「牛乳だけ」よりずっと効果的…医師「必ず一緒に摂って」と断言、骨を強くする
7/6 17:17 配信
健康を保つにはどんなことに気を付けたほうがいいか。『人は背中から老いていく』(アスコム)を書いた、順天堂大学医学部の野尻英俊先任准教授は「骨を丈夫にするために牛乳を飲んでいる人がいるが、牛乳だけを飲んでも骨は強くならない。カルシウムやたんぱく質も重要だが、あまり意識されていない重要な栄養素がある」という。医療・健康コミュニケーター高橋誠さんが聞いた――。■「牛乳を飲んでいれば安心」は本当か? 「背中の丸まりは死亡リスクを約2倍に高める」──そんな衝撃的な研究結果もあります。背中の老化は、単なる見た目の変化ではなく、“命に関わる問題”なのです。 そして今回のテーマは、「背中の老化を防ぐために、何を食べればいいのか?」という栄養の話です。「骨にはカルシウム、筋肉にはたんぱく質」と思って、牛乳やお肉をしっかり摂っている方も多いでしょう。もちろん、それは基本として正しいのですが、実はもうひとつ、見落とされがちな栄養素があります。 それがビタミンDです。背中の筋肉と骨をしっかり保つには、この栄養素の“サポート力”が欠かせません。今回は、そのビタミンDに注目していきます。 多くの人が「骨にはカルシウム、だから牛乳」と思い込みがちですが、それだけでは骨折予防には不十分です。実際、骨の形成や維持には、カルシウムと並んでビタミンDやビタミンKの働きが欠かせません。 カルシウムをしっかり摂っていても、ビタミンDが不足していると、腸からの吸収が十分に行われず、骨への取り込みも進みにくくなります。私の外来でも、「毎朝ヨーグルトや牛乳は摂っているのに骨折した」と驚かれる患者さんは少なくありません。
大切なのは「カルシウムを摂れば安心」ではなく、「ビタミンDとセットで骨を守る」という視点です。牛乳はもちろんよい食品ですが、それに干ししいたけや魚、きくらげ、しらす干しなどを組み合わせることで、骨を支える栄養バランスが整っていきます。
■「ベランダでのひなたぼっこ」が骨に効く 骨といえばカルシウム、というイメージが強いですが、それだけでは足りません。ビタミンDがなければ、カルシウムはうまく吸収されず、骨も強くならないのです。牛乳を飲んで、肉を食べていれば安心、というわけではありません。 しかもこのビタミンD、筋肉の健康にも大きく関わっていることがわかってきました。特に背骨を支える深部の筋肉、脊柱起立筋や多裂筋は、ビタミンDが不足するとしぼんでしまうことが、動物実験でも確認されています。 その結果、姿勢が崩れやすくなり、転倒や骨折のリスクも高まるのです。 ビタミンDは、食事だけでなく運動との組み合わせによって、より効果的に作用します。最近の研究では、「ビタミンDの補給+筋力・体幹運動」が、歩行能力や姿勢の改善に有効であることが示されています。 1日数分の「老い出し体操」や、歩行時の姿勢を意識するだけでも、ビタミンDの効果を高めることができるのではと期待しています。 ビタミンDは、日光に当たることで皮膚でも合成されます。顔や手の甲に15分ほど日を浴びるだけでも効果があります。日光を避けすぎると、慢性的な不足に陥りやすくなります。私は診察で、「朝にベランダでひなたぼっこを」「日中の散歩を」とよく話します。■背中の老化には男女差がある 実は、背中の老化には男女で違いがあります。男性は女性に比べ骨の問題が出にくい傾向があります。 男性は座りすぎや運動不足で筋肉量が落ち、椎間板変性と相まって後弯が常態化しがち。女性は閉経後にホルモンの影響で骨がもろくなりやすく、骨と筋肉の同時低下に注意が必要です。 また、「腰が痛い」と来院された方の中には、実は背中(胸椎)が原因だったというケースが少なくありません。 背骨が崩れると体のバランスが乱れ、腰や膝に負担がかかります。背中が丸まると、他の部位でかばおうとする“代償”が起き、痛みにつながるのです。
それぞれに合った対策が必要ですが、共通して大切なのは、背中を意識して使い、ビタミンDを補うことです。早期対策によって、背中の老化を食い止め、健康寿命を延ばすことができます。
