きライター街歩きを趣味とし、全国各地を巡り歩いてその街ならではの魅力を発見することをライフワークとする。旅行メディアでライターとしても活動し、旅行者の視点を交えながら、街の魅力を多角的に伝えている。東洋経済オンラインや、現代ビジネス、ジモコロなどに寄稿している。

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