2025年度【第1回】CiRA研究インターンシッププログラム 成果発表会
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Internship
2025年9月3日
2025年度【第1回】CiRA研究インターンシッププログラム 成果発表会
CiRAでは、国内外の学部生・大学院生を対象に、2015年度からインターンシッププログラムを実施しています。参加者は夏季の1〜6週間にわたり各研究室に所属し、基礎的な研究活動に従事しながら、iPS細胞に関わる実験操作や研究手法を学びます。そして主任研究者や指導者からの助言を受けて、各自のテーマに取り組みます。 CiRAでのインターンシップは、技術習得だけでなく、研究の社会実装や生命倫理といった広範な視点を学ぶ機会でもあります。ここで得た経験が参加者のキャリア形成の糧となり、将来、iPS細胞に関わる研究を牽引する次世代の担い手へと成長することが期待されています。
このインターンシップの成果を発表するため、3回にわたって報告会が開催されます。各回の様子を紹介していきます。
成果発表会の様子ー参加者による活発な質疑応答
2025年8月6日にCiRA研究インターンシッププログラムに参加した学生による、第1回目の成果発表会が講堂で開催されました。2名による口頭発表の後、3名がポスター発表を行い、それぞれの取り組みを報告しました。当日は数十名のCiRAの研究者や学生が聴講し、質疑応答が活発に行われました。専門的・技術的な議論からプレゼンテーション方法の具体的な助言まで飛び交い、実践的な意見交換の場となりました。
研究インターンシッププログラムに参加した学生が成果発表する様子
出口佳哉さん
横浜国立大学大学院 理工学府 化学・生命系理工学専攻博士課程前期1年の出口佳哉さんが口頭発表しました。1型糖尿病に強く関心を持っていることから、iPS細胞からつくられた膵島(※1)細胞の医学応用を目指す豊田太郎グループ(未来生命科学開拓部門 山中伸弥研究室)で、約4週間のインターンシップを経験しました。
膵島移植のドナー不足が課題となる中、将来的な移植が期待されるiPS細胞由来の膵島細胞が、移植後の環境やストレスにどう適応するかを調べるために、出口さんは、細胞内に特定のストレスを与えて発現するGLP-1受容体(※2)の挙動についての研究を行いました。分かりやすく簡潔にまとめられた図表と解説で、最初の発表を務めました。
発表を終え、「in vitro(試験管内)の基礎的な実験ではありますが、いつか1型糖尿病の完治に繋がるかもしれない実験の一旦を担うことができたのは、大きな達成感がありました」と出口さん。今回のインターンシップの充実した様子が伝わりました。
石川夏美さん
続いて、オランダのユトレヒト大学2年生で、分子細胞生物学と医学科の学士号取得を目指している石川夏美さんが発表しました。6週間のインターンシップを櫻井英俊研究室(臨床応用研究部門)で経験しました。同研究室は、iPS細胞を用いて難治性の筋疾患の治療法開発を目指しています。
細胞を培養する際、細胞が本来の環境に近い状態で培養できるように、また細胞の成長を促すように、足場として「マトリゲル(※3)」という培地が広く使われます。石川さんは、iPS細胞を培養して骨格筋などを作る際、培地の成分のうち特にラミニンとコラーゲンに注目し、組成を変えるとより培養の効率を高められるのではないかと考え、検討実験とその研究成果を発表しました。発表資料に込められた豊富な情報からも、今回の研究に費やした多くの時間と密度の濃さが伝わるようでした。
「研究者になることにより強く関心を持つようになりました。櫻井研究室のメンバーに温かく迎えていただき、とても感謝しています。また戻ってくることができたら嬉しいです」とインターンシップでの様子を笑顔で話しました。
Hansley Kurniawanさん
インドネシアのバンドン工科大学 生物工学部修士課程2年のHansley Kurniawanさんは、池谷真研究室(臨床応用研究部門)に受け入れられ、6週間にわたる研究に取り組みました。
成人から採取した間葉系間質細胞(※4)とそこから分泌される細胞外小胞(※5)は、その多様な能力から再生医療における大きな可能性を秘めています。しかし、ドナーごとの性質の違いや、時間の経過による変化などの課題があります。そこで、iPS細胞はこれらの問題を解決する代替ソースとして期待されています。
