永遠の課題「パスワード管理」、これでついに終止符

私たちはもう何十年も、アカウントを守るために「パスワード」を使い続けてきました。でも正直なところ、管理しきれているとは言い難いのが現実ではないでしょうか。

そこで注目されているのが、パスワードの「利便性」と2段階認証の「安全性」を兼ね備え、しかも覚える必要が一切ない新しい認証方式、「パスキー(Passkeys)」です。

そもそも「パスキー」とはどういう仕組みなのか

パスキーは、パスワードを一切使わずに、それと同等以上の体験を提供する比較的新しい認証方法です。

その裏側では「公開鍵暗号方式」という技術が使われています。少し難しく聞こえるかもしれませんが、仕組みはシンプルです。

  • 公開鍵(Public Key): サービス側に保存される鍵。これは秘密ではなく、万が一漏洩しても問題ありません。
  • 秘密鍵(Private Key): あなたのデバイス(スマホやPC)にだけ保存される鍵。これが本人確認に使われます。

アカウントを作成または設定する際、このペアとなる鍵が生成されます。

ログインする際は、顔認証、指紋認証、またはPINコードを使ってデバイスのロックを解除するだけ。システムが「公開鍵」とあなたのデバイスにある「秘密鍵」を照合し、パスワードなしでログインが完了します。

実際の使い勝手と、デバイス連携のスマートさ

パスキー自体は、Appleの「iCloudキーチェーン」や、Bitwarden、1Passwordといったパスワード管理ツールの中に安全に保存されます。

これにより、同じアカウント(例えばApple ID)でログインしているデバイス間であれば、どこからでもパスキーを使ってログインが可能になります。

では、パスキーが入っていない「友人のPC」や「会社のPC」からログインしたいときはどうすればいいのでしょうか?ここがよく考えられています。

  1. ログイン画面で「別のデバイスを使用」を選択すると、QRコードが表示されます。
  2. パスキーが入っている自分のスマホでそのQRコードを読み取ります。
  3. 自分のスマホ側で顔認証や指紋認証を行います。
  4. PC側のログインが完了します。

このように、パスキー自体を共有することなく、手元のデバイスを「鍵」として使うことができるのです。

「2段階認証」よりも安全と言い切れる理由

結論から言うと、パスキーは極めて安全です。パスワードよりも安全なのはもちろん、実は「2段階認証(2FA)」よりも強固です。

SMSでコードを受け取るタイプの2段階認証は、パスワード単体よりはマシですが、完璧ではありません。ハッカーが通信を傍受したり、本物そっくりの偽サイト(フィッシングサイト)に誘導してコードを入力させたりする手口が存在するからです。

一方、パスキーにはその「フィッシングの隙」がありません。

  • 偽サイトでは動かない: パスキーは正しいドメイン(URL)でしか反応しません。偽サイトに誘導されても、認証プロセス自体が開始されないため、騙し取られることがありません。
  • 物理的な距離が必要: QRコードを使ったログインも、Bluetoothを使ってスマホとPCが物理的に近くにあることを確認します。遠隔地にいるハッカーがQRコードの画像だけ送りつけてログインさせる、といった手口は通用しません。

「スマホをなくしたら終わり?」という懸念への答え

最も多い懸念は、「秘密鍵が入っているスマホを紛失したらどうなるのか」という点でしょう。

確かに、物理的なセキュリティキー(YubiKeyなど)を使っている場合、それを紛失するとアクセスできなくなるリスクはあります。しかし、現在の多くのウェブサービスでは、以下のような対策がとられています。

  • クラウド同期の活用: iPhoneで作ったパスキーはiCloudを通じてiPadやMacにも同期されます。どれか一つがあればログイン可能です。
  • 復旧オプション: 多くのサービスでは、パスキー以外の本人確認手段(セキュリティ質問やバックアップコードなど)を用意しています。
  • 複数デバイスでの登録: ひとつのアカウントに対し、複数のデバイスをパスキーとして登録しておくことも可能です。

まだ完璧ではない「互換性」の壁

ここまで良いことづくめのようですが、現状における最大の弱点があります。それは「パスキーのエクスポート(書き出し)ができない」ことです。

パスワードであれば、ある管理ツールから別のツールへデータを移行するのは簡単です。しかしパスキーは、生成されたプラットフォーム(エコシステム)に縛られる傾向があります。

たとえば、iPhone(iCloudキーチェーン)でGoogleアカウントのパスキーを作った場合、それをAndroid端末に直接移行するのは現時点では困難です。

Apple製品で統一している人ならiCloudで快適に使えますが、WindowsとiPhone、AndroidとMacといった異なるメーカーのデバイスを混在させている人は注意が必要です。Bitwardenのようなクロスプラットフォーム対応の管理ツールを使うのが賢明でしょう。

今すぐ導入すべきか、まだ様子見か

パスキーは完璧ではありません。特に異なるデバイス間でのやり取りは、慣れるまで少し複雑に感じることもあるでしょう。

しかし、セキュリティと利便性のバランスにおいて、これ以上の選択肢がないのも事実です。

テクノロジーにあまり詳しくない方や、特定のエコシステム(Appleなど)に依存していない方は、完全移行するにはまだ少し時期尚早かもしれません。

ですが、その仕組みと「移行できない」という弱点を理解した上で利用するなら、あなたのアカウントを守る最強の盾となるはずです。

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