好奇心旺盛な小学生から質問攻めにされたバス運転手、10年後に同僚として再会 米
サム・メンシマーさんとジョイ・ケンリーさん=メリーランド州シルバースプリング/Tristen Rouse/CNN
ワシントン(CNN) ジョイ・ケンリーさんは長年にわたり、米首都ワシントンで、ラッシュアワーにメトロバスの扉を開けて、連邦政府職員やビジネスパーソンを迎え入れてきた。これから1日が始まる乗客はたいてい無言でバスに乗り込んできた。
毎日同じ顔ぶれを目にするなか、1人の通勤客が記憶に残るようになった。この乗客は、議員でも有力なロビイストでもなく、小学5年生のサム・メンシマーさんだった。
しかも、とても好奇心旺盛な少年だった。
「バスの前のほうに立って、たくさん質問をした」とメンシマーさんはCNNに語った。
ケンリーさんも、本当にたくさん質問を受けたと同意する。赤いボタンは何をするのか、バスは夜どこに止めるのか、どうやって路線が決まるのか——。
やがて2人の間にちょっとした日課のようなものができた。10歳の少年は学校に向かうバスの中で質問を浴びせ、ケンリーさんはこれらに一つひとつ丁寧に答えた。
「バス停でその目を輝かせた少年をみると、私が彼の一日を幸せにし、彼も私の一日を幸せにしてくれた」とケンリーさんは振り返る。
約2年間、四季が移り変わり、メンシマーさんは小学校から中学校へ進学した。その間、2人はバス停を訪れるたびに友情を育んだ。
そんなある日、今度はケンリーさんが質問した。
「ジョイが、バスの車庫を見学したいかと聞いてきた」というメンシマーさんは、そのときの思い出に笑みを浮かべた。「夜にバスが止まる場所」をついに目にできる機会に飛びついたという。
ケンリーさんはメンシマーさんと家族を首都圏交通局のバス車庫に案内した。
「最高にかっこいいと思った。今でもそう思う」とメンシマーさん。「ずっとお願いしていたボタンを全部押して、車いす用のスロープを下ろしたり、行き先表示に自分の名前を出したり。10歳でも大人でもワクワクするようなことばかりだった」
当時は気づかなかったが、この経験、つまり尽きない質問とバス車庫の見学がメンシマーさんの人生に永遠に残る影響を与えることになる。
中学生になると、メンシマーさんはバスではなく地下鉄を使うようになり、やがて大好きな運転士とは連絡が途絶えた。
その後10年余りの間に、ケンリーさんはバス路線が変わり、最終的に運転業務を離れた。現在は地下鉄の駅長として、乗客の案内や安全確保を担っている。
一方、メンシマーさんの公共交通機関への思いは薄れることがなかった。大学生のときには首都圏交通局でインターンを経験し、卒業後は信号技師として同局に就職した。
この秋に働き始めて間もなく、メンシマーさんはふと思った。「ジョイはまだ働いているのかな」
検索してみると、ケンリーさんは確かに「駅長」として在籍していた。
8月、地下鉄の「レッドライン」の終点駅で勤務していたケンリーさんのもとに、1人の男性が近づき、駅長室のドアをノックした。
「『どこかで見たことがある』と思ったけれど、間違えたくなくて」とケンリーさんは笑う。「そして彼が『サムだ! サム!』って」
10年以上が過ぎ、青年になったが、メンシマーさんの本質は変わっていなかったとケンリーさんは語る。ただ今は、学校のリュックサックではなくメトロの制服を身に着けていた。
「会えて本当にうれしかった。サムのことをとても誇りに思っている」とケンリーさん。
メンシマーさんもまた、子どものころの好奇心に応えてくれたケンリーさんへの感謝を忘れていない。いまは、その恩を次に伝えたいと考えている。
「ここにいるのは彼女のおかげ。だから、同じような経験を誰かに提供できるなら、私がその役割を果たしたい」