Kurniawanさんは、まずiPS細胞から間葉系間質細胞を作る過程における、効率的な培養方法を検討しました。そして、その細胞から分泌される細胞外小胞に対し、マルチオミクス解析(※6)を用いて、潜在的な特性を同定する研究の成果を発表しました。
Kurniawanさんは、「CiRAの博士課程への進学を目指しています。これからも研究を続けたいです」と力強く今後の希望を語りました。
宍戸萌恵さん
米国ブラウン大学 プレメディカルの生化学・分子生物学専攻で2年の宍戸萌恵さんは、脊椎腫瘍や脊索腫の免疫療法について研究をしながら、同大学のウォーレン・アルパート医学部の学部研究生としても活動しています。「ノーベル賞を受賞した山中伸弥先生に興味がありましたし、iPS細胞は自分の今後の研究にも親和性があると考えました」とインターンシップへの応募の動機を語りました。
3週間の受け入れ先となった金子新研究室(増殖分化機構研究部門)において、宍戸さんは、まずiPS細胞を血液のもととなる造血前駆細胞に分化させる技術を習得し、その過程を解析しました。また、現在進行中のEpas1(※7)遺伝子に関する研究についても発表しました。そこでは、CRISPR/Cas9(※8)と組換えプラスミド技術を用いて、iPS細胞由来分化造血前駆細胞やiPS細胞由来T細胞およびCAR-T細胞におけるEpas1の役割を明らかにしています。
「来学期からはin vivo(生体内)での研究を始めます。医学部進学後も、これまでの研究にiPS細胞について学んだことを応用できればと思っています」と宍戸さん。終始活気に満ちた様子からは、今後のさらなる活躍が期待されます。
Estella Aomi Wittstruckさん
米国イェール大学 分子・細胞・発生生物学部2年生のEstella Aomi Wittstruckさんは、「従来の研究手法では解決の難しかった倫理的・技術的な障壁を克服して、初めてナイーブ型iPS細胞(※9)を用いて、ヒトの発生初期を研究する革新的な方法を模索・確立した高島研究室に、心から敬意を表しています」と、今回のインターンシップで髙島康弘研究室(未来生命科学開拓部門)を希望した理由を語りました。
Wittstruckさんは、体外で胎盤の発生を研究する手法である、組織片培養法(※10)とオルガノイド(※11)の培養法において、その培養過程での効率の改善と、作製されるオルガノイドの層の構造の問題に注目しました。細胞を培養する際に一般的に使用される培地や手順方法に対し、このプロジェクト用に調製された培地と工程を変えた手順を用いて比較検討実験を行い、3週間にわたる研究成果を発表しました。
インタビューや質疑応答中に、慎重に言葉を選びながらも、落ち着いて的確な返答をする前向きな姿勢がとても印象的でした。
(※1) 膵島 膵臓の中に点々と散らばっている、インスリンを作る細胞の塊。
(※2) GLP-1受容体 インスリンの分泌を促すホルモンのGLP−1が結合する、受け側のタンパク質。
(※3) マトリゲル 細胞外基質タンパク質に富む腫瘍であるEHSマウス肉腫細胞から単離した再構成基底膜。
(※4) 間葉系間質細胞 骨、軟骨、脂肪、神経など様々な細胞に分化することが知られている細胞。
(※5) 細胞外小胞 細胞から分泌される、タンパク質や核酸などの生体分子を内包する膜小胞。
(※6) マルチオミクス解析 遺伝子やタンパク質、代謝物など、生物の体内で重要な役割を果たす複数の要素を統合的・網羅的に解析する手法。
(※7) Epas1 酸素により調節される遺伝子誘導に関与する転写因子。
(※8) CRISPR/Cas9 ゲノム編集技術の一種で、特定のDNA配列をピンポイントで認識・切断し、遺伝子を改変するツール。
(※10) 組織片培養法 生体から取り出した組織片を、生体外で培養する技術。
(※11) オルガノイド 生体外において幹細胞を三次元的に培養して得られる組織。
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取材・執筆した人:森井 あす香
京都大学iPS細胞研究所(CiRA) 江藤研究室