中国はトランプに逆らって、イランから石油を買い続けるのか(黒井文太郎)
共同通信は9月26日、イラン政府高官の話として【中国政府から、米国の制裁には従わないと伝えられた】と報じました。記事は、中国がイラン産原油の輸入を続ける方針だとも伝えています。
米中首脳会談の直後だったため、「中国は米国に正面から逆らうのか」と受け取った人も多いでしょう。結論から言えば、中国は言葉と国内法のうえでは米制裁に従わない姿勢を続けると考えられます。しかし、だからといって原油が以前のように大量に流れるとは限りません。
今回のこの共同通信記事のもとになっているのは、匿名のイラン政府高官の証言です。中国政府は公式には確認していません。韓国メディアが共同通信の記事を引用して伝えたものの、欧米の主要メディアが確認した報道は今のところ見当たりません。イラン側には「首脳会談の後も中国は味方だ」と内外に示したい事情があります。そのため、この証言はある程度、割り引いて読む必要があります。
米国の制裁の内容と、その効果とは
ここでいう「制裁」について説明しておきます。米国は以前から、イランの核開発などを理由に、イランの原油輸出に圧力をかけてきました。米国の制裁は米国企業だけでなく、イラン産原油を買う外国企業も対象にします。制裁対象になった企業は、米国の銀行やドル決済を使えなくなるおそれがあります。世界の貿易はドルで決済されることが多いため、これは企業にとって大きな打撃です。
実は、中国が「米国が一方的に決めた制裁には従わない」と言うこと自体は、目新しい話ではありません。2018年に米国がイランとの核合意から離脱して制裁を再開したときから、中国政府は同じ主張を繰り返してきました。
ただし、実際の企業の行動は、政府の言葉とは違っていました。中国の国有石油大手は、ドル決済や欧米の銀行との取引を失わないよう、イラン産原油の直接購入をやめていました。代わりに買い手の中心になったのが、「ティーポット」と呼ばれる山東省などの中小の独立系製油所です。こうした製油所は米国の金融システムとの関わりが小さく、制裁の影響を受けにくいのです。
取引の方法も見えにくくなりました。船の国籍や積み荷の出どころを偽装して運ぶ「ダークフリート(闇の船団)」や、ドルではなく人民元での決済が使われるようになりました。つまり、国としては「制裁は認めない」と言いながら、大手企業は事実上制裁に従う、という二重の構造が続いてきたのです。
今年5月に中国が米制裁無視を法制化
この構図が変わったのが今年の春です。4月24日、米財務省は中国第2位の独立系製油所で、イラン産原油の主要な買い手でもある恒力石化(大連)を制裁対象にしました。これに対して中国商務部は5月2日、「ブロッキング規則」を初めて発動しました。
ブロッキング規則とは、外国の不当な制裁に中国国内で従うことを禁じられるよう、2021年に定めた規則です。今回の命令は、恒力石化を含む中国の製油所5社に対する米国の制裁について、中国国内でそれを認めることも、実行することも、従うことも禁じる内容でした。それまで口先だけだった「従わない」が、国内法に基づく命令に格上げされたわけです。
今回の共同通信の報道は、この流れの延長線上にあります。中国がイランに「従わない」と伝えたとしても、方針として不自然ではありません。むしろ、ここまで立場を明確にした以上、首脳会談の後に方針を引っ込めれば、国内外でメンツを失うことになると考えられます。
イラン戦争で原油取引が激減
問題は、「方針」と「実際に取引される量」は別物だということです。今年2月末に米国・イスラエルとイランの戦争が始まり、中東の原油輸送の要所であるホルムズ海峡が混乱しました。そこに米国による海上封鎖と制裁の強化が重なりました。
その結果、中国のイラン産原油の輸入は大きく減っています。データ会社Kplerによると、開戦前の中国の輸入量は日量約140万バレルでしたが、今年7〜8月は日量約53万バレル程度まで落ちました。開戦前の約4割に減少し、ピークだった2024年10月の日量約190万バレルと比べると約7割減です。その原油も、中国石化や中国石油といった国有大手ではなく、主に山東省の独立系製油所へ流れています。
他方、今年9月のVortexaのデータを伝えた報道では、中国は闇ルートでのイラン産原油の購入をやめ、代わりに通常の国際市場での調達を増やしているとされています。今年7〜8月時点では、中国はイランにとって最大の買い手でしたが、量そのものは戦前よりかなり減っていました。9月以降、その取引がどこまで続いているかは、はっきりしていません。
原油輸出入の今後を決める3つの条件
では、これから原油の流れは戻るのでしょうか。それを決めるのは中国の宣言ではなく、次の3つの条件だと考えられます。
①第一に、船が届くかどうかです。米国の封鎖や海上での取り締まりが続けば、中国に買う意思があっても原油は運べません。
②第二に、代金を払えるかどうかです。米国は中国の銀行に対しても、イランとの取引をめぐって圧力を強める構えを見せていると報じられています。送金ルートが細れば、取引も細ります。
③第三に、中国自身の損得勘定です。米国との関係を安定させたい局面では、国有大手にリスクを取らせることはせず、少量の取引を独立系製油所に任せる、というこれまでのやり方に戻る可能性が高いと考えられます。
まとめると、中国は「言葉と法律では米制裁に従わない」一方で、「実際の取引は、見つかりにくい小口のルートで細く続ける」という二重の対応を続ける可能性が高い、というのが本稿の見立てになります。
今回の共同津信の報道は、方向性としては事実に沿っています。ただし、これを「中国がイラン産原油を大量に買い支える」と読むと、実態を見誤ることになりそうです。
今後は、
- 国有大手が購入を再開するか、
- 米国が中国の銀行を実際に制裁対象にするか、
- 毎月の輸入データがどう動くか
に注目する必要があります。