高校無償化は「公立を減らす施策」? 大阪の隣で起きたこと
高校の授業料無償化を巡り、政府は2025年度から所得制限を撤廃し、26年度からは私立生がいる世帯への加算額を引き上げる。教育費負担の軽減や教育機会の均等が狙いだが、公立の定員割れを加速させるとの指摘もある。
一般社団法人「全国高校PTA連合会」の前会長、山田博章さん(66)は無償化に賛成しつつ、地元・和歌山で起きたある変化から「公立離れが加速する」と懸念する。【聞き手・斎藤文太郎】
高校無償化は経済的な事情で希望通りに進学できない子どもに道を開く可能性がある一方で、逆に格差を助長したり、公立の定員割れを招くなどの懸念もあります。 どのように制度設計するのが望ましいのか、有識者に聞きました。日本大の末冨芳教授と慶応大の赤林英夫教授へのインタビューは以下です。
▽高校無償化、私立も対象にすべきか? 専門家「学ぶ権利は等しく」
▽高校無償化で「公立・私立のバランスが崩壊」 格差拡大の懸念も
学校側の負担軽減にはなるが…
――高校無償化への賛否は。
◆元保護者という立場で言えば、無償化には当然賛成だ。授業料の負担が安いに越したことはない。賛成か反対かを問われたら、賛成としか言えない。
授業料は保護者にとって小さくない額だ。私の子どもが高校に入学する際には、子どもたちは特に私立を希望していたわけではないので、当然のように県立(公立)に入学した 。
当時の高校では無償化のための手続きが煩雑で、世帯年収が所得制限の範囲内であるかどうかを証明するためにはさまざまな書類をそろえて提出する必要があり、事務担当者も「通常の業務に加え、書類がそろっているかをチェックして手続きをするのがすごく大変だ」と話していた。
世帯年収が所得制限の範囲内だったこともあり、子どもが通った高校では無償化のための手続きをしてもらった。その時にはさまざまな書類をそろえて高校の事務室とやりとりをしなければならなかった。事務担当者も「書類をそろえて手続きをするのがすごく大変だ」と話していた。
今回、年収要件がなくなることで、学校が生徒ごとの家庭の経済事情を把握する必要がなくなるとすれば、学校の教員や事務担当者にとってかなり負担が軽減されるのではないか。学校側にとっては良いことだろう。
ただ、やはり、年収1000万円を大幅に超えるような家庭に対して、なぜ無償にしないといけないのかというような複雑な気持ちもある。
――和歌山県をはじめ、地方では定員割れの高校も多い。
◆和歌山県は人口減少が進んでおり、過疎地域も多い。特に県南部では少子化が著しく、公立高ではすでに一定の統廃合が進められてきた。
それでも定員割れとなっている高校が少なくない。ただ、「これ以上公立がなくなったら、自宅から通える高校がなくなる」という地域もあるのが実情だ。
和歌山県にある私立の数はごく限られており、現在、私立に通っている人は授業料の負担がある程度大きくなることを覚悟の上で通っている。
確かに支援があるのが望ましいのは間違いないが…