米大手行、欧州やアジアで顧客離れに直面-トランプ関税で憂き目

トランプ米大統領が欧州の貿易相手国に対する強硬な発言を一段と強めるなか、欧州企業の間でその動向を注視する動きが広がっている。

  ブルームバーグがまとめたデータによると、一部の企業ではウォール街の大手金融機関との関係を見直し、銀行取引の分散を進める動きが台頭。こうした変化は、取引拡大を目指す欧州の有力銀行にとって明確な追い風となっている。

  エドモン・ドゥ・ロスチャイルドでコーポレートファイナンス部門のマネジングディレクターを務めるアルノー・プティ氏は「資金調達やM&A(企業の合併・買収)の助言を求めるには、欧州やフランスの投資銀行の方が適しているとの声が顧客から上がっている」と語った。

  ドイツ銀行のクリスティアン・ゼービング最高経営責任者(CEO)も、潜在顧客からの提案依頼書(RFP)に同様の傾向が表れていると指摘。「それは毎日、顧客の獲得やRFP、新たなビジネスという具体的な形で実際に起きている」と述べた。

  ブルームバーグがまとめたデータによると、今年これまでに非米系企業が実施したユーロ建て債券の発行案件のうち、米大手5行が関与していなかった割合は約47%に上った。前年に比べて5ポイント余りの上昇となる。

  ポンド建て債券ではその傾向がさらに顕著だ。米大手5行が関与していない割合は前年の47%から64%に拡大している。

  UBSグループのセルジオ・エルモッティCEOは、一部の欧州銀行が「競争力あるサービスや助言を提供できる能力を持ち始めたこと」が、顧客の乗り換えを促していると指摘。「こうした分散化の恩恵を今後も享受できる立場にあるとわれわれは考えている」と述べた。

「特有のスキル」

  トランプ氏の貿易戦争が本格化する前から、米大手銀行からは警鐘が鳴らされていた。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは4月初旬にFOXビジネスとのインタビューで、関税を巡る不透明感で「数件」の債券取引をすでに失ったと明かしていた。取引先企業が代わりに選択したのは地元銀行だったという。

  ダイモン氏は、関税を巡る混乱が「米国に対する激しい怒りを含む累積的な損害を引き起こしている」と当時語っていた。

  非米系銀行の存在感を示す動きは最近も見られた。チューリヒを拠点とする保険会社チャブがオフショア人民元建て債券発行の支援で選んだのは、英銀スタンダードチャータードだった。

  スタンダードチャータードのディエゴ・デ・ジョルジ最高財務責任者(CFO)によれば、チャブ側からは「世界的な大手銀行よりも、地域で卓越した力を持つ銀行と取引したい」との意向が示された。「世界が分断されつつあるなか、貴行には特有のスキルがあると考えている」とも伝えられたという。

  こうした動きは一部にとどまらない。

  コーリション・グリニッジでアジア・中東地域の法人銀行業務を統括するルチランガド・アガルワル氏は、トランプ関税による影響が最も顕著に現れているのはアジアだと指摘する。貿易体制の変化やサプライチェーンの再編によって大きな打撃を受けるからだ。

  「アジアの企業では現在、取引銀行変更の意欲が非常に高まっており、今後12カ月以内に新たなRFPを出す計画を持っている企業は全体3分の1に上る」という。

  アガルワル氏によれば、中国企業の貿易金融における米系金融機関の市場シェアはすでに低下。2017年の12%から現在はおよそ7%にまで縮小している。

  調査会社イースト・アンド・パートナーズの市場分析責任者、マーティン・スミス氏は「大手企業が為替や金利、カウンターパーティーリスク、地政学的緊張、サプライチェーンの混乱といった要因へのリスク管理姿勢を強めるなか、米系銀行では不確実性の高まりとともに顧客離れが進むとみられる」と述べた。アジア市場で他のどの銀行よりも多くのシェアを伸ばしているのは、BNPパリバだと同氏は指摘する。

  欧州銀行への切り替えを進める企業の動きについて、ソシエテ・ジェネラルのスラウォミール・クルパCEOは「ここ数カ月で世界が経験している構造的変化の中に戦略的なチャンスは確実にある」と言明。「こうしたリスク分散の合理性が企業にとって一段と明確になりつつある」と語った。

原題:Wall Street Banks Lose Ground in Europe as Tariffs Spook Clients(抜粋)

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