危険水域に陥った「政治とSNS」 「立花党首逮捕」三つの狙い 「赤旗記者の名刺公開」
言うまでもなく「表現の自由」は民主主義の根幹である。だが、SNS(交流サイト)などによる誹謗中傷、誤情報などが後を絶たない。そんな折、政党党首が摘発され、さらには、政治家が記者の名刺をSNSに公開する事態に発展―。「政治とSNS」問題は危険水域に陥っているようだ。
「現場から身柄はとることになると私も聞いていた。名誉毀損(きそん)ではあまりそこまではやらないが、今回ばかりはちゃんと理由がある」
旧知の警察庁OBは私にこう話した。11月9日、兵庫県警は「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志容疑者(58)を逮捕した。兵庫県知事をめぐる一連の内部告発問題で、今年1月に死亡した竹内英明元県議(当時50歳)の名誉を傷つけたというものだ。
経緯を振り返ろう。
兵庫県議会の百条委員会の元委員だった竹内氏は、斎藤元彦知事の数々の疑惑を厳しく追及していた。昨年11月に斎藤知事の出直し知事選挙(同17日投開票)で、立花容疑者も知事選に立候補。疑惑を追及されていた斎藤知事を「合法的にサポートする」として、当選を目的としない「2馬力選挙」を実施。演説では、斎藤知事の正当性を主張し、「(竹内氏は斎藤知事を陥れた)黒幕」とする文書をユーチューブで公開したり、SNSに相次いで竹内氏を中傷する投稿を行った。こうした立花容疑者の発信はSNSを中心に広がり、竹内氏のもとへは無数の脅迫などがSNS、電話、郵便などで殺到した。
竹内氏は投開票日の翌日、「一身上の都合」を理由に辞職。「脅迫から家族を守るため」と語っていた。
ところが、その後も立花容疑者は発信を続けた。昨年12月に大阪府泉大津市長選に立候補したが、その街頭演説で「何も言わずに去っていった竹内議員は、めっちゃやばいね。警察の取り調べを受けているのは多分間違いない」などと発言。
当の竹内氏は1月18日に亡くなった。自死だった。
竹内氏の死後も、立花容疑者は容赦なかった。Xやユーチューブに「竹内元県議は県警からの継続的な任意の取り調べを受けていた」「明日逮捕される予定だった」などと投稿。
ついに竹内氏の妻(50)が意を決して名誉毀損容疑で告訴、兵庫県警は6月に受理し任意で事情聴取するなど捜査を進めていた。
立花容疑者は、事情聴取を複数回受けた後もなおユーチューブ動画で「真実相当性がある」「竹内元県議が私の誹謗(ひぼう)中傷によってお亡くなりになったとは思っていません」などと主張していた。逮捕後、竹内氏の妻は「混乱は収まっていません。ただ仏前に報告できたことは、一つの大きな区切りになったと思います」などとコメントした。
異例の逮捕 三つの理由
この事件―。経緯を見ればきわめて深刻な問題がヤマほどある。政治とSNSのかかわり、偽情報が世論につながっていく危険な社会、そして何より命さえ奪っていく……。
通常、名誉毀損罪は逮捕までいくケースは稀(まれ)だ。県警が逮捕に踏み切った背景には何があったのか。冒頭の旧知の警察庁OBは三つの理由を挙げた。
まず、逮捕の理由の…