■青魚・卵・きのこを食べたほうがいい ビタミンDの不足は、自覚症状が出にくく「隠れ欠乏」として見逃されがちです。特に女性、高齢者、日光を浴びる機会が少ない人は注意が必要です。健康診断でのちほど解説する血中の「25(OH)D濃度」を測って、はじめて不足に気づく方がほとんどです。 ビタミンDが欠乏すると、風邪をひきやすい、足腰のふらつき、日中の眠気、気分の落ち込みといった症状が現れることがあります。こうした不調は「年のせい」と見過ごされがちですが、栄養の乱れが関係していることもあるのです。 令和元年度の国民健康・栄養調査(厚生労働省)によると、日本人の1日あたりのビタミンD平均摂取量は6.9μgで、目安とされる8.5μgを下回っています。 また、「2020年版 日本人の食事摂取基準」では、成人のビタミンD摂取の目安を8.5μg/日としていますが、これは「ある程度、日光を浴びていること」を前提にした数値です。現代のように日光を浴びる機会が少ない生活では、この量では足りない可能性があるとも言われています。私は診察室で、「まずは食事でビタミンDを意識的にとりましょう」とお話ししています。 おすすめ食材は、サケ・サンマ・サバなどの青魚、干ししいたけやきくらげ(天日干しが効果的)、しらす干し、卵黄、牛レバーなど。たとえば焼き魚+卵+きのこの味噌汁など、和食の中にはビタミンDをとれる工夫がたくさんあります。まずは毎日の食卓を見直すことが、健康への第一歩です。■ビタミンD不足は体調不良の原因 「自分はビタミンDが足りているのだろうか?」──そんな疑問を持たれた方には、血液検査での確認をおすすめします。 病院によっては健康診断のオプションや自費検査として「25(OH)D」という指標を測ることができます。これは体内のビタミンDの蓄積状態を示すもので、20ng/mL未満が欠乏、30ng/mL以上が十分とされています。
特に閉経後の女性や、外出が少ない高齢者は、気づかぬうちに「隠れビタミンD欠乏」に陥っていることが多いため、一度チェックしてみるとよいでしょう。ビタミンDの充足は、骨や筋肉だけでなく、免疫力や感染症リスクにも関わる重要な指標です。
■「背中を支える筋肉」はいつの間にかヨボヨボに 背中が丸くなるのは、筋肉・骨・椎間板の3つが加齢とともに変化していくからです。以下、それぞれの変化について説明しましょう。 筋肉の減少「サルコペニア」 背骨を支える筋肉は、加齢や運動不足により、驚くほど早く衰えていきます。現代では、スマートフォンやパソコンに向かう時間が長く、前かがみ姿勢が常態化していることで、筋肉を「使わない」生活が無意識のうちに進んでいます。 なかでも、脊柱起立筋や多裂筋といった深部の筋肉は、「意識して使わなければ、自然と衰えていく」特性があります。これらは、私たちが直立姿勢を保つために欠かせない“抗重力筋”です。 近年の研究では、サルコペニア(加齢性筋肉減少症)がある高齢者は、そうでない人に比べて転倒リスクが約1.9倍、骨折リスクも約1.7倍に高まることが示されています。 つまり、背中を支える筋肉の衰えは、姿勢や見た目だけでなく、身体全体の機能低下につながりやすいのです。やがて転倒を招き、骨折、そして寝たきりという、負の連鎖に発展しかねません。 だからこそ、筋肉の維持には「日々の意識と習慣」が不可欠です。第2回でご紹介した「老い出し体操」を、1日数分でも継続することで、抗重力筋を守る第一歩になります。■“痛まない骨折”が姿勢を歪める 「いつのまにか骨折」 「転んだ覚えはないのに背中が曲がってきた」という方の中には、気づかぬうちに背骨が潰れる圧迫骨折を起こしている人が少なくありません。この骨折は痛みが出にくいため見逃されがちですが、姿勢や歩行に大きな影響を及ぼします。進行すれば、背骨がどんどん丸くなり寝たきりへのリスクも高まります。 椎間板の変性 背骨の骨と骨の間にある「椎間板」は、水分をたっぷり含んだ“座布団”のような存在です。しかし、加齢により水分が抜けてつぶれていくと、背骨のS字カーブが崩れ、姿勢も前方に倒れる方向に変化していきます。
