ゴミ処理場に眠る1000億円──ビットコインを捨てた男の13年闘争(NADA NEWS)

今日、5月22日は暗号資産界隈が記念する「ビットコイン・ピザ・デー(Bitcoin Pizza Day)」だ。 2010年のこの日、米国のプログラマーが2枚のピザを1万ビットコイン(現在価値:約1200億円)で買った。 これが世界初のビットコイン決済となり、暗号資産の歴史において広く知られる伝説のエピソードとして語り継がれている。 しかし、業界に少し長くいる人なら、もう一つあまりにも有名な悲劇をご存知だろう。 イギリス・ウェールズ地方のITエンジニア、ジェームズ・ハウエルズ(James Howells)氏の物語だ。 海外メディアの報道や裁判記録から、彼が歩んできた道のりを振り返ってみたい。 秘密鍵が入ったハードディスクをゴミ袋に ハウエルズ氏の悲劇は、ビットコインがまだ一部の技術者による実験に過ぎなかった2009年にさかのぼる。 彼は自身のパソコンでいち早くマイニングを行い、約8000ビットコイン(現在価値で約1000億円)を獲得した。 しかし、同居していた恋人から「パソコンの音がうるさい」と苦情が出てマイニングを中止。さらに2010年、そのパソコンに誤ってレモネードをこぼして故障させてしまう。 彼はパソコンを解体し、ビットコインの秘密鍵が入ったハードディスクをデスクの引き出しにしまい込んだ。 2013年の夏。部屋の片付け中、彼はあろうことかそのハードディスクを不要品と一緒にゴミ袋に入れてしまう。 英紙ガーディアンの報道や本人の回想によれば、最終的にそのゴミ袋をニューポートのゴミ処理場「ドックスウェイ埋立地(Docksway landfill)」へと車で運び、投棄したのは当時の恋人だったという。 ハウエルズ氏は後に「彼女の責任だと考えた」と語る一方、元恋人は「彼に処分を手伝ってと頼まれただけ」と主張している。 無理もない。当時のビットコインは1BTC=数千円程度だった。現在のような価値はなく、本人の回想によれば、「子どもの誕生や家の改築で忙しく、ビットコインのことはすっかり忘れていた」のだという。 しかし、その後の価格高騰により、「ゴミ」は巨大な資産へと変わった。当時の些細なミスと日常のすれ違いが、1000億円の重力を持って彼にのしかかってきたのである。 ここから、「自分」の資産が眠る広大なゴミ処理場を舞台にした、ハウエルズ氏の執念の戦いが始まる。 ゴミ処理場を掘らせてくれ! もし、あなたがどこかに1000億円が埋まっていることを知り、しかもその場所が「あのゴミ処理場だ」と特定できているとしたら、どうするだろうか? ハウエルズ氏は、ハイテク発掘チームを結成した。 ベンチャーキャピタルから1000万ポンド(約20億円)の支援を取り付けた彼が立てた戦略は異例のスケールだった。 数万トンの廃棄物が集まる巨大なゴミ山から目当てのハードディスクを見つけ出すため、NASAのデータ復旧専門家をチームに招へい。 さらに、ボストン・ダイナミクス社のAIロボット犬「Spot」を夜間警備と地表スキャンに配備し、掘り起こしたゴミはAI搭載のベルトコンベアで自動選別するという緻密な計画を立てた。 彼はこの最新鋭の部隊を引き連れ、「もし見つかったら、総額の25%を市に寄付する」という条件を提示し、ゴミ処理場を掘り返す許可をニューポート市議会に迫ったのである。 ニューポート市議会との戦い さて、また想像してみてほしい。 あなたがお住まいの自治体に、「ゴミ処理場を掘らせてくれたら数百億円を寄付します」というオファーが来たら、市長や議会はどう判断するだろうか―。 ニューポート市議会は、鉄壁だった。 英公共放送BBCなどを通じて出された声明によれば、市議会は彼のオファーを拒絶し続けた。 理由は環境だ。巨大なゴミ山を掘り返せば、内部に溜まった有毒ガスや汚水が流出し、周辺地域に被害をもたらすリスクがある。環境が第一である、と。 1000億円の回収に執念を燃やすエンジニアと、環境保護とルールを理由に例外を認めない市議会。両者の主張は交わることなく、ゴミ処理場を巡る対立は泥沼化していった。 司法判決「ゴミは誰のものか?」 痺れを切らしたハウエルズ氏は実力行使に出る。 投資家から資金を集め、約1000億円の損害賠償とハードディスクの返還を求めて市を提訴した。「ゴミ処理場にあるのは自分の正当な財産だ」という主張である。 しかし、判決は容赦のないものだった。 2025年1月の高等裁判所での敗訴に続き、同年3月には控訴裁判所でも「勝訴の見込みなし」として彼の訴えは棄却され、英国内での司法判断は道が絶たれた。 根拠となったのは廃棄物処理の法規制だという。裁判所は「ゴミとして投棄された時点で、その所有権は市議会に移転している」と判断した。 1000億円の価値がある暗号資産の鍵であろうと、捨てた時点でそれは「市のゴミ」なのだと。 映画化、NEVER GIVE UP… 2026年、ハウエルズ氏の物語は新たな局面を迎えている。 現場となったドックスウェイ埋立地は、施設の老朽化から閉鎖が決定した(跡地に太陽光発電所が建設される予定)。 しかし、彼はまだ白旗をあげない。 英控訴裁判所で敗訴が確定した直後、自身のLinkedInでこう宣言している。 「英国の不公正な司法制度がまたもや牙をむいた…。次は欧州人権裁判所だ」(飜訳) さらに、この狂騒劇にハリウッドが目をつけた。 ロサンゼルスの制作会社LEBULが、彼の長年にわたる戦いを記録したドキュメンタリー映画「The Buried Bitcoin(埋もれたビットコイン)」の制作を発表したのだ。彼の戦いそのものが、世界中を巻き込む壮大なエンターテインメントへと変貌している。 ハウエルズ氏のXを開くと、ヘッダー画像にはメタリックな文字でこう掲げられている。 今日のピザデー。歴史的なピザの話題に花を咲かせつつ、ウェールズの巨大なゴミ山を前に今もなお不屈の闘志を燃やす一人のエンジニアに、少しだけ想いを馳せてみてはいかがだろうか。 【主な参考・引用元メディア】 |文:栃山直樹|画像:Shutterstock

NADA NEWS 編集部

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