裏切り続ける円、2025年こそ反発とストラテジストは予想-金利差縮小

円相場の見通しを2年連続で外すストラテジストら市場関係者は、2025年こそは円高になるとみている。

  追加的な日本銀行の利上げと米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げで日米金利差が一段と縮小すれば、円は対ドルで130円まで反発するとの声も聞かれている。ただ、米国の次期大統領に共和党のトランプ氏が返り咲くため、減税や高率関税などインフレにつながる政策が世界市場に及ぼす影響は現時点で見えづらく、ストラテジストらの念願がかなうかどうかは不透明だ。

  円高が他の市場を動かすことは必至で、輸出企業の業績懸念につながる日本株市場には重しとなる半面、潤沢な資金を持つ日本企業の海外企業買収が増えるかもしれない。外国の株式や債券に向かっていた投資資金が国内に回帰する可能性もある。

  みずほ証券の山本雅文チーフ為替ストラテジストと三原正義マーケットアナリストはリポートで、米国では25年末にかけてドットチャート通りの利下げが続くと見込まれる半面、日銀は半年に1回程度の利上げを続け、日米金利差は縮小に向かうと予想した。トランプ次期米大統領の政策全てがドル高につながるわけはないと言う。

  みずほ証は25年末までに130円まで円高が進むと予測。これは、23年初め以来の水準だ。野村証券やサクソ・マーケッツは140円まで上昇するとの見方を示す。サクソのチーフ投資ストラテジスト、チャル・チャナナ氏は米経済が減速すればFRBの利下げを促す可能性があると指摘する。

  来年の円高予想は足元の状況とは対照的だ。今月発表の通貨ポジションデータによると、11月5日の米大統領選直前にヘッジファンドは8月以来、最も円に対し弱気となり、トランプ氏の再選後にも円ショートを一段と積み増した。さらに貿易関税、減税、規制緩和を主張するトランプ氏の政策で利益を得ようとする「トランプトレード」が活発で、ドルは通貨バスケットに対し22年11月以来、2年ぶりの高値を付けた。18日午前は154円台で推移している。

  野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストも、目先はドル高進行のリスクがあっても、25年は円高になると予想する1人だ。トランプ政権下でもFRBや他の主要中央銀行は金融緩和を進めるとし、中国を主なターゲットとするトランプ氏の関税政策も他の通貨と比較した円相場の下支え要因になると読む。

  米労働省が13日に発表した10月の米消費者物価指数(CPI)は、変動の大きい食品とエネルギーを除くコアCPIが3カ月連続で同じ伸び率となった。過度の物価上昇が一服する中、オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)市場ではFRBが来年1月までに追加利下げを行う可能性を8割以上織り込んでおり、今後の円の支援材料になるかもしれない。

  野村証の後藤氏は、日本の通貨当局による円安けん制発言や円買い介入のリスクも今後ドルの上値を抑える可能性があると指摘する。三村淳財務官はトランプ氏が勝った米大統領選後の円安進行を受け、行き過ぎた動きに適切な対応を取ると語った。

  とはいえ、来年の円高を予想するストラテジストの間でも、その道のりは平たんではないとみる向きは少なくない。トランプ氏の再登板でFRBの利下げペースを見通しにくくなったためだ。

  シンガポールに拠点を置くRBCキャピタル・マーケッツのアジアFX戦略責任者、アルビン・タン氏は「米金利が徐々に低下するにつれ、円は反発するというのが基本シナリオ」だが、トランプ氏の米大統領選勝利が大きな不確定要素で、円が140円を抜けて上昇するのは難しいとみている。

  日興アセットマネジメントのフィンク直美チーフ・グローバル・ストラテジストは「米経済が予想以上に加速したり、インフレ率が予想を上回ったりする可能性は残されており、その場合はイールドカーブへの利上げの織り込みが修正される」と言う。これは日米の絶対的な金利差が維持され、リスク選好の環境下でドル堅調の流れが続くことを意味するものだ。

  FRBのパウエル議長は14日、最近の米経済は目覚ましく良好に推移しているとし、利下げを急ぐ必要はないとの認識を示した。

  また、経済成長率の低い日本から、高い米国などへ資本が流出し続けている構造的な問題も円高が進みにくい要因と一部の市場関係者は受け止めている。7-9月の直接投資と証券投資の流出額は、同四半期に過去最高の8兆9700億円となった経常黒字額を上回った。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジストは、インフレ率も加味した日本の実質金利が米国に比べ圧倒的に低いため、ドル安・円高は続かないとし、25年末のドル・円レートの予想を154円50銭としている。

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