ビタミンDは椎間板に直接作用するわけではありませんが、それを支える筋力の維持に重要な役割を果たしており、間接的に負担軽減につながります。
■背中の未来を守る4つの習慣 ある70代の女性患者さんが、腰が曲がって歩きづらいと相談に来られました。検査の結果、大きな病気はなく、「老い出し体操」と日光浴、散歩を毎日の習慣にしてもらうことにしました。 数カ月後、再び来院されたその方は、まるで別人のように背すじを伸ばし、「先生に言われた通り、朝の散歩とひなたぼっこを日課にして、少しずつ背中を動かしています」と笑顔で話してくれました。背すじを意識することは、心の姿勢にもつながる──そんなことを教えてくれた出来事でした。 背中の健康は、日々の小さな心がけの積み重ねによって守られます。私は診察室で、患者さんにこうお伝えしています。 「今日の食事と行動が、10年後の姿勢をつくります。なかでもビタミンDは、背中の老化を食い止める第一歩となる重要な栄養素です」 たとえば──干ししいたけ、きくらげを食材に加える。サバの味噌煮を夕食に選ぶ。朝、ベランダで日差しを浴びる。そんなほんのわずかな習慣の変化が、将来の背中を大きく左右するのです。 「ビタミンDを意識して、今日はきくらげにしてみようかな」──そう思っていただけたなら、嬉しいです。----------【背中の未来を守る4つの習慣チェック】1.食事:ビタミンDを多く含む食材(干ししいたけ・きくらげ・青魚など)を意識して選ぶ2.日光浴:毎日15分程度、手や顔に日光を当てて体内でビタミンDを合成する3.運動:背中の丸みに気づいたらすぐに背すじを伸ばす「老い出し体操」を習慣に4.歩行:「かかと着地」「前方注視」「背すじを意識」の3点を意識して歩く---------- とくに歩行時には、「後頭部が天井から糸で引っぱられている」ような感覚で背すじを伸ばしてみてください。深部筋(抗重力筋)が自然と活性化し、背骨全体が支えられていきます。 背中の老化は、音もなく進行する「沈黙の変化」です。しかし、気づいた今からでも遅くはありません。筋肉・骨・椎間板は、毎日の生活習慣によってその健康状態が大きく変わります。つまり──背中の未来は、今日の選択で変えられるのです。----------野尻 英俊(のじり・ひでとし)医師、医学博士整形外科専門医、脊椎脊髄外科専門医、脊椎脊髄外科指導医。1997年、順天堂大学医学部を卒業後、同大学附属順天堂医院にてキャリアをスタート。的確な診断と精度の高い手術を心がけて研鑽を積み、これまでに数多くの背中に問題を抱える人々を救ってきた。現在は、2019年に新設された同大学の脊椎脊髄センターで、副センター長の重責を担っている。専門は脊椎変性疾患、脊柱変形。著書に『人は背中から老いていく 丸まった背中の改善が、「動ける体」のはじまり』(アスコム)がある。--------------------高橋 誠(たかはし・まこと)医療・健康コミュニケーター 病院広報コンサルタント1963年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。ミズノスポーツ広報宣伝部、リクルート宣伝企画部、米国西海岸最大の製函会社でのパッケージ・デザイン営業・マーケティング(LA12年)、ゴルフ場経営(山梨2年)、学校法人慈恵大学広報推進室長(東京16年)を経て、2020年より現職。日米複数法人通算40年の広報宣伝業務を通じ、メディア・医療関係者と幅広い交流網を構築。現職にてメディアと医師をつなぐ。プレジデントオンライン「ドクターに聞く“健康長寿の秘訣”」、月刊美楽「幸せなおじいちゃん、おばあちゃんになろう」、月刊源喜通信「食と健康」で医療・健康コラムを連載中。主な出版プロデュースは『世界一の心臓血管外科医が教える 善玉血液のつくり方』(2025年、渡邊剛著、坂本昌也監修、あさ出版)、『心を安定させる方法』(2024年、渡邊剛著、アスコム)。趣味はゴルフ、ワイン(日本ソムリエ協会ワインエキスパート#58)。
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プレジデントオンライン
最終更新:7/7(月) 9:56