異例のドル安、逃避先の役割果たせず-トランプ氏が損なう通貨信認
米国株が3月に大幅下落する中、フェデレーテッド・ハーミーズのファンドマネジャー、ジョン・シダウィ氏は妙なことに気づいた。
長らく相場下落時の逃避先となってきたドルが、今回は上昇せずに株式と同様に下げ、下落スピードも速かった。投機的な短期の資金は金や円、欧州株など、米国以外のほぼ至るところに流入した。
同社で債券投資に携わるシダウィ氏は「異例なこと、かつ多くを物語っている」と指摘。「安全な逃避先であるべき環境下で、ドルはその役割を果たしていない」と述べた。
背景にあるのはトランプ米大統領の政策だ。第2次政権発足からわずか2カ月で、トランプ氏は関税措置をエスカレートさせ、数十年続いたグローバル化を後退させようとしている。これがドルの信認を揺るがしている。
ドルはこの3カ月間に、主要な31通貨のほぼ全てに対して下落。ブルームバーグのドル指数はこの間に3%近く下げた。一方、同じく安全な逃避先とみられている金は1オンス=3000ドルを上回り、最高値を更新している。
投機的なトレーダーらは昨年11月の米大統領選後で初めてドルに弱気な姿勢に転じた。トランプ氏が進める政策転換が米国をリセッション(景気後退)に陥らせかねないとの懸念が広がっている。
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為替仲介大手ペッパーストーンの上級調査ストラテジスト、マイケル・ブラウン氏は「ドルは今や安定のとりで、外国為替市場の参加者が最初に選ぶ逃避先ではなく、それとは正反対の存在になった」と述べた。
ドルは力強い米経済と高金利を背景に、これまで大きく上昇していた。それを踏まえれば、最近の下げはドルの強さを著しく損なうものではない。世界的な景気減速懸念で、海外投資家が米国債購入を増やせば、ドルは持ち直すことがあり得る。
しかし、ラボバンクのストラテジスト、ジェーン・フォーリー氏は27日のリポートで、トランプ氏の貿易政策や軍事同盟軽視、カナダやグリーンランドを手に入れたいといった不用意な発言は「脱ドル化の傾向を加速させ、ドルの価値を損なう恐れがある」と指摘した。
ドイツ銀行の為替戦略グローバル責任者、ジョージ・サラベロス氏は、市場が新たな地政学的秩序に適応するのに伴い、ドルが逃避先としての地位を失うことを「可能性として認識する必要がある」とリポートに記した。
原題:As Trump Sinks Dollar, Once-Unthinkable Worry Grips Markets (2)(抜粋)